気楽につぶやかれた内容が危機になる
今週は、9.11同時多発テロの10年目を迎えて、米国を中心に世界の至るところで、新たなテロに対する危機感を募らせながら始まることになった。一方、3.11東日本大震災から6カ月が経過し、経済産業大臣が自らの不適切な発言を繰り返し、就任9日目で辞任、政府のドタバタぶりが目につく週でもあった。そんな中、京都市の製薬会社「日本新薬」が9月5日、ホームページ上で「ネット書き込みに関するお知らせ」と題し、同社の女性社員の「ツイッター」の書き込みから始まる一連の内容について謝罪する事態が発生した。
「ツイッター」には「うちの社員、仲良い薬局からハルシオン後発まとめ買いして飲み会の時に酒に入れたりしてるしな…危険過ぎ」「飲み会(泊まり)でのいたずらです(笑い)てか一歩間違えたらスーフリ並の犯罪なのに。さすがに女子には飲ませてませんでしたが、飲まされた上司は超死んでました」などとつぶやいていたため、ネット上をにぎわす結果となり、日本新薬がこの騒動を知って、書き込んだ女性と酒に薬をまぜた男性社員に事情を確認、5日にホームページで謝罪とネット上に書き込まれた誤情報を訂正したものだ。
これまでの多くのサイト上での書き込みについては、その真偽自体が不明確であるため、取材を受けたとしても「噂や憶測で書かれた内容についてはコメントを控えさせて頂く」が企業広報の主流となってきた。しかし、日本新薬は書き込みをした人物、睡眠導入剤を不適切に取り扱った人物がいずれも自社の社員であると社内調査から割り出し、事実を正確に把握した結果、企業として取るべき積極的な対応を選択した。その意味で、問題の重大性を検討しホームページ上で公表したことは、企業のCSRの視点からも一定の評価を与えたい。
また、その調査の過程で、つぶやかれた内容が目撃情報ではなく、真偽の不確かな伝聞情報であったことや、使用されたハルシオンが取引先の薬局を通じて購入された「まとめ買い」ではなく、不眠に悩む男性が正規に処方され、正規のルートから入手されていたことなども判明した。調査中も依然として誤った情報がリツイートされて騒ぎを大きくしていたが、事実関係について異例の「お知らせ」を速やかに公表することで、その点に対する訂正にもつながった。
「ツイッター」の影響力
今回、この公表がなければ、さらにつぶやきの内容が一人歩きし、企業の信用毀損につながる可能性が大きかった事例である。「ツイッター」は、その伝播のスピードが早いことに加え、ネット上のプロフィールから、つぶやいた人物の特定や社会的環境の中での立ち位置が比較的わかりやすいため、「2ちゃんねる」のような掲示板の書き込みとは違って、情報の深化が早い。企業の対応が遅ければ、関係者の信憑性の高い情報として風評が広がり、影響の出る事例が今後も多く出てくる可能性が高い。
同時に「ツイッター」では、気楽に何でもつぶやけることが書き込みの動機付けにもなっている。今回のつぶやきのようにつぶやいた本人が、その内容の書き込みに対して内部告発のような覚悟があったとは思えない。ましてや、特定の誰かを懲らしめてやろうというような悪意もなく、つぶやいた結果、会社にどんな影響を及ぼすかなど考えてもいなかったに違いない。しかし、企業がそのような不鮮明かつ不明瞭な情報ですらアンテナを張り、対応しなければならない時代になったと考えると、いささかそれらを監視する広報の業務は厄介になったと言わざるを得ない。
対応は良かったが、なぜドタバタ劇と評価されてしまったのか?
日本新薬の本事例について紹介している記事を見ると、企業側のドタバタ劇と評価しているものが多い。その理由として、ホームページに掲載後、そのコピーを厚生労働省監視指導・麻薬対策課に一方的にファックス送付するなどして、行政側も首をかしげる場面があったとしている。せっかく事実関係の調査結果、謝罪、再発防止などを実施し、公表したにもかかわらず、行政やマスコミへの対応には多くの課題を残してしまったようだ。
本事例は、他の企業から見て、「へぇー!こんな面白い記事が載っているぞ!」で済ますのではなく、自社で同様のことが起きたら、どんな影響が発生し、社内対応はどこまでできるのかを、真剣なシミュレーションを通じて学ぶべき貴重なケースである。行政への一方的なファックス送付にしても、報告をしていなければ事実関係が正確に伝わらず、風評や憶測が広がって、行政側から何らかの問い合わせや調査が入った可能性も否めない。今回の事例は方法・手順についてはいささか課題を残したが、積極的な対応上での失敗と理解し、将来の対応の改善につながると期待したい。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
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