社会になくてもよいモノを売る 元ブランドマネージャーのPR戦略

【前回】「社会になくてもよいモノを売る 元ブランドマネージャーのブランド育成論」はこちら

たばこは、そのにおいや受動喫煙による健康問題などが足かせになり、「社会になくてもよいモノ」と捉えられてしまいます。プロモーションにおいてはマス広告も打てず、大々的なイベントも企画できない、いわゆる「マーケティングの生命線」を断たれたような商材です。「社会になくてもよいモノ」はマーケティングの力で人々からの「愛着」を醸成できるのでしょうか。本コラムは、入社2年目にしてブランドマネージャーを経験、JTの商品企画部で主任を務める黒髪祥氏が全3回にわたり執筆。たばこを売るうえでの葛藤や、マーケティング戦略について語ります。

社会になくてもよいモノは人からの「愛着」を醸成できるのか

タイトルに「社会になくてもよいモノ」とありますが、「たばこ」は日本でいえば、おおよそ成年人口の2割しか消費しない嗜好品です。多くの方はたばこを吸いません。もちろん、愛煙家の方からしたらなくてはならないものですが、吸わない方にとっては、受動喫煙やにおいの問題などネガティブなイメージを持たれている方が多いと思います。

これまで第1回第2回ではたばこのマーケティングに従事する私の葛藤や私なりのブランドの育て方をお話してきました。まさに「社会になくてもよいモノ」であるたばこ。皆さんは、こんな商品がマーケティング・PRの力で人々からの「愛着」を醸成できると思いますか?私の言う愛着というのは、ブランド(商材)を選択し、継続するための情緒的な理由です。

例えば商品を知ってもらった(認知)・手に取ってもらった(購買)といっても、それが1回きりの出来事だと顧客の獲得にはつながりませんよね。消費者が減少傾向にあるたばこはなおさらです。商品スペックを気に入って使い続けてくれる人もいるのは事実ですが、それよりも、よいスペックのものが発売されれば、必然的にそちらへ移っていってしまうかもしれません。

生活必需品でもないし、嗜好品の中でもネガティブイメージの強いたばこ。「社会になくてもよいモノ」だからこそ、お客さまに使い続けてもらうためには「動機」が必要なのではないかと私は考えています。

これは、私個人の考えなのですが、その「動機」を創出するためには、商品のスペックを指す「機能的価値」と商品についてなんとなくよさそうだなと思ってもらう「情緒的価値」の両輪を携えてマーケティングしていかなければならないのではないかと考えるようになりました。

人々の不満や不便を解消した「機能」とそれを好きでいてもらうための情緒的な「愛着」の醸成。これが、マーケティングに携わるようになって間もない今の私がたどり着いた「社会になくてもよいモノマーケティング」の方法でした。もちろんこれからもアップデートは欠かしませんが、最終回である今回は、商品の認知拡大、商品を試してもらった後の話。「愛着=ずっと好きでいてもらう」を目指すために、私がどのようなことをしてきたかについてお話しできればと思います。

次ページ 「決断、私はすべてのお客さまから好かれることを諦めた」へ続く

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