コレクティブ・インパクトと広告
国連サミットにおいてSDGsが採択されてから、今年で5年を迎える。2018年には世界最大のクリエイティブの祭典であるカンヌライオンズで、表彰枠として新たにSDGs部門が加わった。
金田氏は「この5年で、企業のSDGsへの向き合い方は『理解』から自社による『実践』へと変化し、さらに、カンヌライオンズの反応が示すように、2年前あたりから、他者を巻き込むより大きなインパクトを志向する『協働』フェーズへの移行が始まった。広告には『説得機能』がある。多くの人々に気づきを与え、動かす力を持つ優れた広告は、コレクティブ・インパクト(行政、企業、NPO、市民などが立場や組織を超えて、社会課題の解決に向けて取り組むアプローチ)のドライバーとなる」と語る。
そうしたグローバルな潮流も受けて、今年、総合広告賞である広告電通賞に「SDGs特別賞」が新設された。
「カンヌライオンズが広く『取り組み』を評価する一方で、広告電通賞ではあえて『広告表現』を主な評価対象にしている。『取り組み』自体の評価は、すでにCSR/ESG業界で行われている様々な試みに任せるとして、『SDGS特別賞』の選考では、持続可能な社会に向けた『広告表現』の可能性に拘って議論する。選考委員には必ずしも広告の専門家でない方々も含まれているため、SDGsと広告の関係について、これまでにない多様な解釈が飛び出してくるはず。それらを何らかの形で整理し、広く開示もしていきたい」と金田氏。
SDGs特別賞では、部門共通の評価の視点に加え、特別賞ならではの、3つの評価視点を設けている。
「1つ目は、持続可能な社会の実現のために人を動かす仕掛けやアイデアがあるか、というクリエイティブ視点。2つ目は、『誰一人取り残さない』と例示しているように、SDGsに関連したキーコンセプトが反映されているか、というコンセプト視点。例えば未来の姿から逆算して現在の施策を考える『バックキャスティング』なども、そのひとつ。そして3つ目。広告表現は、ともすると社会の持続可能性に対してネガティブなメッセージやインパクトを与えてしまう恐れもある。この点について考え抜き、社会に対して誠実に向き合った上で表現しているか、というリスク視点」と金田氏。この3つの視点で、横断的に応募作品が審査される。
「プリント広告やフィルム広告、テクノロジーを活用した新たなコミュニケーションなど、部門を超えた作品が審査の対象となる。これら3つの視点を軸として、包括的に広告表現を審査するのは、チャレンジングであり、楽しみでもある」(金田氏)。
「サステナビリティ広告」の萌芽
①自社の社会・環境配慮型製品・サービス、②自社の社会・環境課題解決型製品・サービス、あるいは、③自社の社会・環境問題に対する考え方や具体的な活動など「自社」を前面に出す広告に加え、④「社会課題や社会像」を前面に出し、社会との関わり方について人々にサステナビリティ視点を提供し、行動を促す公共広告的な広告 – それら全体を金田氏は「サステナビリティ広告」と呼ぶ。
「『社会は持続可能である』という前提を取り払うと、広告に対する考え方が大きく変わる。持続可能な社会を創る行為に対するブルーオーシャンが現れ、企業は広告費用を負担する広告主として『サステナビリティ広告』を打つ意義やメリットを見出す。『サステナビリティ広告』は、社会価値は当然のこととして企業価値も、すなわち、シェアード・バリューを創り出すためである。
ESG投資家や調査会社は、持続可能な社会の実現に向け、公共政策の策定プロセスに率先して関与する企業を高く評価するが、そのアナロジーでいえば、社会課題の解決に向けて、率先して多くの人々を巻き込む『サステナビリティ広告』を打つ企業についても高く評価することになる。優秀な人材の獲得やそのリテンションにも効く。①と②は、売上に直結する商品広告であるため、企業価値との関係は明確だが、『SDGs特別賞』が設置されたことによって、『サステナビリティ広告』の、特に③と④が生み出す無形資産が優秀作品によってよりクリアになる」(金田氏)。