【対談レポート】三木谷浩史×佐藤可士和 多様性と統一性の相反する概念をどうデザインするか

2月3日に国立新美術館でスタートした「佐藤可士和展」。その開催を記念し、2月9日に佐藤可士和氏(SAMURAI クリエイティブディレクター/アートディレクター)と、楽天の三木谷浩史代表取締役会長兼社長の対談生配信イベント『三木谷浩史✕佐藤可士和 | Tech & Design, Unlimited Future』が行われた。
佐藤氏は2003年から楽天のチーフクリエイティブディレクターを務め、同社のクリエイティブ面を牽引してきた。イベントでは、三木谷氏とともにこれまでの楽天のクリエイティブを振り返りつつ、テクノロジーとデザインの未来について語り合った。
 
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マーケットに対するインパクトをともにつくってきた

イベントは、「佐藤可士和展」の会場からライブ配信形式で実施。対談の前半では、佐藤氏が2003年に楽天のチーフクリエイティブディレクターに就任して以降、18年間の仕事を解説した。

三木谷浩史氏

2003年といえば、楽天が六本木ヒルズ森タワーに移転した年。佐藤氏の最初の仕事は、同社の漢字のロゴをつくることだったという。三木谷氏は「アルファベットにするかどうかで、いきなり揉めたよね」と笑いながら話した。

ほかにも、2004年のプロ野球への参入や楽天市場の特売イベント「楽天スーパーSALE」の開始などを振り返った。さらに、楽天カードのキャラクター「楽天カードマン」を使ったCMや、LINEスタンプからスタートした楽天の公式キャラクター「お買いものパンダ」など、話題になった事例も紹介した。三木谷氏は「全体的なマーケットに対するインパクトや、さざ波が大波になるような仕組みを一緒につくってきましたね」と語った。

2018年には、佐藤氏の主導で同社内にデザイン組織「楽天デザインラボ」を設立。この組織は、同社のロゴのリニューアルやフォントの制作、「佐藤可士和展」の展示制作にも関わっている。

ブランドのアイデンティティやデザインの統一感の重要性

対談の後半では、テクノロジーとデザインの融合、そして未来について議論が交わされた。

三木谷氏が「干物からビットコインまで売っている」と表現するように、いくつもの業界をまたいで多様な事業を展開している楽天。それだけでなく、グローバルで多国籍な従業員が様々な働き方をしていて、多様な社内文化もある。一方で、ブランドのアイデンティティや統一感を担保するかも重要だ。

佐藤可士和氏

そのため、“多様性”と“統一性”という相反する概念をどのようにデザインで包み込むかということに注力してきたという。佐藤氏は「ミッキー(三木谷氏)と最初のころに話したのは、世界で我々にしかできないブランディングのメソッドをつくろうということ。楽天の多様さに、一生懸命応えてきた18年でした」と話す。

現在は2003年当時に比べてインターネットも発展し、スマートデバイスやAIの登場などを経て大きく変化している。さらにコロナ禍によって、様々な分野でテクノロジーの普及も進んだ。三木谷氏は、「例えば“リモートワークが広がってオフィスの存在価値が問い直される”といったように、すべてのサービスの存在価値を根本的に見直すべき時代が来ている」と指摘した。

さらに「将来的には、キャッシュレスではなくゼロキャッシュ時代が来て、そもそも紙幣がなくなる」という予想も。「今の時代は当たり前であることが、未来にはなくなっている可能性がある。ITビジネスも自己否定しながら変革していかなければ、終わってしまう。そこで、アイデンティティが重要になるのです」と語った。

同社にとって、デザインは、これからますます大切になるという。同社が展開する様々なサービスは高度なテクノロジーに支えられているが、佐藤氏は「そこにデザインが加わることによって、より分かりやすく、あるいはより伝えやすくなります。テクノロジーを可視化していくことがデザインの役割だと考えています」と話した。

続けて三木谷氏も、「何もかもが実現できてしまうサイバー空間で、ここのサービスを使おう、ここの物を買おうと思ってもらうためには、UXも含めた統一性を出すことが重要です。そして、“洗練されているけれど優しい”といった印象を与えることが大切になるのだと思います」と語った。

「佐藤可士和展」では、楽天のデータの世界が体験できる

 
開催中の「佐藤可士和展」は、3年前から準備をしていた企画展。その展示のひとつであるインタラクティブデジタルインスタレーション「UNLIMITED SPACE」は、楽天のテクノロジーをテーマとして構想した作品だ。

その空間に足を踏み入れると、鑑賞者の身体の動きに結びついて世界中の楽天のサービスサイトにおける検索ワードが投影される。これによって、無限に広がる楽天のデータの世界を動き回る“もう一人の自分”を体験することができる。

この「UNLIMITED SPACE」を体験したという三木谷氏。「データ社会の到来を非常におもしろい形で表現していて未来を感じます。コンピュータが僕を見たら、もしかしたらこんな風に見えるのかもしれませんね」と感想を述べた。

最後に今後について質問された三木谷氏は「真面目な話、佐藤可士和あっての楽天だと思っています」と話す。「可士和さんは、単なるクリエイターや単なるデザイナーではありません。デザインするからには表現することも必要ですが、ある程度切り捨てることも必要で、僕はこの切り捨て作業ができない人が多いと思っています。というのも、切り捨てるためにはその物事の本質を見抜き、何を切り捨てられるのかを判断しなければならないからです。そのうえで、触れる、幅を出すといったこともでき、楽天カードマンやお買いものパンダなど、様々なものを具現化してくれています」と称え、これからの活躍にも期待を示した。

佐藤氏の約30年にわたる活動の軌跡とともに、テクノロジーやデータ、日本、世界などが一度に体験できる「佐藤可士和展」は、5月10日まで開催される。

三木谷浩史
楽天
代表取締役会長兼社長

1965年神戸市生まれ。1988年一橋大学卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。1993年ハーバード大学にてMBA取得。日本興業銀行を退職後、1996年クリムゾングループを設立。1997年2月株式会社エム・ディー・エム(現楽天株式会社)を設立し、同年5月インターネット・ショッピングモール「楽天市場」を開設。現在、楽天グループとして、Eコマース、フィンテック、モバイル、デジタルコンテンツなど多岐にわたる分野で70以上のサービスを提供する。

 

佐藤可士和
SAMURAI
クリエイティブディレクター
楽天
チーフクリエイティブディレクター

1965年東京生。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。株式会社博報堂を経て2000年独立。同年「SAMURAI」設立。ブランド戦略のトータルプロデューサーとして、コンセプトの構築からコミュニケーション計画の設計、ビジュアル開発、空間設計、デザインコンサルティングまで、強力なクリエイティビティによる一気通貫した仕事は、多方面より高い評価を得ている。グローバル社会に新しい視点を提示する、日本を代表するクリエーター。主な仕事は、ユニクロや楽天グループのグローバルブランド戦略、セブン-イレブンジャパン、Honda「N」シリーズのブランディングプロジェクト、国立新美術館のシンボルマークデザインとサイン計画など。近年は武田薬品工業グローバル本社、日清食品関西工場、「FLAT HACHINOHE」、「GLP ALFALINK相模原」など大規模な建築プロジェクトにも多数従事。文化庁・文化交流使(2016年度)、慶應義塾大学特別招聘教授(2012年-2020年)、多摩美術大学客員教授(2013年〜)。

 



お問い合わせ
楽天株式会社
 https://corp.rakuten.co.jp/
佐藤可士和展 https://kashiwasato2020.com/

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