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【前回のコラム】「〜「コピーってどうやって教えるんですか?」第1回〜」はこちら
第1回に続き、「コピーライター養成講座 先輩コース」の「先輩」、下東史明氏に、コピーの教え方や、講座の内容について話を聞きます。
前回の最後に伺った「『言いたいこと』自体の視点が良ければコピーも良くなる」という「落とし穴」から、詳しく教えて下さい。
その落とし穴に気づいたのは、アシスタントにコピーを教えていたときでした。現在のアシスタントは1人なのですが、これまで僕には新卒のアシスタントが4人いました。そのうちの1人が、ある仕事のときに出したコピーに対して、「視点や提案性も良いのに、どうもコピーとして魅力的でない、というかコピーになってないな」と感じたことがありました。とにかく、レディメイドな言葉だけでコピーができていたんです。視点は柔軟だから「もっと広い視点を」というアドバイスは無意味だし、一方で「コピーになってないよ」と指摘するのは教えることにならない。正直、ちょっと焦りました(笑)。
その時は、「『言いたいこと』に対して『言い過ぎ』もしくは『言い足りない』のか、そのコピーがどちらの状態にあるかを検証した方がいい」ということ、そして、「そのためには、まずは言葉を大切にし、言葉の意味を自分なりに考える作業をたまにでいいからやってみたらどうかな?」と伝えました。
理解してくれましたか?
すぐには分からなかったようでした。アシスタントのうち1人目は元々オタク気質で、言葉以外に対しても1つのことを深掘ることが好きなようでしたが、2人目には十分に理解されなかったように感じています。3人目は特殊というか、B’zと広瀬香美と月9を愛する、とにかく世界観も違う天性の触覚(センス)を持った人間でして(笑)。現在の4人目は理解してくれていますね。
昨年末に映画監督・CMディレクターの石井克人さんと食事をしたのですが、興味深かいことがありました。それは、石井さんは特殊な水泳法を異常なほど極めようとしていたこと。他にも、自転車にものめりこんでいて、10台所有するほどでした。ご本人の仕事とも全く関係ないし、関係を持たせようとさえしていなかったんです。言葉以外に対しても、何かに向き合う姿勢は大切なのかもしれない、と再認識できました。
「言葉と向き合う姿勢」とは?
対象となる言葉は何でもいいのですが、例えば「貨幣」「お金」「カネ」という言葉それぞれが持つ「意味」について、辞書的意味でなく自分なりに考えたことのある人は、考えたことのない人より、「金融機関」や」「クレジットカード」のコピーを考えやすいのではないでしょうか。それはつまり、「記号」に頼らないコピーを書きやすい、ということでもあります。
こんな一見遠回りで面倒くさい作業を、たまにやろうと思えるかどうかが、言葉と向き合う姿勢の分かれ道なのだと思います。自覚なしに普段から向き合うことができている人もいるのでしょうが。
授業でもその姿勢を学べるのでしょうか。
姿勢は最終的には、自分で身につけてもらうことだと思っています。そのため、姿勢ができるかできないかは、受講者それぞれに任されています。授業では、作業をしてもらうことで、言葉と向き合う姿勢を「お試し」体験できるようにしています。
例えば、直近の当社のコピーライティング研修だと、「世界」と「社会」という言葉の持つ意味の違いについて考え、辞書を引くのではなく自分の言葉で自分なりの説明をしてもらいました。他にも「貧困」と「貧乏」の違い、「信頼」と「信用」の違いなどを考え、言語化する、などです。そうそう、この話をした時に、苦笑いした人たちがいたんです(笑)
苦笑い?
先日ちょうど、その研修の全体総括に出席しました。他のクラスに参加している社員や講師全員が集まって振り返りをする、というものです。自分のクラスでやった内容を僕が簡単に紹介しているとき、チラッと他の講師を見ると、なぜか苦笑いをしている。その瞬間は理由が分からなかったんですが、しばらくして統括役の先輩講師が、「『世界』と『社会』の違いを追求するなど、下東のクラスの人の中には、他のクラスの方が良かったと思う人もいるでしょう」と述べながら改めてコピーとは価値の再構築だ、といった内容の講義をしてた。
僕の話はいわゆる「コピーを教える」という話ではないのだと思ったのでしょう。「何を大げさにアカデミックで難解な話をするんだ」と、寂しく感じました。
自分の理解が及ばない物事に対して目を背ける人間を、僕は「ダサい」奴と呼んでいます。「幼い」や「バカ」「つまらない」ではなく「ダサい」を言葉として選ぶのはなぜか、と考えれば、それはそれで言葉におけるとても面白い発見もあるかもしれません。
講座の話に戻りますが、コピーを教えながら感じたのは、学ぶ側の姿勢で身につくボリュームが違うこと。やはり安くない授業料を払って参加してくださるので、基本的に学ぶことに貪欲だし積極的。最初難しいな?と感じられる話でも、納得してもらうまで僕もなるべく詳しく細かく伝えるようにしていますし、参加する皆さんもそれに応えてくれます。授業中に教室全体でお互いが「ユーレカ!※」みたいな瞬間を味わえるのは、気持ちがいいものです。
僕はあくまで「講演」ではなく「講義」の形式にしようと強く意識している分、決して眠くならずむしろ思わずペンをノートへ走らせたくなるように緊張感を持って臨んでいます。もちろん僕自身が「記号」を使って話す、もしくは教えないように注意しています。同じ作業でも「研修」とは大きく手ごたえが変わるはずです。
今年もやりますか?
そろそろ始まります。内容自体は前回と大きく変えるつもりはありませんが、テクニックの部分はより整理し、応用しやすいようにします。いつも授業時間をかなりオーバーしてしまうので、ぐっと削ぎ落とすか非常に悩みましたが、生徒の方からすれば授業料が安くなる訳じゃないので、むしろボリュームは増やそうかと割り切りました。
毎週土曜日の18時半開始、20時半終了予定なのですが、21時もしくは21時半までかかってしまうこともしばしば。土曜日夜なので「次の日のことを気にせずグイグイ学びたい」という方、大歓迎です。
(interviewee:Fumiaki Shimohigashi)
下東史明
博報堂 コピーライター
1981年 京都市生まれ。2004年 東京大学法学部卒業。同年(株)博報堂入社。第四制作局、第一クリエイティブセンターを経て現在、統合プラニング局。主な仕事にMINTIA「俺は持ってる。」、一本満足バー「まんまん満足。」、カルピスウォーター「ぜったい、いい夏に、しよう。」「キュン飲みしてる?」「私は好きだから。」、AQUOS「活きる力を起動する。」、エアーサロンパス「スポーツが好きだ、大好きだ!」、GABA「ハイ、そこでGABA。」、大和ハウス「アスフカケツノ」、GreenBird「ポイ捨てカッコ悪い」「ポイ捨て反対」、味の素「スープDELI」、NTTグループ「つなぐ。それは、ECO」、住友商事「もがき楽しめ。」、胡麻麦茶「血圧川柳」「高橋克実さん」、イエローハット、KOSE、JAL、IROZA、ほか。受賞歴にTCC新人賞、TCC審査委員長賞、ヤングカンヌ日本代表、JR東日本ポスターグランプリ金賞、日経広告賞、One Show(Merit)、新聞広告朝日賞、アジア太平洋広告祭ブロンズ、交通広告グランプリ作品賞著書に『あたまの地図帳』(朝日出版社) 『トレインイロ』(朝日出版社)TCC賞審査員、宣伝会議賞審査員も務める。
下東さんが講師を務めるコピーライター養成講座 先輩コースが2019年3月2日(土)から開講します。少し先を行く先輩から、コピーの学び方を学び、実務に生かしていく術を身につけていきます。くわしくはこちら。