「もはや隠せない」時代のコミュニケーションとは?
―現代は、企業はもちろん、その企業が提供するプロダクトやサービスにも、ミッションやビジョンが求められています。
田中:ソーシャルメディアの時代になり「もはや隠せない」のが今の潮流です。「誠実」「信頼」など、きれいな言葉を並べていれば済む時代は終わり、その会社が本当はどういう価値観を持っているのか、経営者や社員が本当は何を信じているのか、そういう思いがブランド価値を築く時代だと言えます。
―コミュニケーションの手段、手法も多角化しています。
長谷川:現在、二つの流れが起きています。ひとつは、生活者の価値観の変化です。SDGs、ESGの言葉に代表されるように、サステナブルやシェアリングといった価値観が支持されたり、テクノロジーによって世の中が便利になる一方でプライバシーを重要視したりする流れが来ています。
もうひとつは、情報流通環境の変化です。Z世代を中心にSNSを情報源とする生活者が増える中で、スマホやPCでの情報流通だけでなく、オフラインを含め、あらゆる情報接触機会を用意する必要を感じています。
例えば、街中にある屋外広告やインストア、家庭内のテレビやゲームの枠、さらにはXR領域に至るまで我々は情報流通のメディアと捉えており、最終的にはお客さまが簡単にメディアを選択・配信できるプラットフォームとして発展させることで、コミュニケーションのSPAカンパニーになることを将来構想に掲げています。
プライバシー重視の事業展開は必須
―長谷川さんの話を、田中先生はどう捉えていらっしゃいますか。
田中:サステナビリティ、SDGs、シェアリングという言葉をよく耳にするようになりました。しかし、我々の世代はまだ、車を持つ喜びに代表されるような所有欲を失ってはいません。
一方、社会人3年目の僕の娘は、「お父さんの時代のように、皆が車を買っていたら地球環境はどうなるの?」「車を買うお金があるのなら、友だちとおいしいものを食べに行ったり、旅行に行ったりしたい」と本気で思っています。娘の世代の価値観の正しさに気づかされたのが、3.11に代表される大きな災害です。モノなんてアッという間に失ってしまう。でも、家族や友人との思い出は、何が起きようと不変です。シェアリングやサステナブルの考え方は、そういった価値観の変化の現れと言えるでしょう。
さて、こうした変化の中で、再考していくべきなのがメディアと広告の未来です。それを語る上で最大のテーマになっているのがデータとプライバシーの両立です。デジタルマーケティング領域においては、自らがメディアになる、または顧客に優れた価値を提供するとともに、了解も得たうえで自らがデータを取得する、そういう立ち位置にならないことには生き残れません。そんな中、ベクトルグループは、まず自らをその位置にシフトし、顧客にも実現してもらおうとアシストされているように思います。
―この流れを汲み、プライバシー領域にも参入すると聞きます。
長谷川:生活者の価値観の変化に対応し、またデジタル広告業界におけるプライバシー重視の流れも受け、3月2日にPriv Tech(プライブテック)を設立しました。企業向けには、独自に開発したコンセントマネジメントプラットフォームを提供していきます。生活者向けにも、個人情報を保護しつつ情報を届けられるプロダクトを開発中です。
―モビリティ・アウトドア・インストア領域のサイネージ広告にも参入されています。
長谷川:「PR会社がなぜ?」という見方もされますが、現在、当社グループは、PR会社からコミュニケーション全般を手掛ける会社に変わっています。情報流通環境が複雑化するなか、顧客企業の情報を適切に生活者に届けようとした結果、自らメディアを所有し、サイネージ広告に参入するという考えに至りました。生活者が面白いと感じられるものを所有するメディアに流し、メディア自体の価値を上げる、すると、顧客企業も出稿したくなる。そんなインフレーションをつくりたいと考えています。
また、それらサイネージ広告メディアも含めたあらゆるメディアに対して、動画を主とした様々なコンテンツを管理・配信し、露出分析まで可能なCMSも今後提供していきます。
―一方で、顧客側のセクショナリズムによってうまくワークしない場合もあるのでは、と気になります。
長谷川:今までは、広報、広告宣伝、マーケティング、人事といったかたちで職域が分かれていたものを、これからはうまく連動させていかないと誤ったコミュニケーションになりかねないと思っています。CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)の役職が増えつつあるのも、全体を統括する立場が必要という考えが浸透してきたからだと思います。多くのツールが出現し、コミュニケーションの方法や人の価値観が変わるなかで、旧来のセクショナリズムに囚われず、統合的に戦略を考え実行できる体制が重要だと思います。
田中:長谷川さんのお話しのとおり、キーワードは「ホリスティック(全体性)」ではないでしょうか。あらゆるステークホルダーを同時に意識する、マーケティング機能も統合して考える、そんな手腕、手法が求められているように感じています。
―コンテンツ制作から流通まで幅広く事業を行うベクトルグループを田中先生は、どうご覧になっていますか。
田中:例えば、「Amazon Go」は、手に取って店を出るだけで商品を購入できます。これは、消費者に買い物や支払いをしていることを感じさせないスピーディーで快適な体験を提供できているということ。こういった非常に優れたカスタマーエクスペリエンスが広告にも求められています。つまり、広告と感じさせないくらいナチュラルで、面白い広告です。ベクトルグループのモビリティメディア「GROWTH」は、まさにそうですよね。閉鎖的な空間で、テレビと比較しても圧倒的に広告の割合が多いのに、広告と感じさせないくらい自然で面白い。日本のリード役として、これらの体験を広げてもらいたいと思っています。
DAY1精神の無い企業は生き残れない
―ベクトルグループの今後の展望を聞かせてください。
長谷川:実は、ベクトルグループには、短中期展望しかありません。時代の流れが早いので、3年、5年の期間で、時代の流れに沿った新規事業を常に30件ほど並行して立ち上げています。そのなかで大事にしているのは、生活者に有益なプロダクトかどうか?お客様に利用してもらえるコミュニケーションのインフラになれるかどうか?この考えのもと、時代にあったプロダクトを引き続き提供していきます。
田中:この時代、ある程度合理性を保てる近未来予測は3年から5年先だと思います。デジタルトランスフォーメーションが盛んに言われる昨今、トランスフォーメーション、つまり「変革」は、全ての企業に課せられた課題。そこで本質的に求められているのが、スタートアップのようなスピーディーな企業DNAや企業文化を持つことです。
AmazonのCEO ジェフ・べドスのこだわりは、『DAY1精神』です。「Amazonは、今日が創業日ですよ」と、毎日言い続けています。これは、そういう企業DNAが無いことには継続的にイノベーションを生み出せないと分かっているから。ただ、その変革は、多くの失敗を糧に生まれるものです。そういう意味では、DAY1のカルチャー、失敗を許容するカルチャーを持ち合わせていることがベクトルグループの強みだと思います。
―新規事業の多いイメージが強く、社員お一人おひとりのアイデアにあふれている印象を受けます。
長谷川:ベクトルにはそういう社風があるんでしょうね。例えば、新規事業が途中で立ち往かないと気づいたら、自主的に事業ピボットする起案者も実際多いです。そういう骨太な人材に恵まれています。子会社が増えている経緯も、経営・イノベーティブな視点を持つ人間を増やすことが、グループ・人の成長につながると考えての上です。
田中:構造的に変化の激しい時代、そういう企業DNAがあることを頼もしく感じています。
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