危機管理広報の本質はステークホルダーニーズ+1
木曜日の26時(午前2時)、人は眠らず金曜日はまだ始まっていない。その時間の危機の発生は意外にも20%以上ある。携帯が鳴り、上場企業の危機が告げられた。深夜の危機は経営者の感情を必要以上に高ぶらせる。そのときも経営者は泣いていた。なぜ、このようなことが? なぜこの会社で? と多くの疑問と悔しさが次々と湧いてくるのだろう。しかし危機の進行は容赦ない。放置すればそれだけ対応が遅れる。
危機管理コンサルタントの最大かつ最初の仕事はまず、経営者を父親が子供をしかるごとく、諭すことから始まる。大会社を引っ張ってきたカリスマ経営者が社員の前で大泣きしていたら、多くの社員は「この会社は終わりだ!」と確信するだろう。短い時間で対策を打つ危機管理業務の課題は社員の士気を維持することにほかならない。一糸乱れず全員が社会的責任を胸に抱き、対策に邁進させるための起爆剤は、有事の経営者の姿勢である。それを演じさせるために、危機管理コンサルタントは効果的な演出をする。
泣きたいなら泣かせる。ただ誰もいない社長室で一人で泣けと! 泣き終えたら社長という役を演じさせる。そして、「社長は現場へ行け!」と伝える。人が誰かを説得する上で重要なことは事実を五感で感じながら説明すること。現場を見ず、声を聞かず、被害者の怒りを感じない経営者の対策は心の響きがない。人の心の琴線に触れない行為は、白々しく見えてしまう。プロの作ったQ&Aも舞台装置の一つで、所詮主人公にはなれない。
木曜日深夜の魔の時間帯。上場企業は翌週月曜日に発表すればいいと考える。だから時間は十分にあると! 泣いていた経営者をしかり、私は金曜日の夜に記者会見を開かせる。ステークホルダー目線での適切な開示、そうそれが適時開示のCSR的原点。当たり前のことだが、適時開示の言葉の裏には「隠蔽に対する疑惑」がつきまとう。「正直」「誠実」という言葉の本質を経営者は常に考えるべきだろう。
危機管理の本質はステークホルダーニーズ+1(プラスワン)である。彼らが期待する水準を一つ越えた先で対応する。経営者の甘えは緊張感を解き、社員は駄々っ子の集団と成り下がる。だから最初から考える前に100メートル競走を全員に指示してやらせるコマンダープランと戦術活動(Maneuver)が必要なのだ。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
- 第6回 「従業員を語り部(かたりべ)にするCSR戦略」(12/9)
- 第5回 「グローバル・ローカリゼーション」(12/2)
- 第4回 「先進ITツールに乗り遅れるな!」(11/25)
- 第3回 「元米大統領補佐官から聞いた『目からウロコ』の話!」(11/18)
- 第2回 「“Fire & Forget”理論が語るディスコミの影響」(11/11)
- 第1回 「『広報』は、なぜ必要なのか?」(11/4)