仕事で使う文書の書き方はなぜか誰も教えてくれない
田中:橋口さんは昨年末に『言葉ダイエット メール、企画書、就職活動が変わる最強の文章術』を出版されたわけですが、これだけは覚えて帰ってください。この本は読むところしかない。いや、文字で書いてあるんだから当たり前や(会場笑)。間違いないです。今日はそんな橋口さんの非常にタメになるお話をうかがおうと思います。
今回、文章術の本を出すきっかけは何だったのですか?
橋口:ある1本のメールです。内容を簡潔に言えば、現場がOKを出した企画に社長がNGを出したので再考してくれという内容なのですが、これが非常に長々と、しかも遠回しに書いてあり、わかりづらかった。私は新卒で広告会社に入社したのですが、今までこのメールに限らず数多くの読みにくい文章を見てきました。
田中:あー、この人、悪い人じゃないんですよね。真面目で真剣で礼儀を尽くさなくてはいけない、人を怒らせてはいけないと思っているから長く読みづらい文章になる。
橋口:でも不思議なことに、これを理解できる人も多いんですよね。周りの人もそこそこわかってしまうから、改善されないんです。本当は僕のようにあまり空気が読めない人間でも理解できる文章を書く方が、空気を読める人も含めて皆が幸せになると思うんですよ。
ところで田中さんは社会人になって文章の書き方をどのように習いましたか?
田中:電通にいたころ「こんなメールを書きなさい」と言われたことはなかったですね。でも、上司が僕や、CCでクライアントに送っているメールが簡潔で素晴らしかった。なのでそれを盗みました。
橋口:僕もです。入社4年目にある著名なコピーライターの方のもとで働いたのですが、その人の文章はわかりやすかった。そのとき初めて「読みやすく書いて良いんだ!」と発見しました。僕の文章が劇的に変わったきっかけでしたね。
田中:やはり盗まない限りダメという仕組みになっているようですね。
橋口:我々2人はたまたま広告会社に在籍し、著名なコピーライターのもとで文章の研鑽を積む機会がありました。しかし多くの人は、仕事の文章の書き方を教わる機会がないのが現状でしょう。そこで当時の僕の「読みやすく書いて良い」という発見を皆さんに共有するため、この本を出版することにしました。
書きすぎてわかりづらくなる文章
橋口:なぜ読みにくい文章になるのかという理由に、相手が自分の文章を一語一句全部読んでくれていると期待し、書きすぎてしまうということがあると思います。
田中:よくいますよね。久しぶりに会って、「最近何しているの?」と聞くと「Twitter読んでくれていないの?」って、怒るやつがいる。読むわけないやろ(会場笑)。自分が書いたら全部読んでくれていると思っている人って結構いると思います。実際は読まないですよね?
橋口:そうそう。実は僕らは広告会社に入社するとまず「広告は見たくて見るやつは誰もいないから、見たくないやつに興味を持ってもらうためにやれ」と叩き込まれるんですよ。この発想に皆が立てばいいのではないかと思います。田中さんはどのように先輩に教わったのですか?
田中:僕は「CMを作るときは『洗い物をしている主婦をイメージしろ』」と教わりました。リビングやダイニングキッチンがあり、そこにテレビがある。ガチャガチャガチャとお皿を洗っていても「あれ?」とCMを見たくなるようなアテンションがあるものでないとダメ、という意味です。
橋口:この考え方を他のジャンルでも応用してもらいたいと思っています。
わかりやすい文章にするための「言葉ダイエット」とは
橋口:書きすぎて読みづらくなった文章の解決策はただ1つ。それは文章をそぎ落とすこと、つまり「言葉ダイエット」です。ここから「言葉ダイエット」の実践のお話をします。
田中:橋口さんは著書でダイエットの方法をいくつか指摘していて、その中に修飾語やカタカナなど抽象論禁止というのがありました。
橋口:まず「修飾語だらけ問題」がありまして、これは本の中にあるダメなコピーのお手本なのですが、
こう書くと駄目だとすぐわかりますよね。何となく空虚で言葉を散りばめてよく見せる。
図Aの①は②を修飾するためだけの文章です。図Bは「革新的」「上質を手にする喜び」のような抽象的表現に頼っていますね。
田中:言いたくなりますね、はい。
橋口:雑談とかであれば修飾語を使うのはいいと思うのですが、仕事で「革新的」とか受け手によって解釈が違う時、使うべきではないと思っていて、トラブルのもとになるので、具体性があるものだけ書いた方がいいですね。
田中:毎度おなじみのカタカナを多用するという問題は?
橋口:カタカナ用語は、人によって解釈が違う場合が多いんです。例えば「アイデア」。広告会社のコピーライターやCMプランナーが言うアイデアとは、例えば「お父さんが犬で喋る」ということですよね。でもコンサルの人にとってのアイデアは「家族向けの携帯電話CMをつくる」だったりする。このように業種や人によって解釈が違う言葉を安易に使わない方がいいと思います。同様に「コンセプト」、「デザイン」、「ストーリー」等も要注意ですね。
もう1つカタカナがよくない理由は、何も言っていないのに、 何か言った雰囲気を出せてしまうことですね。
田中:文章のカサ増しに便利!(会場笑)。他にも最近多いのは、「させていただきます」という表現ですね。
橋口:ちょっと伝えづらいときに使いますね。「ご相談させてください」ぐらいだとまだいいのですが、最近はどんどん進化を重ねていて、「ご相談させていただければ幸いです」「ご相談させていただければ幸いと存じます」と。このような過剰な敬語の背景には過剰な気遣いがあります。「させていただく」というのは正式には誰かの許可を取ることですが。
田中:ヘりくだるにもほどがあるやろ。「恐悦至極に存じ奉り候」(会場笑)。
橋口:今、くい止めないと日本語が破壊されてしまうと危惧しています。「させていただきました」と言いたくなったら、「いたしました」でいいです。丁寧すぎるとかえって不快になる場合があります。
次に読みやすいパワポの話をしたいと思います。これは僕が試しに作ってみた、ダメな企画書の典型例です。
田中:うわっ最悪(笑)でもよく見るやつや(会場笑)。
橋口:今、日本の企画書やパワポを一番ダメにしているのが、矢印だと思います。理由は先ほどの読みにくいメールと同じだと思うんです。受け手を考えず手あたり次第量を詰め込んで、矢印さえ詰め込めば皆が見てくれるだろうと考えるんですね。
ちなみに矢印はパワポ、企画書だけでなく、今や日本中の地下街、駅構内、ビル、街中で多用されていますね。
話をパワポに戻します。僕が企画書を書くときに気を付けていること、まず矢印禁止です。どうしても使いたければ2個が限度でしょう。色も禁止です。 デザインの知識がない人間が色を多用してもロクなことにならない。せいぜい1色が限度。そのほかにはスライド番号入れる。文字はとにかくデカく!“キャッチフレーズ”を入れる、こんなことを工夫しています。
鎧を脱いで、身軽になろう。自分を出そう。
橋口:今まで読みやすい文章にするための方法をお伝えしましたが、最も重要なのは読みやすい文章をマネすることだと思います。本の中にも名作ボディーコピーや、読みやすい文章の文例をたくさん載せています。
最後にお伝えしたいのですが、今、忖度、気遣い、保険、横槍など 言葉がどんどん窮屈になっています。誰かに何かを言われるのではないかと 誰もが「言葉の鎧」を身にまとい、 息苦しそうにして、世の中がどんどん窮屈になっていると感じています。
しかし仕事は競争だけど戦争ではありません。そこまで自分を守らなくてもいいと思うのです。言葉の鎧を脱いで、身軽になって、自分を表現しよう、そういう思いで本書を書きました。
田中:『言葉ダイエット』ですよ。これがあれば僕が30年かけて着込んだミートテックも脱げるかもしれない(会場笑)。なかなか脱げないですよ、これは。
【登壇者】
電通 コピーライター
橋口幸生(はしぐち・ゆきお)氏
最近の代表作はスカパー! 堺議員キャンペーン、劇画 鬼平犯科帳25周年記念動画「鬼へぇ」、ANA、FRISKなど。TCC会員。ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、ACC賞ゴールド、スパイクスアジアなど受賞多数。趣味は映画&海外ドラマ鑑賞。
Twitter:@yukio8494
田中泰延 (たなか・ひろのぶ)
1969年大阪生まれ。株式会社 電通で24年間勤務ののち退職、2017年から「青年失業家」を名乗り、ライターとして活動を始める。2019年、初の著書『読みたいことを、書けばいい。』がAmazon書籍総合一位を獲得、16万部超のベストセラーとなる。大阪コピーライタークラブ2018年度審査員 東京コピーライターズクラブ2018・2019・2020年度審査員
Twitter:@hironobutnk