目の前に広がる2020年の「ブラックスワン」
2020年は多くの人々にとって予想外な状況になりつつあります。日本にとっては54年ぶりに東京にオリンピックを迎え、盛大な盛り上がりが期待できる年になるはずでした。そして東京では3月14日には観測史上もっとも早い桜の開花が始まり、卒業式には桜が舞い、多くの人たちが花見を楽しんでいるはずでした。
今の日本の状況は、そうした光景からは遠く離れたところにあります。9年前の東日本大震災のとき、大都市で計画停電が行われていた当時の生活を思い出させます。当時と大きく違うのは、この状況が日本に限ったことではなく、いまやアメリカのニューヨーク、イギリスのロンドン、イタリアやスペイン全土へと広がり、すでに世界的な危機となっている点です。
これはすべて新型コロナウイルスによって引き起こされた2020年の姿です。シリコンバレーのVCであるセコイア・キャピタルは、この状況を「2020年のブラックスワン」と呼んでいます。
新型コロナウイルスの危機に対するシナリオの変化
この新型コロナウイルスがもたらす危機に関して、コンサルティング会社のマッキンゼーは2月からレポートをInsightとしてアップデートしていました。3月2日、3月9日までは最も早い解決方法として「早期の回復(Quick Recovery)」というシナリオが用意されており、それによれば中国の回復にあわせて世界の景気も上昇するというものでした。しかし、3月16日のアップデート版では、早期の回復というシナリオがなくなり、2つのシナリオに削減されていました。それは、中国外での感染がヨーロッパと両アメリカ大陸に拡大したからです。
マッキンゼーが想定した最も早い収束のシナリオでも、アジアを中心に世界でも4月には感染の拡大が収まったとしても、そのビジネスに与える影響は2020年全般にわたって大きく及ぶことが懸念されていました。
一方、長期的なシナリオはコロナウイルスが変異することで再感染などの危機を迎え、その脅威が秋まで及ぶというものです。その場合の経済的影響はより深刻で2021年まで引きずる可能性があると示唆しています。
シナリオに合わせた危機に対するアクションの変化
このような状況の変化は、すでに2月ごろから積極的に対策を講じている企業のアクションにも変化がみられます。まず日本では、2月26日に政府が全国の学校に休校と大規模なイベントの自粛を要請したことで、小中学生向けのオンライン教育コンテンツをサービスとした企業や、オンラインで小中学生向けの書籍を出版している企業が、自社のコンテンツを無料で閲覧できるようにしました。
このような対応は、当然ながら政府の休校要請が一時的であることを想定しています。今後、学校が再開されれば継続する必要はありません。
一方、イベントが延期や中止になったスポーツ業界やエンターテインメント業界には、無観客で実施しながらオンライン配信するという取り組みも行われました。これはポジティブに捉えれば新しい形での「体験」の仕方を実験する場としても有効だったと言えます。折しも、各通信キャリアが5G通信による新しいサービスを発表したこともあり(もちろんオンラインでの発表イベントです)、今後このような取り組みは増えていくかもしれません。
このなかで最も注目される取り組みは、モータースポーツの頂点であるF1サーカスにおいて数年前から実際のレースとともに実施されてきた公式のeスポーツである「F1バーチャルグランプリ」かもしれません。今回、7レースが中止になったことで、3月22日に開催されたバーレーングランプリのバーチャルレースに実際のF1レーサーが参加する運びになったからです。
しかしながら、イベントは実際にリアルに集まる場や体験が中心なのも事実で、人が集まらないことにはグッズの販売や飲食などの収入機会も同時になくなってしまいます。イベント業界は全般的に中止によって機会を失うだけでなく、延期することでイベントの開催時期が集中して、調整が困難になるだけでなく他のイベントとの競争が高まるリスクも生まれます。
もし長期化するシナリオの場合には、イベント開催は新しい対策の衛生基準を設定して実施することが必要になるといえます。いずれにせよそれはこのウイルスに対する医学的な対応方法が確立する前には難しいかもしれません。