*本記事は10月30日発売の『広報会議』理念特集の一部です。
理念とSDGsのつながり
田中:法政大学では2016年、「大学憲章」を制定しました。そこには権利を重んじ、多様性を認めあう「自由な学風」と、公正な社会の実現を目指す、という建学以来の精神を明記しています。
そのなかにある「地球社会の課題解決に貢献する」は、本学の理念とSDGsの結節点です。1999年には「環境憲章」という形で、環境問題を大学の目標に据え、地球環境との調和、共存、人間的豊かさの達成を目指すべく取り組んできました。本学は2014年、文科省から「スーパーグローバル大学」に選定されていますが、そこで採択された本学の構想「課題解決先進国日本からサステイナブル社会を構想するグローバル大学の創成」でも、サステイナブル社会が言及されています。
つまり、憲章制定の前から「地球課題の解決」については折に触れ、語っており、憲章にはその想いが“ぎゅっと”凝縮しています。そして、2016年には「ダイバーシティ宣言」、2018年にはSDGs達成に向けた「総長ステイトメント」を発信しました。
釣流:宣言後の学内外の反応はいかがでしたか。
田中:ステイトメントを発信するだけでは変化は起こせませんので、付随する形で各種施策を展開しています。例えば、新たにSDGsの基礎知識を学べる「SDGs入門」というコンテンツを提供。さらに、本学は文理合わせ15学部がありますが、学部横断で既存の授業をよりSDGsに引き付け整理した、「SDGs+プログラム(計721科目)」というのもあります。うち計12単位を修了すると修了証明書を発行します。
こうした各種施策を経て、学内のSDGsの認知度は徐々に上昇。学生・教職員にアンケートを取ったところ、2018年度は70%だったのが、2019年度には90%にまで向上しています。
企業連携では、積水ハウスや大成建設の担当者に、企業のSDGsへの取り組みについて講演いただくこともあります。かつては、企業がSDGsに取り組むのを懐疑的に捉える教員もいました。企業がグローバル市場に進出するために、共通言語であるSDGsを利用しているだけではないか、と。しかし、そうではなく、企業も理念をもって取り組んでいる。このことを正しく理解するためにも、企業との連携は非常に有意義だと思います。
釣流:私たちセブン&アイグループの場合は、「信頼と誠実」を理念としています。それを顧客、取引先、そして当グループの事業会社(セブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂、そごう・西武など)に、浸透させることが、セブン&アイグループの目標です。
そして、目下の課題は、一緒に働く方々への浸透です。というのも、グループ全体の従業員数は約14万人。サプライチェーンなども含めるとさらに多くの方が当グループと関わりを持っています。従業員そしてサプライチェーンにも「信頼と誠実」を心の底から感じてもらうことが重要だと思っています。店頭に並ぶ商品をつくっている会社、原料をつくっている生産者の方々にも、丁寧なものづくりに励んでいただきたいのです。
─グループ全体への理念浸透にどのような工夫をされていますか。
釣流:当グループの傘下企業は167社。その多くがたまたま近しい理念を掲げていました。例えば、「毎日の豊かな暮らしを実現する」(セブン-イレブン・ジャパン)、「感謝と奉仕の精神」(そごう・西武)など。そして、事業会社ごとに理想の形は異なります。
コンビニはコンビニなりの、百貨店は百貨店なりの、お客さまから望まれている、あるべき姿がある。その要望を無視して、各事業会社が画一的になることを当グループは望みません。むしろ、その姿に沿った“誠実さ” を追求しよう、その連携のジョイントとなったのが2014年に策定したセブン&アイグループの5つの重点課題でした。
これにSDGsを適合させ、グループ全体で取り組んでいます。昨年5月にはグループ共通の環境目標「GREENCHALLENGE 2050」を発表し、スローガンも定めました。それが「私たちの挑戦で、未来を変えよう。」です。これは、グループ内で案を募って、決めました。1万件近くの応募があり、うち約4000件は加盟店からのものでした。
応募期間約は1カ月と短い中で、どれほどの数が集まるのかと不安でしたが、これだけの数が集まった。しかも、店舗毎の案なので、人を単位にするとかなり大勢の方々にご協力いただけたと思います。
皆を巻き込む仕組みづくり
釣流:当グループのスローガンの募集は、法政大学のSDGs+プログラムの履修証明と共通するものがあると思います。それは、取り組みの実践を他の人たちにも明らかにする、という視点。それは理念の浸透にもつながる、と感じました。
田中:そうですね。理念の浸透にはトップが頻繁に呼びかける、という方法もあります。しかし、直接呼びかけられる機会は多くない。そこで重視するのが仕組みづくりですね。本学では、デザイン工学部の川久保俊先生が、SDGs施策全体を引っ張ってくれています。そういった専門の方がまずは必要。そうした方々がさらにゼミなどを通じ学生を引っ張る。並行して、721科目をSDGsに紐づけて整理することで教員も感度を高く持つ。さらに、職員も部局ごとに「SDGs目標一覧」を毎年作成していて、達成状況を逐一確認できます。
釣流:素晴らしい仕組みですね。
田中:仕組みは学生にも効果的です。例えば、本学では毎年、「自由を生き抜く実践知大賞」というアワードを企画しています。これは、大学憲章を体現する教育・研究のうち、優れたものを表彰する制度です。最終選考では私が選びます。大賞の他にも、「自由という広場賞」「人々への共感賞」など、憲章の言葉を使って、毎年さまざまな枠を用意。こうした、学生や教職員が“能動的”に動ける仕組みづくりが大切です。
釣流:おっしゃる通りですね。当社社長の井阪もSDGsを自分ゴトとして捉えています。トップがやる気だと、部下も非常に動きやすい。一方で、懸念されるのが各プレーヤーの自主性です。トップダウンだけでの推進の方法は、SDGsの理念にそぐわないようにも思います。そこで、ボトムアップをどうするか、がセブン&アイグループとしても課題のひとつではあったのですが、田中総長の“能動的” に動いてもらう仕組みづくりの話は、大変有効だと感じました。