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このタイトルに反応したあなた。アラフォーですね。わからない方は検索してみてください。
でも、今回のコラムは“あの”ヒット曲に関するものではありません。「タンジブルな」マーケティングのお話です。
「タンジブル(tangible)」は、日本ではあまり聞きなれない言葉だと思いますが、英語ではよく使われる形容詞です。「触ることができる」「形がある」というのが元々の意味ですが、そこから転じてコンセプトやアイデアなど形のないものが「具体的で理解しやすい」というようなニュアンスでも使われます。
まったくタンジブルではなかった、マーケティングの戦略
さて、マーケティング・ブランディングの戦略は「タンジブル」でしょうか。多くの場合、そうではありません。古典と呼ばれているマーケティングの教科書は、どれも分厚いですよね。そこにはコンセプトやフレームワークが沢山登場し、曰く「決めなくてはいけないこと」が目白押しです。私の知能の問題も多分にあるとは思いますが、長いことマーケティングの実務をやってきても、それらのコンセプトやフレームワークの多くがあまり「タンジブル」には感じられません。
市場をセグメント化し、ターゲットを決めて、ポジショニングを設定する。もうこの時点ですでによく分からないことを告白します。もちろん概念としては分かりますよ。でも、“タンジブルには”理解できません。ブランドステートメント、ブランドアトリビュート、ブランドパーソナリティー、何が違うの?
これも正直に申し上げると“タンジブルには”理解できません。
はっきり言って、抽象的で分かりにくい。だからこそ「マーケティングとブランディングの違いは何か?」という議論がツイッター上で巻き起こったり、誰かが「ブランディングとは、こうである」などというと、「それは違う!」と怒り出す人が出てくるわけです。
実務の現場では、そんな状態のまま、「手に触れることができない」マーケティング・ブランディング戦略を作り上げることに、膨大な時間と労力が費やされています。具体的には、ブランドのポジショニングを4象限で整理したり、ブランドの人格はこうあるべきで、それの根拠はかくあるべきだ、などと議論します。それだけで何だか仕事をしている気がしてしまうものです。
さらには、それを広告などの企画にして実行するわけですが、実現したいこと自体がタンジブルではないので、その施策が正しいかどうかは結局よくわかりませんし、その効果のほども同じくです。
もちろん、ブランド・トラッキング・サーベイ(BTS)などのアンケート調査を実施して、「そのブランドがどう思われているか」を調べることはできます。例えば、とある化粧品ブランドのステートメントが「本当の自分でいられること」だとします。化粧をしている時点で「本当の自分じゃないだろ」という気もしますが、この手のブランドステートメントを設定しているブランドは、コスメ・ビューティーカテゴリーで結構多いのではないでしょうか。
まあ、それはさておき。「自分らしくいられる」「本当の自分でいられる」というアトリビュート(特性)が、そのブランドについてどの程度評価されているかは、そのアンケート調査で分かりますし、広告キャンペーンを実施した前後でそれがどう変化したかも把握することは可能です。
しかし、ある化粧品について、それが自分にとって「自分らしくいられる」ものかどうかなんて聞かれて、人は分かるものでしょうか。なんとなくは分かると思いますが、それこそタンジブルには理解できません。そもそも、その戦略を設定した当事者の間でも、それがタンジブルに理解され、共有されていることはほとんどないでしょう。
そうなると、調査をしてもその結果は正確にはなり得ないですし、だとすると施策が正しかったのかどうかも結局のところ分かりません。報道など広告以外の効果が入ってしまう、という調査の自体の限界もありますが、その話はここでは置いておきましょう。