マーケターとしてキャリアを重ねてきた津田氏はなぜ今、独立を決めたのか。そして人口減少、市場の成熟化など、社会や経済の構造が大きく変わりつつある日本において、これから求められるマーケティングのありようとは。さとなお氏、津田匡保氏に聞く(本文中・敬称略)。
人口が減少していく日本におけるマーケティングの課題
—3者によって新会社、ファンベースカンパニーが設立に至った背景とは。
佐藤:シンプルに言うと、「ファンベース」という考え方が世の中に必要とされてきていることが大きいと思います。
その背景としては人口急減や超高齢社会などによって、市場自体が縮小し続けていることがまずありますね。毎年100万人ずつ人口が減っていくのが日本です。つまり顧客が物理的に急減していく。そういう時代に新規顧客を獲り合うのは修羅の道です。それよりも、すでに愛してくれているファンを大切にしてLTV(ライフタイムバリュー)を上げていくほうがコストも安いし、ずっと効率的なのではないかと、いろんな企業が考え始めています。
しかも「20%のファンが売上の80%を支えている」というパレートの法則がほとんどの商品やブランドに当てはまる。つまりファンは売上の大半を支えてくれてもいるわけです。ここに注力するほうが新規顧客獲得より先だろう、と。
さらに情報爆発やマスメディアの減衰により、従来ほどマス広告が効かなくなってきたことも大きいですね。それよりもファンである友人からの熱意ある口コミのほうがずっと効くことは調査でも証明されています。そういう流れもあってか、2018年に『ファンベース』を刊行したところ、非常に反響が大きかったんですね。
3者による新会社の立ち上げに至ったのもこの本がきっかけです。野村ホールディングス、アライドアーキテクツが、それぞれにファンベースという考え方に興味を持ってくれて、僕に連絡をしてくれて話が始まりました。連絡があったのは、ほぼ同時期。それぞれの話を聞いてみると、目指していることが非常に近かった。そこでファンベースという同じ方向を向いている3者で何かできないか、という話になり、今回の新会社設立に至ったのが簡単な経緯です。
3者それぞれに異なる強みを持っているので、組むことに意味が見いだせるのも大きかったですね。野村ホールディングスには企業の経営陣とのネットワークがあると同時に、本業であるファイナンスの知見がある。ファンベースはマーケティング領域だけでなく、経営課題の解決策となることも多いので、野村ホールディングスが入ることでマーケティングとファイナンスが領域を越えてつながる可能性があります。
アライドアーキテクツの強みはIT系のプロダクト開発とその運営における知見です。今後、ファンベース施策のためのプロダクトの開発も見据えているので、その経験値は非常に大きいと思っています。そこに僕のファンベースの理論と実践の経験値をかけ算すると、思ってもみないシナジーが生まれたりするのではないか、と期待しています。
「ネスカフェアンバサダープログラム」の実践を広げたい
—その新会社になぜ、津田さんが参加することになったのでしょうか。
佐藤:新会社設立の発表をした数日後に、たまたま飲む約束をしていたから…ですかね。わりと偶然というか、縁ですね。
津田:私はネスレ日本を退社することは決めており、2018年末に会社にも伝えていました。40歳という節目を迎えて、自分の生き方や今後のキャリアを考えた時、もっと世界を広げてみたいと思うようになったからです。
ネスレ日本では本当にたくさんの経験をさせてもらいましたが、今後は「ネスカフェ アンバサダー」を通じて実践してきた、自分なりのファンベース的な考え方を広めるような仕事がしたいと考えていました。別の企業に転職するか、起業するかも決めていなかった。それが、さとなおさんに会って新会社の話を聞いた時に「これだ!」と思って。お客さまと距離の近いところで、一緒に「好き!」の熱量を上げていく活動はこれからの社会にとっても必要なことだと感じました。
佐藤:ファンベースはまだ新しい考え方でもあるので、これを組織の中で実践し続けてきた人は、そんなに多くはいません。津田さんのような実践の経験値を持った人が参加してくれるのは非常に心強く思っているし、参加したいと言ってくれたときはすごく興奮しました。
津田:「ネスカフェ アンバサダー」について、「ネスレという強いブランドを持つ会社にいるからできたんでしょう」と言われることもあったんです。「ネスレ日本さんは、良いですよね」みたいな。でも僕は「ファンベースはあくまで考え方なので、どんな企業でも導入してトライできる」と考えていて…他社でもやれるのだということを証明したいという思いもファンベースカンパニーに参加した動機のひとつです。