どう考えればいい?ファンマーケティングのKPI設定と効果測定

企業を応援してくれるファンの重要性は多くの企業が認知するところですが、とはいえファンを対象とした施策の実施に際しては、経営に対してファンが与える貢献度の可視化が難しいことから、判断が難しい側面もあります。ファンマーケティングの投資効果はどう見ればよいのか、また施策のKPIはどう設定すればよいのか。実務家、研究者の皆さんと議論していきます。

モノからコト、体験づくりからファンマーケティングは始まる

—ファンの存在が経営に与える効果を、どのように見ていますか。

岩井:コロナ禍において、例えばメーカーは店頭という重要な顧客接点を失う体験をすることになりました。これにより顧客接点を維持・強化することが経営上の課題として、さらに認識されるようになったのではないでしょうか。この文脈のなかで、顧客戦略上のファンとの絆をいかにつくるかという意識も高まっていると感じます。

渡邊:既存顧客との関係性をいかに強めて収益を上げていくかに経営者の方も関心を持つようになっています。最近は、より幅広い視点で既存顧客との絆づくりについて話をする機会が増えました。

小野:ファンというものの構成要素を考えると「行動」と「心理」の2つの軸が存在しますよね。この軸で顧客を分類すると、①購入額は多いけれど心理的距離の遠い顧客、 ②購入は伴っていないけれど、心理的距離の近い顧客、③購入額もあり、なおかつ心理的ロイヤルティも高い顧客の3種類が存在します。当然、③のような顧客は非常に少ない。しかし、必ずしも顧客の企業への貢献は購入額だけでは測れないものがあります。

購入は少なくても、例えばSNSで発信をしてくれるなど、熱狂づくりに貢献してくれる顧客も存在します。こう捉えていくと、いわゆるヘビーユーザーとは異なるファンの姿も見えてくるのではないでしょうか。そういう視点まで含めてファンマーケティングを位置づけると、その存在価値がより鮮明になる気がします。

左から、博報堂コンサルティング シニアマネジャー 渡邊丈祐 氏、BOKURA 代表取締役社長 宍戸崇裕 氏、青山学院大学 経営学部 教授 小野譲司 氏、顧客時間 共同CEO 代表取締役 岩井琢磨 氏

—KPI設定はどう考えたらよいと思いますか。

宍戸:僕は、ファンはビジネスにおいて普遍的な価値があるものと確信していますが、その存在価値の可視化が難しかった。そこで、ファンマーケティングを始めようと思っても、費用対効果が判断しづらいという側面があったと思います。

岩井:ファンマーケティングのKPIを考える際の課題のひとつは、「ファン」という言葉があまりに強力で魅力的だということです。ともすれば“とにかく熱狂的なファンをつくる”ことが目標になりがちなんです。しかし心理的なロイヤルティを重視してそこだけでKPIを設定し、売上を軽視すると話がおかしくなってしまう。やはり、ファンマーケティングのKPIは顧客戦略とリンクしている必要があると感じます。

企業と顧客のつながりにおいては顧客行動データが把握できるなど、進捗評価が行えるものをKPIとして意識すべきでしょうね。ここで言うKPIは当然、画一的なものではないはずです。すべての企業にあてはまる不変的なKPIではなく、「KPIを考えるための枠組み」を持つことが重要だと思います。

渡邊:それぞれの市場特性に対する理解があった上で、顧客そしてファンを対象とした戦略を立てる必要がありますね。

小野:今日のテーマには「顧客の感情をどう可視化するのか?」という課題も含まれますよね。この点については企業側が自分たちのファンの特徴を仮説でもよいから設定してみる。そして、その特徴を持つ顧客を全数調査は難しいにしろ、モニター的にでも調査をし、その人たちの心理状況を、企業を取り巻くファンの熱量を測るバロメーターのように活用できるかもしれませんね。「感情ウォッチャー」ともいえるものかもしれません。

岩井:確かに、その指標の把握をすることで、その時々に設定すべきKPIも見えてくる気がしますね。

小野:ファンの心理状態を知る上では、どんな発信をしているかを把握すると思いますが、難しいのはファンだからこそ、時に厳しい批判も発信するということ。宍戸さんは、この点についてどう思われますか?

宍戸:僕はファンが失望した時にもコミュニケーション次第でチャンスに変えられると思っています。ここでSNSの活用ができると思いますが、これまでの経験から自分たちの思いを企業に受け止めてもらえたと感じた瞬間にグッと距離が縮まることが分かっています。時には企業側が弱みをさらけ出すことも大事。批判を打ち消すのではなく弱みも見せてしまう方が、応援する気持ちが生まれるのだと思います。自分が関わることで企業が育っていく感覚が満たされるのではないでしょうか。

—ニッチなブランドの方が愛着を持たれやすいように思います。

岩井:マスブランドでもファンはつくれると思います。ただファンづくりを従来のプロモーション視点だけで捉えない方が良いと思います。

ファンが何に対して価値を感じているかと言えば、それは商品サービスを含む体験であって情報だけではありません。プロモーションだけでなく、商品・サービス設計まで広げて、ファンマーケティングは考えるべきだと思います。そう考えれば、強いブランドと高い商品サービス開発能力を持っている大企業には大きなチャンスがあると思います。

宍戸:体験という話がありましたが、当然ながら今の時代、商品の機能性だけで差別化を図るのは、ますます難しくなっています。だからこそ、これからは、ふだん見えない背景のストーリーの部分が価値になっていくのではないでしょうか。例えば、自動車メーカーなら、「交通事故ゼロ社会をつくる」というコンセプトのメーカーに共鳴するユーザーが増えるといった具合です。その意味で、商品の前段階に、社会に対するブランドとしての姿勢が必要ですよね。

渡邊:これからますますモノだけではなく、いかにしてコトをつくってお客さまに届けられるかが重要になっていきます。このコト、つまりは体験の設計にファンづくりの成果も関わってくるのではないでしょうか。

小野:ファンマーケティングの難しさは、カスタマーエクスペリエンスの議論と似ているのかもしれません。双方ともに総合的な視点を持てる人が社内にいないと実現が難しいという意味です。評価制度やKPIづくり、予算の出所も含めて内部組織的なハードルをクリアしないと動かない点がとても多い。そういう意味では、部署横断的に進めていくことがとても重要になると思います。

座談会を終えて

今回は「体験」がテーマのひとつになりました。深い共感を得るのは、商品の機能よりも企業の姿勢やストーリー。それを伝えることに、ファンマーケティングの肝があると感じます。

また、今回はKPIの設定について皆さんと議論しました。BOKURAでは「愛情」「売上」「推奨」さらに「知識」の4つをファンの定義に掲げていますが、これら4つの指標を測る方法についても、これまでBOKURAが実践してきた以外の方法論の可能性も見えてきたディスカッションになりました(宍戸崇裕氏)。

BOKURA
代表取締役社長
宍戸崇裕 氏

2011年よりソーシャルメディア業界に身を置く。2015年にファンマーケティングのBOKURAを設立し300以上の企業、23チームのプロスポーツ支援を行う。

 

青山学院大学
経営学部 教授
小野譲司 氏

慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得後、2000年博士(経営学)。明治学院大学経済学部教授などを経て,2010 年より現職。

 

顧客時間
共同CEO 代表取締役
岩井琢磨 氏

2018年、顧客時間の設立により、共同CEO代表取締役に就く。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。
日本マーケティング学会理事。

 

博報堂コンサルティング
シニアマネジャー
渡邊丈祐 氏

外資系コンサルティング会社を経て現職。
企業ブランド/商品ブランド構築、企業ビジョン策定、マーケティング戦略の策定・顧客エンゲージメント戦略の策定に携わる。

 


お問い合わせ
株式会社BOKURA

https://bokura.biz/

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