【前回コラム】「安倍首相の「資料トントン揃え」は百害あって一利なし」はこちら
9月29日、米国東海岸時間21時から米大統領選 第一回討論会が行われた。筆者が米大統領選のイメージ戦略について分析し始めてもう何回になるだろうか、などと思い出に浸っていられるのはわずかであったことを理解するには、そう時間はかからなかった。
なぜなら今回の討論会は、開始早々一歴史に残るカオスな討論会になったからだ。これが一国の大統領候補のそれなのか?と疑うほどであり、ディベートとは名ばかりのものだった。
トランプ氏は、バイデン氏が喋る番なのもお構いなしに、大声での発言や横入りを連発。暴言という妨害もあり、その場はカオスとなった。モデレーターがトランプ氏の発言を止めようと、何度も「Mr. President!」と注意していた。その数を数えていたけれど、途中で諦めたほどだ。筆者が知る米国在住者の中には、「嫌になって冒頭10分程度で見るのをやめてしまった」という人々も相当数いた。「見るに耐えない、聞くに耐えない」、それが米大統領選 第一回討論会だった。
そのような中でも色々と気付くことはある。世間では「子どもの喧嘩」もしくは「老人ホームの老人同士の喧嘩」という声を多く聞いたが、これは喧嘩にはなっていない。なぜならバイデン氏は、トランプ氏が仕掛ける喧嘩を買っていないし、パワーゲームにも載っていなかったからだ。
攻撃的なトランプ氏とエレガントなバイデン氏
双方が登場した時点でのプレゼンスを見れば一目瞭然だった。彼らのその日の姿勢が見事に示されていた。
まずトランプ氏。ネイビーのスーツに白のセミ・スプレットのドレスシャツ、赤と黒(もしかするとダークネイビー)の太めアメリカン・ストライプ(ストライプの向きが「ノ」ではなく逆)のタイ。いつもの如く上着の前ボタンは開けたままだ。さらに、黄味が強めのファンデーションで肌を整え、部分的に肌艶を良くして健康的に見せようとしていたかのように見えた(彼は元々、白っぽくピンキーな肌色だ)。トランプ氏らしい装いで、ゴリゴリのパワーゲームを仕掛けてきそうな格好だ。
一方のバイデン氏は、トランプ氏よりも濃い目のダークネイビーのスーツに、白のセミ・スプレットのドレスシャツ、シルバーと黒(もしくはダークネイビー)の、アメリカン・ストライプのタイを締めていた。デジタル画像上でモワレが出ずに済むギリギリの細さのストライプという絶妙さだ。
さらに、胸にはスリーピークスの白のチーフを入れていた。いつもより力強く威厳を出す目的だったのだろう、スーツの肩がいつもより張っていた。この肩が張った上着とスリーピークスのポケットチーフが、「結婚式のお父さん」を多くの人に連想させたであろうことは否めないが(苦笑)、エレガントな出で立ちだ。肌はキメを整えるレベルにファンデーションが塗られていたであろうが、必要以上の加工は一切見られなかった。