ニューヨークに転勤して初出社したら、席がなかった。

自分の席は自分で手に入れる

引越しの荷物が入った重いスーツケースを3つ、でこぼこの歩道を大道芸人がジャグリングするみたいにごろごろ転がしながら、汗だくで到着したマンハッタン。いろんな期待とか不安とかと一緒に出社してみたら…どこにも自分の席がなくって。もう色んなことが一気に吹っ切れて始まったニューヨーク仕事生活。もうイチからやるしかない。

すみません申し遅れました。初めまして、佐々木康晴と申します。電通で、主にデジタル系のクリエイティブを担当しています。今回、ひょんなことからニューヨークにある電通アメリカに異動になり、この地で、日本にいたときと同じような仕事にチャレンジすることになりました。こっちのみんなの働き方は、日本とどう違うのか。日本のクリエイティブが、海外でそのまま通用するのか。そしてニューヨークのデジタル事情はどんな感じなのか。こっちにはどんな面白い会社があって、どんなすごい奴がいるのか。そんなことをみんなに少しでも紹介できたらと思って、このコラムを担当させてもらうことになりました。よろしくお願いします。

日本のクリエイティブが海外で通用するのか、とか言っても、AKQAのイナモト・レイさんとか、PARTYの川村真司さんとか、すでに全然海外で通用している素敵な方が数々いらっしゃるわけですから、佐々木の場合は、もっとふつうなところから、佐々木にしかできない庶民的な視座で?みんなが「これなら俺もアメリカで働ける」と思ってもらえるよう、実際に仕事しながら試行錯誤しながらお伝えできればと思う次第です。

さて、冒頭の続き。今回の赴任は、もちろんちゃんとしたお仕事で、留学でも研修でもなくて、働くつもりでしっかり準備をしてきたつもりだったんです。夏のはじめに転勤が決まり、それからアメリカの就労ビザを取るのに、いろんな人の支援を受けながらまるまる2カ月。必要書類ということで、大学のときのひどい成績表を取り寄せて悲しい気持ちになったり、過去のパスポート3冊分の海外渡航履歴をぜんぶ、日付と国名つきのリストにさせられたり。ふつう覚えてますか? 20年前の海外旅行で、いつどの国からどの国に入ったか、なんて…。それから、自分が嫌いになるくらい自分をほめる文章を書かされたり…と。拷問のような書類作成。アメリカで働くぞ!と思ったあと、まずここでメゲる人が多いんだろうなあと思いました。

その後アメリカ大使館で面接があります。面接といっても、みどりの窓口で新幹線の切符買うような感じなのですが、入場までは舞浜のテーマパーク並みに1時間半も並びます。そしてなんとかビザを手に入れて。受け入れ先の会社との調整も済んで、いよいよ渡米!したら、席がどこにもなかったわけですよ。2カ月もかけてこれですよ。驚きですよ。

しかしこれがアメリカ。自分の席は自分で手に入れる。自分の仕事は自分で取りに行く。自分の権利はきちんと主張して初めて手に入る。日本にいるときは、すべてみんながちゃんと歯車で動いていて、自分が必要なパートをこなしていれば、必要なものは自動的に手に入るのがふつう、と思っていたんですよね。確かに僕は部品だった。部品として面白いクリエイティブがつくれればいいやと思ってた。

会社の窓から見たニューヨークの景色。見るたびにやる気がでる不思議な窓。

自分の責任を楽しむ

実は、席だけじゃなくて、ビルの入館証も、PCももらえないし、そもそも給料のもらい方もわからなかったんです。やばい、このままじゃ家賃も払えない。とにかくそれぞれのキーパーソンをつかまえて話をつけたら、こんどは早い早い。どんどん欲しかったものが手に入っていきます。おかげさまで、なんとか、ちいさな部屋のちいさな席を手に入れました。ふー。なんか、ドラクエの最初のステージみたいに、次々とレベルがあがって、会話のたびにアイテムがそろっていく感じ。そのアイテムの権利の裏には責任が伴うわけですが、日本のサラリーマンをやっていると、この責任っていうのはリスクしかないように思っていたものの、ここでは責任を持つ楽しさというのがあると思えてきます。

僕の上司は、CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)のブライアン。彼は僕より若いですが、クリエイティブ部門の総責任者です。僕も含めて、クリエイティブチームのみんなは彼にアイデアを見せて、彼が全部決定する。彼が責任をもってクライアントへのプレゼンをつくる。失敗したら彼のせい。営業のせいでも、スタッフのせいでもない。きっぱり。とても早くてスムーズな意思決定体制。でもこの、個人が大きな責任を持って、その責任をちゃんと楽しみながら先に進めるからこそ、あちこちトガッたアイデアが丸くなる前にいい形で作り出せるんだと、改めて痛感しました。

さて、今日はまだ到着して2週間目。今回は中身があまりなくて恐縮ですが、これからどんどん、こちらでの仕事のお話をお伝えできればと思っています。電通アメリカだけじゃなくて、エージェンシーオブザイヤーをとったmcgarrybowen、ソーシャルメディアに強い360i、そしてFWAでも有名なfirstbornなどともお仕事ができそうな予感です。そして、せっかくですから、こっちのどんなことが知りたいか、Facebook経由でぜひご質問やご要望なんかも受け付けたいなあと思っております。お気軽にMessageを送ってください!どこまでできるかわかりませんが、せっかく書くならインタラクティブにして、みんなに楽しく読んでいただきたいですし。

住むところもやっと決まりました。築100年くらいの、タウンハウスと呼ばれる、古くて小さなアパートの2階です。ニューヨークにお越しの際はぜひ、お寄りください。ちなみに今日の夕食は、Trader Joe’sで買った、SUSHIと書かれた謎の食べ物。すいません、中に入ってるこの謎の肉は何でしょうか。これがスシなのか。そうなのか。僕も、東京のスシクリエイティブなんてこんなものか、なんて言われないように、がんばらねば。そんなわけで、よろしくお願い申し上げます。

佐々木 康晴(電通アメリカ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)
佐々木 康晴(電通アメリカ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)

1971年生まれ。電通入社後コピーライター、インタラクティブ・ディレクターを経て、2011年9月より電通アメリカ出向、エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター。手がけたキャンペーンに、ユニクロ「UNIQLO LUCKY LINE」、Honda「ケートラ」、集英社「ワンピース感謝広告」など。世界の川を旅してきたカヌーイストでもある。

facebook : http://facebook.com/yasuharu

佐々木 康晴(電通アメリカ エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)

1971年生まれ。電通入社後コピーライター、インタラクティブ・ディレクターを経て、2011年9月より電通アメリカ出向、エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター。手がけたキャンペーンに、ユニクロ「UNIQLO LUCKY LINE」、Honda「ケートラ」、集英社「ワンピース感謝広告」など。世界の川を旅してきたカヌーイストでもある。

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