1850年 同社が米国で誕生して以来変わらずに大切にしているブランドのコアバリューともいえる「サービス」「信頼」「安心」といった要素は踏襲しながら、昨今の消費者のライフスタイルの変化に合わせ、新しいブランドの立ち位置を表す「パワフル・バッキング(Powerful Backing)」というアイデアを提示。2018年から、様々なコミュニケーションや施策を通じて、グローバルでブランドのリポジショニングに積極的に取り組んでいる。
世界130以上の国や地域でビジネスを展開し、170年近い歴史を有する同社が、このタイミングでリブランドを決断した背景にあるものはなにか。新ブランドの考え方や導入に向けた戦略などとあわせて、グローバルで新ブランドの立ち上げをリードしたキーパーソンの1名である、Global Brand Management & Planningの上級副社長※であるClayton F Ruebensaal 氏(以下:クレイトン氏)に、リブランディングの背景、またその実行に際してのポイントを聞いた。
※肩書は、2018年11月時点でのもの。
──クレイトンさんが所属するGlobal Brand Management & Planningとはアメリカン・エキスプレス社内においてどのような役割を担うのでしょうか。
私のチームの役割は、190億ドルの価値を持つと言われるアメリカン・エキスプレスのブランド価値をさらに高めることにあります。ブランド価値の向上には、価格上のプレミアム(付加価値)を生み出すこと、そして顧客のロイヤルティを高めるをことの2つの意味があると考えていますが、双方が私たちのチームの役割です。
──アメリカン・エキスプレスは、2018年4月(日本では5月)から新たなグローバル・ブランド戦略を発表し、それに基づくコミュニケーションを導入しました。なぜ、このタイミングで新しい挑戦を始めたのでしょうか。
それは、今実施しなければならなかったというのが答えになります。今、世界中で起きている様々な変化を目の当たりにし、これを活かさない手はないと考えたからです。その変化というのが「グローバリゼーション」、そして「仕事とプライベートの融合」になります。
「グローバリゼーション」について、国境を越えた人々の交流は、私たちの世界をより小さなものにし、テクノロジーの爆発的な進化によって、私たちはこれまで以上に人とつながるようになりました。
もうひとつの「仕事とプライベートの融合」も、昨今の非常に大きなトレンドです。かつて人々はひとつの会社だけに属し、そこから収入を得て生活していました。また仕事とは職場でするもので、家に持ち帰るという考えはありませんでした。しかしシェアリングエコノミーの急速な発達や、非正規雇用の増加など雇用形態の変化により、労働環境は流動化し、働き方が多様化するようになりました。
これにより、複数の収入源を持つ人々が出現し、場合によっては5つもの給与明細をもらう人も出てきています。こうした変化の結果として、仕事とプライベートの融合という変化が起きるようになりました。アメリカン・エキスプレスは、いわゆる一般のお客様を対象にしたB to Cのビジネスだけではなく、大企業や個人事業主やスタートアップなど、B to Bのビジネスも同等に展開し、その両方の専門性を有しており、皆さんの仕事とプライベートと、両方で役に立てるブランドだと考えているので、この変化は歓迎しています。
──ローンチしてからこれまでのキャンペーンの反響は、いかがでしょうか?
新しいブランド・ストラテジーはアメリカン・エキスプレスにとって売上を高める(Make Money)ものであるとともに、ビジネスを効率的にまわす(Save Money)として機能すべきだと考えています。“Make Money”においては、我々が効率よく競えるような新規カテゴリーに進出し、新規顧客を獲得してビジネスを成長させることができるということです。また、“Save Money”とは、プロジェクトごとに細かく戦略を変えるのではなく、ひとつの戦略に基づきすべてを統一することで、効率化を図るという意味です。
今のところ、この新しいブランド戦略が最も効果を発揮しているのは、グローバルで展開するスケールメリットになります。最初の6カ月の間に、57もの市場で新ブランドをローンチしましたが、それは、この取り組みが単なるマーケティングにとどまらず、私たちのマネジメント(経営)までをも変えることを目指したものであった、ということです。また、顧客に対するコミュニケーションという観点で見ても、広告表現から、顧客サービスでのやり取りにいたるまで、メッセージが一貫するようになりました。
さらに、この新しいブランド戦略に基づく考えは、アメリカン・エキスプレスの社員が、当社で働くことの意義を見出し、職場のカルチャーを定義する際の核にもなっています。
──今回、ロゴも含めてすべてのクリエイティブを新しくしたとのことですが、広告クリエイティブにも使われている「そう、人生には、これがいる。」というタグラインや、ビジュアルでアメックスさんのカードの券面を手書き風にあしらったクリエイティブにはどんな意図があるのでしょう?
いわゆる「ブルー・ボックス」と呼ばれる、アメリカン・エキスプレスのロゴは、1975年に制作され世界中で親しまれていました。しかし近年インターネットが浸透し、スマートフォンが広がる中で、「ブルー・ボックス」は、比較的スペースの小さい、デジタル上のコミュニケーションでは適さない場面も出てきていました。そこで今回、ロゴを刷新することを決断したのです。本来のアメリカン・エキスプレスとしての見え方は大事にしつつ、時代に合わせて合理的に進化したと考えています。「AMEX」と略称を使用したロゴを作成したのはその象徴です。
手書きの券面のイメージは、魔法のようなクリエイティブで生み出されました。私のこれまでの経歴の中でも、あれほどまでに力強いクリエイティブはなかなか見かけません。色々な国で見込み顧客の方々を対象に行う調査においても、「まるでアメリカン・エキスプレスが私たちと対話をしたいと言っているかのように感じた」という意見をいただきました。こんなことはこれまでになかったことです。彼らからすれば、アメリカン・エキスプレスが、彼らを中心にして考えているように感じたのでしょう。
──新しいデザインの制作するにあたって、人々のライフスタイルの中で考慮した点はありますか?
小さなスペースにおいて、ブランドをいかに大きく感じてもらえるかということです。消費者とブランドのコミュニケーションの場が、より小さなスペースになっていくという点を特に考慮し、デジタル、特にスマートフォンのような小さなスペースにおけるコミュニケーションで強力な印象を残せることを実現できれば、より大きなスペースや、イベントのようなオフラインの接点においても、ブランドが有効に機能すると考えたからです。
私たちのこれまでの「ブルー・ボックス」ロゴは、オンライン決済の場や、ソーシャルメディア、メールマーケティングの場では扱いが難しいため、アメリカン・エキスプレスらしさを残しながら、小規模なスペースで最適なものが必要と考え、ブランドの略称を使用した「AMEX」ロゴができあがりました。発音すると「アメックス」となりますが、読まれる方はもちろんアメリカン・エキスプレスのことを思い浮かべます。シンプルに見えて、工夫を凝らしたデザインです。
──運送業から金融業へ、さらにトラベラーズチェックの発行から現在のクレジットカード事業へとアメリカン・エキスプレスは常に時代に合わせて、常にアップデートを続けてきた企業だと思います。今後の事業やサービスの革新と今回の新ブランド戦略の関り関係性を教えてください。
この新しいブランド戦略は、アメリカン・エキスプレスが新商品や新サービスを開発するにあたって、レンズのように機能していくものです。今後、私たちが提供するすべてのサービス、商品は、すべてこの新しいブランド戦略に基づく考えや世界観に沿って開発されていきます。
もちろん、これからも「サービス」「信頼」、「安心」といったアメリカン・エキスプレスならではの価値は重視しながらも、今後はデジタルに慣れ親しみ、仕事とプライベートの境目があまりない今を生きる現代の人々のニーズに合わせた変革を遂げていくつもりです。グローバリゼーションが進む今の環境において、私たちアメリカン・エキスプレスだからこそ提供できる価値が、ますます増していくはずと考えています。
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