自分の頭の中にあるイメージや概念を明確に相手に伝えるのは難しいもの。まして、その話題が相手の知識や興味関心とかけ離れた内容であればなおさらです。
しかしながら、大きな企業になればなるほど、他部署との連携は必須であり、領域の異なる人間同士がそれぞれの業務の本質を理解し合いながらプロジェクトを進行していかなくてはいけません。
そのようなときに活躍するのが「たとえる力」です。話の骨格を抽出して身近なものに置き換えることで、円滑な相互理解が可能になります。
そしてそれは、なにも会社だけで役立つわけではありません。親子や友人同士、あるいは恋人同士でのコミュニケーションでもかならず役に立ちます。
本書では、数々の外資系企業で活躍してきたマーケターである著者が、相手と円滑にコミュニケーションをとることができるテクニック「たとえ話」について解説。納得できるたとえ話の構造と仕組みを解き明かし、「たとえる力」がもたらす3つのメリットを提示します。さらに、誰でも上手にたとえ話が作れる5つのステップを紹介。練習問題付きなので、より実践的に「たとえる力」を習得することができます。
◆著者より
ここ数年で急に「言語化」という言葉をよく聞くようになりました。「言語化」とは何でしょうか。「あの人は言語化能力が高くて羨ましい」などというとき、そこには「自分はそれができない」という含みがありますが、「あの人は言語化能力が高くて羨ましい」という文章自体が、自分の考えを「言語化」したものといえないのでしょうか。
巷で使われている「言語化」とは、単に何かを言葉にする、という意味ではないようです。何か、の「何」が大事なのです。
たとえば、様々なシーンで所かまわず使われる「エモい」という言葉にも、どこかに共通する定義のような、「骨格」があるはずです。それは本来形而上的な(形のない)もので、表現するのが難しいものだと思います。それでも、その形を無理やりにつかまえて、絵でも図でもない、他ならぬ言葉で表現する。これがおそらく巷で「言語化」と呼ばれていることです。抽象化して(骨格を抜き出して)、それを言葉にする、という2ステップがそこには隠れています。
この「抽象化」や「言語化」が注目を浴びるようになったのは、何かメッセージを「伝える」ということに難しさを感じる人が多くなったからではないでしょうか。価値観が多様化して、同じ世代の間にすら、様々なクラスター(集団) / トライブ(部族) / ミリュー(文化の境界線)が存在するようになりました。それによって、たとえば「それはさすがに草生えるわ」という言葉の意味を、特定のメディアを使っている人は理解しますが、別のメディアを使っている人は理解しない、というようなことが起こります。
「共感」が得られればそれでメッセージを伝えることができます。しかし、共通の価値観を持たない、異なる「部族」の間では共感が生まれにくく、メッセージを伝えるにはしっかりと意味を伝えなくてはいけません。たとえば、紅白歌合戦の米津玄師を「あれ最高にエモかったよね」と形容したとします。「わかる!」と共感してくれる同期はいいですが、眉をひそめる上司には「エモい」のなんたるやを説明しなくてはいけません。
その時、1.沢山の「エモい」の使われ方からその骨格を抜き出し、2.それをわかりやすく表現しなくてはいけない。1.が抽象化であり、2.のうちの一つの方法が、いわゆる「言語化」なのです。2.には他にも「図解する」という手段があったり、「たとえ話にする」という手段があったりします。本書はまさに2.の手法の一つ「たとえ話にする」ときのテクニックやポイントをまとめたものです。「抽象化」を経てたとえ話を作る過程は、必ずあなたの伝える力の幅を広げてくれるはずです。
◆『たとえる力で人生は変わる』 目次
誰でも「たとえ上手」になれる
1章 たとえる力とはなにか?
・自転車に乗れる人はバイクにも乗れる
・わかる・伝わる・ひらめく
・「たとえる力」はあと2000年すたれない
・「わかりにくい」の正体
2章 たとえ話のつくり方
・5つのステップで考えるたとえ話 日常編
友達を勇気づけるたとえ話
・5つのステップで考えるたとえ話 ビジネス編
会社の方針を正すたとえ話
3章 たとえ話を作ってみよう
・練習問題1
わかりにくいことをお客さんに伝えるたとえ話
・練習問題2
父親に仕事のことを説明するたとえ話
4章 英語のたとえ話
・Apple to orange (アップル・トゥー・オレンジ)
・It rings a bell(なんとなく覚えがある)
・Better the devil you know(知っている悪魔ならまだマシ)
・Nine women can’t make a baby in a month(9人の女性が集まっても赤ちゃんは1ヶ月では生まれない)
・Pie in the sky(絵に描いた餅)
著者
井上大輔(いのうえ・だいすけ)
OFFICE pianonoki
マーケター
ニュージーランド航空にてオンラインセールス部長、ユニリーバにてeコマース&デジタルマーケティングマネージャー、アウディジャパンにてメディア&クリエイティブマネージャーを経て2019年2月より現職。Advertimesにて「マーケティングを別名保存する」、週刊東洋経済にて「マーケティング神話の崩壊」執筆中。NewsPicksアカデミア プロフェッサー。著書に『デジタルマーケティングの実務ガイド』(宣伝会議)。