目指したのは、常に手元に置いておきたくなる本
ANRI ベンチャーキャピタリスト 佐俣アンリさん初の書籍が8月に刊行された。黒地に白い線とテキストというシンプルな装丁だが、ザラザラとした質感や星屑のような白い粒、そして小口の黒さが目をひく。
さらに、カバーを外すと現れる赤は、内に秘めた熱を表現。情熱というほどではないが、誰の心にもある熱。本を読んだ後に真っ赤に燃え上がるかもしれない、そんな心に宿る熱の赤さをイメージしている。
「ANRIのCIを活用したデザインにしたいと考えていました」と装丁を手がけたタカヤ・オオタさん。「佐俣アンリさんとはこれまでもお仕事をしていて、始まりは約5年前につくったCI。『circulation/循環』というコンセプトで、受け継がれる人智が、イノベーションを引き起こし、絡み合いながら、次世代の新たなイノベーションへと繋がっていく様を重なり合う円で表現しています。CIで表現したい想いも本で伝えたいメッセージも基本的には同じ。CIを起点に物語が広がることを目指しました」。
普段は、デジタルの仕事が多く、装丁はこれで2冊目だというオオタさん。紙ならではの特徴として、手触りの要素があることを挙げる。「紙ならではのノイズ、荒々しさを意識しました。この本は、ANRIのことを知らない人、特に若い人にも手に取ってほしい。デジタルネイティブ世代にとっては、アナログならではの表現は少し違和感があって、興味を持ってもらえると考えました」。
ノイズのある表現は、印刷会社と何度も微調整を繰り返し、完成に至った。刷り方で粒感が大きく変わるため、入稿時からデータはほとんど変えていない。人の協力で表現が大きく変わるのは、工数の多いアナログ表現ならではかもしれない。この荒々しさが見たことのない世界へ挑もうとする若者の可能性を感じさせている。
「本を読んだ後に、この内容だからこんな装丁だったんだ」と納得できるものであれば嬉しいとオオタさん。「本の主役はあくまで文章で、装丁はその入り口。文章と装丁がお互いを高め合う関係が理想です」。
書籍は、刊行直後に重版も決まり売れ行き好調。そして、最後にオオタさんは次のように話してくれた。「手に取るときには他の本と少し違う装丁に違和感があるけれど、時間が経てば馴染む。家の本棚にちょうど良くて、常に手元に置いておきたくなる。そんな本になれば嬉しいです」。
スタッフリスト
- 装丁
- タカヤ・オオタ(kern)
2020年11月号『ブレーン』
特集:制作環境の変化で拡大するキャラクター活用
・ゼスプリ インターナショナル ジャパン「キウイブラザーズ」
・東京ガス「パッチョ」
・コールマン ジャパン「ザ・コールマンズ」
・コンバースジャパン「ホシノワグマのホッシー」
・カルビー「じゃがりこ擬人化プロジェクト」
・家庭教師のトライ「教えて!トライさん」
・清水茜×講談社×アニプレックス×david production『はたらく細胞』
・サントリー食品インターナショナル/デカビタC「元気すぎるご当地キャラ」篇
・アタリ「バーチャルヒューマン」
・rinna「りんな」
・企業キャラクターはWithコロナで長寿化へ広告表現だけでなく「場外」のシナリオを(文:いとうとしこ)
【特集2:TCC賞2020】
・TCC賞2020最高新人賞インタビュー
・新人賞、審査委員長賞 受賞作品発表
・最終審査委員講評
【青山デザイン会議】
生活様式を変える言葉の力
・磯島拓矢(電通)
・KEN THE 390
・堀田秀吾