『プレイフル・シンキング 決定版』は、私たちの認知観を「転回」してくれる。
本書には、80年代の情報処理になぞらえた認知の説明から、90年代以降の“Everything is situated”(60頁)な認知観、すなわち他者や道具と溶け合った認知をとらえる学術的な転回が、とってもアーティスティックに描かれている。
それだけではない。
『プレイフル・シンキング 決定版』は、新しい認知観の説明や理解だけにとどまらない。読者である私たちが、実際に「やってみる」ことを期待されている。例えば52頁以降繰り返し顔をのぞかせる「メタ認知」は、「即興的に状況と対話し、仕事の意味をできる限り言語化することで、わかるといった状態になる」ため重視されている。この「意味の言語化」はかなり難しい。日常的な経験学習、知識と知恵の修得が必要となるハードボイルドな認知活動をせまる。
しかし、本書のマジカルなことばは、自ら「やってみたくなる」よう私たちに語りかける。明快なマジカルワードで日々の実践を再解釈したくなるし、「魔法のハイヒール」(75頁)をはいて自ら演じたくなる。目の前の生活の温度と濃度をちょっと高める仕掛けのなかを、自ら生み出そうとする新しい認知観がぐるぐると巡る。この転回にもみくちゃにされると、もうあとには戻れない。
岡部大介(おかべ・だいすけ)氏
東京都市大学 メディア情報学部 教授
1973年山形県鶴岡市生まれ。2001年から横浜国立大学教育学研究科助手。2004年から慶應義塾大学政策・メディア研究科特別研究教員。2009年から東京都市大学環境情報学部専任講師を経て、現職。著書に『デザインド・リアリティ: 集合的達成の心理学』(共著, 北樹出版, 2013)、『Fandom Unbound: Otaku Culture in a Connected World』(編著, Yale University Press, 2012)、『Personal, Portable, Pedestrian: Mobile Phones in Japanese Life』(編著, MIT Press, 2005)など。