生活者に“寄り添った”「デジタル×アナログ」の融合
デジタルとリアル世界を自由に行き来する消費者行動を鑑みれば、企業のマーケティング戦略においても当然、その融合が必要とされる。ややもすると近年は、デジタル偏重の傾向もみられたが、マーケティング実務の現場においてはアナログとの適切な融合が求められるようになっている。
こうした企業側のニーズを受け、前日本郵便、現イーリスコミュニケーションズの鈴木睦夫氏と、日本郵便主催の「全日本DM大賞」で2019年金賞グランプリを受賞したディノス・セシールの佐々木拓也氏が登壇したセッションでは、DMを使った統合マーケティング成功への秘訣が語られた。
鈴木氏は冒頭、生活者と企業の間で「デジタル」「アナログ」への認識に乖離があると指摘する。「生活者にとってはデジタルもアナログも関係ない。スマホ画面を見つつ、テレビ、ラジオ、OOH広告に接触している。それにも関わらず、企業側はデジタルとアナログ担当でそれぞれ部署が分かれているなど、統合的に企画・立案ができる環境になかったりする。しかし、今やそれを分断している場合ではなく、生活者に寄り添ったマーケティングをしなければならない」と語る。
鈴木氏が語る統合マーケティング施策の秘訣とは
現在、顧客との関係性構築のため、多くの企業がメール配信を行っている。しかし、鈴木氏によると、企業が事前に設定したターゲットにメールが届いている割合は平均して3割、開封率はその2割にしか満たないという。つまり実際のリーチ率は6%にしかならないのだ。低コストでコミュニケーションができることから、利用する企業を増やしてきたメールだが、こうした数値を見るとメールだけのコミュニケーションでは、実際には顧客にリーチできていない現状が見えてくる。
そこで日本郵便時代、デジタルとDMを組み合わせたマーケティング施策の有用性と最適解を研究していた鈴木氏が、その研究結果の一部を紹介。
ひとつが、以前から営業先に対しメルマガを送っていたリクルートジョブズの事例だ。同社は、その効果に疑問を抱き、「メルマガ×DM」の実証実験を実施。メルマガだけを送った場合と、メルマガ、DM両方を送った場合とで比較したところ、後者の方が約4倍のアクセス数を獲得したという。
LINEで「友だち」になった顧客に対し、商品のお得情報などの配信を行ってきたオイシックスは、メールとDMそれぞれとを組み合わせた実験を行った。その結果、LINEとDM、メールとDMの組み合わせでは、両方とも、CVRが2倍近く増加した一方、LINEとメールの組み合わせでは何も変化がなかったという。
富士フイルムの事例では、DMとメールのどちらを先に送った方がリーチ獲得につながるかを検証。その結果、DMを先に送った方が高い獲得率を得たという。理由について鈴木氏は、「1日に多くのメールを受け取っている状況では、届いたメールは記憶に残っておらず、そこにDMを組み合わせてもあまり意味はないのでしょう」と推測する。
「実需期」という好機を見逃さないディノス・セシールのDM施策
次に、第33回全日本DM大賞で金賞グランプリを受賞したディノス・セシールの「カート放棄DM」と「コーディネートカタログ」について、佐々木拓也氏から説明があった。
「カート放棄DMとは、ECサイトでカートに入れたけれど購入しなかった顧客に対してDMを送る施策のことです。コーディネートカタログは、顧客の購入した商品に合うコーディネートや類似商品を紹介したカタログ(小冊子)を制作し、DMとして送付する取り組みのことです」(佐々木氏)。
カート放棄DMのポイントは、「24時間以内に紙に印刷され、DMとして届く」というリアルタイム性だ。コーディネートカタログは、カタログ制作にAIを導入。AIがSNS上の画像資料や自社のカタログ情報などを照会し、コンテンツを選別することで、「短時間でのパーソナライズDM制作と送付」を可能とした。佐々木氏は、「双方とも、DM送付のタイミングが『カート落ち』もしくは『商品購入』というユーザー行動を起点にしている点が新しく、カタログ通販と比べて実需期に送ることができるのが大きな強みです」と語る。
鈴木氏は最後に、「マーケティングコミュニケーションは、商品・サービスの購入を検討していない人に対し、適切な”タイミング”で情報提供することにより、検討してもらえるよう促すことが重要です」と指摘し、メールよりも顧客の認知獲得につながりやすいDMを、24時間以内に送ることを可能にしたディノス・セシールの取り組みは、そのことを象徴する好例だと語った。
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日本郵便「デジタル×アナログ」プロジェクト事務局
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