広告の「クリエイティビティ」は抽象的でも革命的でもない

元・戦略プランナーがクリエイティブの戦略を否定する意図とは?

©123RF

ポール・フェルドウィック氏の著書『Why Does the Pedlar Sing?』について、前回のコラムで紹介しましたが、この書籍には実は「広告におけるクリエイティビティとは何か?」という副題がついています。

前回のコラムで「セレブリティとブランドの共通点」という話を紹介したのは、ブランドが強くなるためには「有名性(Fame)」が欠かせないということを伝える意図ではありました。しかし本書の主題は、ブランドが有名性を獲得する方法である広告というものが、セレブリティの予期せぬイベントへの対応のように、実は戦略であらかじめ決められたものだったりしないことの比喩でもあったのです。

フェルドウィック氏は、英・広告業界でアカウントプランニングを生んだBMP英国(Boase Massimi Pollitt)出身の戦略(アカウント)プランナーですから、このような言い方をすることに疑問を感じずにはいられません。つまり、自分がつくった事前の計画である広告戦略は、優れたクリエイティブを生み出すうえで、あまり意味がない、といっているように聞こえるからです。著書の中では、彼がそう考えるに至ったケースが実際に彼の身に起こったことを紹介しています。

しかも、それは英国で広告効果の高い広告に与えられるIPA(The Institute of Practitioners in Advertising)で受賞するほどの抜群の売上結果をもたらしたバークレイ銀行のクレジットカードのキャンペーンでした。フェルドウィック氏は、そこで赤裸々に、競合プレゼンで勝利した際の広告計画と、実際の広告はまったく違ったキャンペーンになったことを告白しています。また最終的に制作して成功したクリエイティブのアイデアさえも、最初クリエイティブコンセプトの定性調査を実施した際には、消費者の評価は散々でした。

ですが、それが制作されるまでにはエージェンシーのクリエイティブ以外の人間(出演したローワン・アトキンソン自身のアイデアが活かされた)の協力がなければ実現しなかったのです。

このようなぶっちゃけ話をしたフェルドウィック氏ですが、それ自体を幸運なレアケースとしてはいません。むしろこのようなストーリー自体が優れた広告クリエイティブには必要だと主張しているのです。自分も広告会社の戦略プランナーだったときには、戦略に沿ったアイデアをクリエイティブにブリーフしましたし、結果的に出てきたアイデアを「戦略に沿っているか、そうでないか」で判断していました。しかしフェルドウィック氏は、そのようなただカスケード式の一方的なやり方だけでは、実際に優れた広告クリエイティブは生み出せない、ということを語っているわけです。

それならば、彼の言う戦略をないがしろにしてまでも目指す広告クリエイティブとは何を意味しているのでしょうか。

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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