※本原稿はオンラインサロン「コンセプター坂井直樹の近未来ラボ」をもとに再構成しています。
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坂井:中国には2019年まで1カ月おきくらいに行っていたんです。武漢でコロナ騒ぎになって、ぜんぜん行けず寂しくてね。
陳暁:家族が中国にいるので、毎年、旧正月だけは絶対帰省していたんですが、2020年は春節のフライトもキャンセルして、ずっと東京にいます。思えばあの時、中国に帰っていたら、なかなか戻って来られなかったかもしれません。
坂井:そのコロナ禍の話なんですが、中国では2月にはすでにコロナ対策として、春節後の学校再開時に5000万人の生徒に対して、オンラインのエデュケーションが一気に始まりましたよね。驚きました。
陳暁:2020年の1月の終わりはちょうど旧正月で、その期間学校は1カ月ぐらいお休みでした。会社も1週間ほど、お休みの期間でした。コロナが国内で話題になり武漢など都市封鎖があったのもちょうどお休みのタイミングだったんですね。なので休み明けの開校・開業をどうするか、となりました。だからオンライン切り替えの準備期間が多少はあったわけです。とはいえ、日本との大きな違いは、中国ではアリババグループの「DingTalk(釘釘)」のようなオンライン会議のサービスが、コロナ前からすでに幅広く使われていたこと。日本ではZoomがコロナ後に広まりましたが、中国では以前から日常的にそういったオンラインツールが会社で使われていました。
坂井:慣れていたんですね。
陳暁:そうです。慣れた大手のサービスを正式に学校にも導入し、オンラインエデュケーションに特化した仕組みを徐々にアップデートしていきました。
坂井:一から作ったわけじゃなかったんですね。
陳暁:もともとオンラインとオフラインがシームレスで、様々なオンラインサービスが生活に融合している状態だったので、コロナ後ではそのオンラインの割合がスムーズに拡張したという印象を受けています。会社で使っていたDingTalkを家で使うだけなので出社しなくていいし、学校に関してもすぐにオンライン授業に切り替わっていった形です。
坂井:日本では3月に一斉休校になったけれど、中国のようにはいきませんでした。
陳暁:ツールの開発力の差ではなく、ユーザーの受容性と社会の暗黙の壁が原因なのではないでしょうか。率先して“変化を提案”できるポジションにいる人が少ない。便利な方法があっても惰性で今までの不便を続けてしまう。例えば打合せも「先方が出社しているから、うちも」のように、姿勢を合わせたお付き合いを大事にします。一方でそれがオンラインの進化を止めてきたところもあるように思います。
坂井:コロナ禍で、経営トップに会いに行くとき、僕もオンラインがいいか、対面がいいかを考えるようになりましたね。対面だと感染の危険がゼロじゃないなら、オンラインのほうがマナーとして正しいのかな、とか。
陳暁:コロナ前だと、一企業の代表に「Zoomで打ち合わせいいですか」と聞くのは失礼に値すると思われていたはずです。わざわざ足を運ぶのがいい、という判断ですね。効率がいいかどうかではないんです。一方、中国では、合理的かどうかで割り切って「時間の無駄だからオンラインの方があなたもいいですよね」と、交渉する。コロナと関係なく、この相手に合わせない習慣が、いろんなサービスを広げていった面もありそうです。
坂井:中国だと、打ち合わせするにしても、都市から都市までの移動距離が、結構あります。地図で見ると近そうなのに。
陳暁:北京から上海に行って、そこから内陸部の都市へと移動となると、一日では収まりませんよね。国土の大きさと経済の活性化も中国でオンライン化が進んだ一因ではないでしょうか。
監視社会をどう受け止めているか?
坂井:中国は感染経路を追跡していくトレーサビリティがすごかった。
陳暁:感染リスクを管理するアプリが導入され、映画館、ライブハウスなどの娯楽施設や、レストラン、交通機関など多くの場所でアプリを掲示しないと入れないルールになっていたりと管理が徹底されました。日本はどちらかというと、民間にルール作りを任せるところがあるのに対して、政府が主導してルールを決め国民が協力しながら監視し合う、その強制力が中国にはあります。私も今年1年中国のSNSをのぞいていますが驚くほどみんなが協力的に行動していると思いました。
坂井:移動情報やSNSでの発言を政府が監視することに関しては、どんな受け止め方なんですか。
陳暁:監視というワードは語弊が生まれそうですが、世界中どの国でも国民のデータは国や企業が扱っているものです。それは中国でも変わりありません。生活者単位の目線から見ると、犯罪者がすぐ捕まって安心、ビックデータを活用して生活が便利になるなら良いよねという意見が多数です。こう意見が多いのも、実際ここ数年であきらかに治安は良くなったり、生活が便利になったりと、実生活でその改善を一般国民が体感しているからなんですよね。日常生活に関していえば、メリットが大きいと思っています。
坂井:国の政策で新しいことが進んでいく潔さがあるよね。
陳暁:例えば都市計画を進めるとき、日本では長い時間かけて地主を一軒一一軒口説いていきますが、中国ではより強制的にそれが進められてしまうということです。もちろんある程度の交渉はしますが、どちらかというと相応の対価を払ったりして変化のスピードを重視します。国の環境保護のためにも電気自動車(EV)を普及させる。そのために道路の仕様を変える、ガソリン車を排除する、補助金支給やナンバープレートの発給優遇など、こういった大きな変化は国のサポートなしではできません。企業と国の計画が合致する事業が一番進めやすいでしょうね。
坂井: EVに関して言えば、イーロン・マスクが率いる米テスラは中国政府の支援を受けて販売を伸ばしています。世界が中国生産のEVを買うようになるのは時間の問題だと僕は思います。
陳暁:テスラは、アリババのECサイトでも売られていますね。国主導で法整備の改変をスピーディーに行えていて、それが新しい市場を形成しているのは良いことですよね。法制度も本当に毎日変化しているので企業サイドもついていくのに必死ですが。
坂井:変化を好む人にとっては、今の中国を見ていると面白いですよね。