企業の新型肺炎対策、まだまだ不安要素は一杯! 特に致死率より「感染率」に留意!

全世界で死者170人、感染者7800人と猛威をふるっている「新型肺炎」。企業が把握しておくべき実態と今後の対策、ポイントについて、危機管理の専門家である社会情報大学院大学の白井邦芳教授が指南する。

新型肺炎の発症プロセスのおさらい

新型肺炎は、昨年12月8日に中国武漢市(人口1000万人超)で原因不明のウイルス性肺炎に感染した患者が確認され、その後も同様の症例が増えていたことが中国メディアの報道で判明している。

しかし、その後、武漢市衛生局の動きは特になく、12月30日に「原因不明の肺炎に関する緊急通知」と題する文書が街中の医療機関宛に出回り、やっと本気で新型肺炎の患者数を把握し始める。

ここから先の武漢市の対応は早く、2日後の1月1日にウイルスの発生源と指摘された海鮮市場を休業させ、23日には武漢市の空港、駅を閉鎖。24日には中国政府が中国国内の団体旅行を、また、27日には海外への団体旅行を禁止し、移動制限をかけることで感染拡大を防ごうとした。

ただ、残念なことは、結果的に対応は間違っていないが、最初の患者の発覚から海鮮市場閉鎖までの3週間、さらに渡航禁止までの7週間の動きが遅かったこと、中国政府としての情報収集が不十分で中国国民、さらに、世界への発信が遅れたことが感染拡大の要因の一つとなっている。

現在、中国本土全域で感染が確認されており、既に28日時点でSARS(重症急性呼吸器症候群)の感染者数(約6000人)を超え、現時点で死者170人、感染者7800人という深刻な事態に直面している。また、世界16以上の国に感染が拡大している。

WHO(世界保健機構)のこれまでの評価

WHOは危険度について、中国国内、周辺地域、世界のいずれでも「高い」と評価しているが、1月23日及び29日においても緊急事態宣言を見合わせている。30日にも再度、緊急事態宣言が検討される可能性がある。

新型コロナウイルスの感染力

新型コロナウイルスによる肺炎の感染力は、1人の感染者から平均で何人に感染するかを示す数値で、WHOは暫定的に1.4〜2.5、香港理科大(3.3〜5.5)や英国ランカスター大(3.6〜4.0)ではWHOを上回る数値を示している。この数値が1.0を下回れば、鎮静化し時間とともに消滅することを意味する。

新型肺炎は1月28日時点でSARSを上回る感染者数(約6000人)を確認したが、その前日からの新たな感染者数は約1500人で、未だ鎮静化どころかピークにも達していない状況であり、今後、さらに急増する可能性を秘めている。

潜在的感染者の可能性

本格的な春節での渡航制限により最悪の事態は回避したものの最初の患者発覚から7週間の対応遅れは、ヒト−ヒト感染が始まってからは致命傷になりかねない。観光を目的に日本を訪れる中国人の多くはショッピング、観劇など、特定期間、特定場所に団体が集まるマス・ギャザリングによる感染爆発の可能性が発生する。

潜伏期間と致死率の関係

これまで公表されているデータでは、SARSと比べて致死率は高くない。潜伏期間は1日〜14日間と暫定的に発表されているが、感染者によっても状況は異なっている。

国立感染症研究所では、新たな感染者が国内で確認されるとその罹患状況について公表しているが、中には体調の変化に伴い、数回病院に行くも特定の感染症と診断されず、体調のぶり返しを経て悪化、最終的に感染が認められた例もあった。SARSと比べて症状が重篤にならず、比較的潜伏期間も長いことで、感染者の移動を可能とし、接触者が増加することで感染を拡げる。致死率は低い反面、感染率から見ると非常に厄介なウイルスだ。

今後の予測と対策

中国からの海外渡航が規制されている中、潜伏期間を考慮すれば、最大2月10日くらいまでに新たな邦人感染者が急増しなければ、政府の対策が一定の成功を収めることになる。一方、既に日本を訪れている中国観光客を通じてネズミ算式に感染者が増えている場合、このタイミングで一気に発症する可能性があり、水際での防止策から国内全域での封じ込め策が必要となる。

現時点で対策としてできることは限られている。一般的に新型肺炎への予防は、通常のインフルンザ対策と同様、マスク着用、うがい、手洗いの励行が重要であり、業務に支障がでない程度に在宅勤務やテレワークの併用によって不要・不急の外出以外の人との接触はできるだけ回避することも検討すべきである。

体の変調・悪化を感じた場合は速やかに病院に行き、医師の指示に基づき行動する。1月28日付で新型コロナウイルスは感染症法の指定感染症に定められ、これにより感染者の就労制限や強制入院手続が可能となっている。疑似感染者についても陰性が確認されるまでは移動をせず一定の場所に滞在して様子を見ることをお勧めしたい。

中国に現地法人、支店を持つ法人は、現時点においてもマスクの在庫がなく日本からの供給を待っている状況と聞く。全従業員、約3カ月分のマスクを日本から送付することをお勧めしたい。また、中国国内では武漢市の封鎖の影響を受けてか、一部に根拠のないフェイクニュースが拡散しており、現地従業員、駐在員がクライシスパニックに陥らないよう日本国内より正しい情報を伝えておくことも重要だ。

白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

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