私たち博報堂ブランド・イノベーションデザインは、オーストリア・リンツ市にある世界的なクリエイティブ機関・アルスエレクトロニカと協働し、「アートシンキング」を日本社会にインストールするという目的で活動しています。
その活動の要の一つである、「アートシンキングプログラム」は、アートを経営や研究開発に取り入れ、アーティストと共に企業のビジョン・活動を未来起点で構想するプログラムです。これは企業のイノベーション創出支援サービスとして、中長期ビジョン開発や技術戦略立案、次世代クリエイティブ人材育成に採用され、今までに10社以上へ提供しています。
これはプログラム全体の概念図です。
右側のデザインシンキング(緑色部分)は、デザイナーの思考をデザイナー以外の人も取り入れ、クリエイティブな課題解決を図る手法です。生活者のニーズに合った製品やサービスを生み出すため、「生活者の行動観察」からチャンスを発見する、比較的短期的な課題解決の手段として捉えています。
一方、アートシンキング(赤色部分)は、アーティストの思考をアーティスト以外の人も取り入れ、「異分野の探求」からチャンスを発見する思考法です。世界中の先端テクノロジーやアートが提示する問題意識・未来社会像を通じて、今までの常識や慣習にとらわれず、真の課題を発見するプロセスとなります。こちらは未来の可能性を示唆するものを対象としているので、中長期のビジョン開発や技術戦略立案への一手となっています。
博報堂は、アートシンキングとデザインシンキングが、「真の課題を発見し、発見した課題を解決に導いていく」プロセスにおいて、互いに補完し合うものと考え、セットで提供しています。
「アートシンキングプログラム」には、いくつかのステップがあり、今回はそのうちの3つを抜粋してご紹介します。
2. Questioning/Visioning/企業として重視する問い・企業としてのビジョン
3. Prototyping/形にして発信することを通じた社会との対話
1.Artistic Research/未来の先行指標としてのアートからの触発
アート–異分野から企業自身の可能性・チャンスを発見する
私たちは、アルスエレクトロニカが持つ世界最高峰のキュレーション力・アーティストとしての力と、博報堂が持つ”生活者発想”を合わせ、これまでの既成概念にしばられることなく、課題自体を未来起点で捉え直すセッション(ディスカッション・ワークショップ)を実施しています。
まず博報堂が、未来洞察による社会動向や、企業の志向する事業領域などから課題を映し出す視点をいくつか抽出。その視点を刺激する、インスピレーションを与える作品・プロジェクトをアルスエレクトロニカのメンバーにキュレーション・紹介をしてもらい、企業ごとにカスタマイズした未来像を提供します。そのセッションにはアーティストにも参加をしてもらいます。
ここで言及するアートとは、鑑賞するファインアート、教養としてのアート(リベラルアーツ)とは違い、先端テクノロジーや開発中の技術を使って問題提起を行っているもの、テクノロジーの発展に伴うデメリットを描くものも含めて、これからの未来社会を変革し得る可能性を秘めた作品やプロジェクトを表しています。
また、ここで実施しているプログラムは、アート作品やプロジェクトのアイデア自体を批評する、もしくはその作品を模倣して何かを作り出すということではありません。アーティストは自分の意見や問題提起を言語化し、さらに体験化できるものに昇華している存在です。アーティスト・研究者が模索し、問題提起している活動や作品を通して、彼らの未来を切り取る視点を知り、自らの活動に置き換えて考える機会としています。
2.Questioning/Visioning/企業として重視する問い・企業としてのビジョン
企業としてではなく主語を自分に置き換える
田中 れな(たなか れな)
博報堂ブランド・イノベーションデザイン
クリエイティブプロデューサー
2007年博報堂入社。営業職として、様々な企業の広告制作、新商品開発、戦略ブランディング、メディアプランニングなど、ブランドのコミュニケーション設計に携わる。現在は世界的クリエイティブ機関アルスエレクトロニカとの共同プロジェクト「Ars Electronica Tokyo Initiative」を推進し、企業のイノベーション支援プログラムを多数提供している。
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