「節電」がキーワードになった今年の夏。9月に入り比較的過ごしやすくなり、2日には政府が電力使用制限解除を9日に前倒しすると発表した。しかし、冬に入れば再び、電力需要がひっぱくするおそれがある。今後も「節電」の話題は続きそうだ。
今夏、電力消費の低減を促すWebサイトやスマートフォン向け簡易ソフトウエア(アプリ)の発表が相次いだ。トヨタマーケティングジャパン(TMJ)の「停電警報 for 東京電力エリア」もそのひとつだ。iPhone向けアプリは7月7日に、Googleの携帯端末向けOS「Android」搭載機向けは同月23日に配信を始めた。
7月末から8月初頭にかけては「関西電力エリア」など東北、中部の4地域を対象にしたアプリも発表。電力使用状況が一定ラインを超えると警報が鳴る。電気使用量が100%を超えないように状況を知らせつつ、停電の予報通知となることを目指して開発されたアプリだ。
企画・制作したのはTMJプロデュース局アド制作室の稲津賢二郎氏。計画停電が実施された折、知り合いの子どもがケガをしてしまったという稲津氏。「今後突発的な停電が起これば、より大きな被害が出る可能性もある」と妻に言われたことが決め手となり、制作を思い立ったという。
稲津氏は自費で電力使用状況のデータを各端末へ配信するためのサーバを設置。運営費用は、家族全員の保険を解約して充てた。ただ予報としての機能を果たすためには、当時1時間に1回だった電気使用データ発表の間隔をよりタイムリーにする必要があった。逐次情報公開を申し入れるため、稲津氏は東京電力へ何度も電話でかけあったが、6月に入っても公表間隔は一向に短くならなかった。
そこでTMJの社長や役員に相談したところ社長が快諾、企業としてアプリを制作することに。役員と東電を訪れて企画趣旨を説明し、リアルタイムでのデータ開示の協力を正式に依頼した。世情としての要請も後押しし、7月1日、5分間隔でのデータ公表が始まる。東電を皮切りに、ほかの電力会社からも短い間隔でのデータ公表がなされるようになったため、各エリアを対象としたアプリも制作した。
「3月11日の震災発生以降、個人レベルで良いアイデアを実現しようとする方が増えてきていると感じる。地震警報のような停電警報アプリがあれば、と考えた方もたくさんいたはず。アプリなら個人で実現できることもたくさんある」と話す稲津氏。同氏のアイデアと熱意こそ、組織を動かし、はるかに大きなスケールで世の中に影響をもたらす突破口となった。