【前回】「SNSの「話題」から読み解く最新トレンド Vol.1 若者にもしっかり届いた、ポカリスエット「でも君が見えた」篇」はこちら
桜美林大学准教授/マーケティング・コンサルタント
西山 守
星野源と新垣結衣の結婚のニュース(5月19日)は、芸能ニュースとして世間を賑わせましたが、広告業界にとっても大きなニュースでした。というのも、二人とも複数社の大手企業の広告に起用されており、直接的、間接的に広告にも影響がある可能性が高いからです。
「結婚」というポジティブなニュースでも、場合によっては、一方のファンからの結婚相手側のタレントのバッシングが起こったり、結婚によってタレントのイメージが変わったり(その結果、広告のイメージにも影響したり)——といったこともあるので、タレントを起用している広告主企業、あるいはそれを担当する広告会社は、気が気でないところもあります。
ただ、この二人の結婚は、批判的な声はほとんど見られず、祝賀モードで受け入れられました。多くの広告主企業も、結婚を祝福するメッセージを送り、メディアでニュースとして取り上げられました。
そうした中で、SNS上で「神対応」をして、話題を集めたブランドがあります。
それが、日清食品の「どん兵衛」です。同ブランドは、結婚報道の翌日の5月20日に公式Twitterアカウントから、「おめでとうございます」のメッセージとともに、星野源さんが出演される「どん兵衛」のCMの一シーンを切り取った画像が投稿されました。
おめでとうございます? pic.twitter.com/3gMgfe3E2z
— どん兵衛 公式 (@donbei_jp) May 20, 2021
この画像は、吉岡里帆さんの演じる「どんぎつね」(どん兵衛の化身)が、星野源さんが他のうどんに「浮気」したことを追及するCMの1シーンでした。
この気の利いた投稿に、Twitterユーザーからも「僕はどんぎつね派です」といった「どん兵衛」を擁護する(?)投稿、公式YouTubeアカウントの当該CM(下記)を教える投稿などが相次ぎました。
それに留まらず、「どんぎつね」や星野源さんのイラストを「二次創作」して投稿ユーザーもいて、そこから二次拡散が起こったりもしています。
なお、「どん兵衛」公式アカウントからのこのツイートは、4.3万件のリツイート、2963件の引用ツイート、 16.2万件の「いいね」を集めています(2021年6月11日現在)。
一見すると、このツイートは、お祝いメッセージにCMの画像を貼っただけの単純なものに思えるかもしれませんが、実はかなり考え抜かれた、高度な判断によってなされた投稿だと、私は考えています。
結婚報道で盛り上がっている中、ヘタな投稿をすると、祝賀モードに水を差すことになりかねませんし、投稿内容によっては、炎上してしまう恐れもあります。
この投稿に関して、日清食品は5月22日の「ORICON NEWS」で「今回、星野さんのご結婚について『日清のどん兵衛』のTVCM『どんぎつねシリーズ』に言及いただくこともありましたので、祝福コメントとともに、皆様のご想像が膨らむような1枚を選ばせていただきました」と説明されています。
恐らく、SNS上の話題のトレンドもしっかり確認し、リスクと効果のバランスを検討した上で、この投稿を決定するに至ったに違いないと、私は考えています。
しかも、こうした投稿を短時間で実行するには、迅速な判断と決断がなされねばならず、それができる社内体制が事前に整備されていないと、実現は難しいのです。
今回に限らず、「どん兵衛」は(というよりは「日清食品という企業全体は」というべきかもしれません)、話題化という点では、かなり様々な取り組みを行っており、実際に数多くの成功事例もあります。
有名なところでは、2015年のマキタスポーツさんのラジオ番組での「どん兵衛は10分待って食べるとおいしい」という発言がSNSで話題化していたところをうまく捉えて、話題を増幅させ、売り上げも伸ばした「10分どん兵衛」があります。
実際は、それ以降も、何度も「どん兵衛」はSNS上で話題化しています。
下記の図は、過去1年をTwitter上での「どん兵衛」に関する話題量を見たものです。
詳しくは次回の記事で見ていきたいと思いますが、過去1年でみても、このたびの「結婚報道」以外にも、1日に1万件以上のツイートが発生する日が1年のうちに何度も起きています。
しかも、話題の情報源は「どん兵衛」の公式SNSアカウント、テレビCM、コラボ先企業、一般ユーザーなど、多種多様です。
「どん兵衛」がSNSで話題化しやすいのは、そのための施策を行っていることもありますが、これまでの取り組みによって、SNSユーザーの間で「どん兵衛」が「面白いキャラクター」という地位を確立していることも大きく、だからこそ、事あるごとにネタにされる——というのも大きいのです。
次回は、「どん兵衛」の過去の話題から、話題化のためのヒントを探ってみたいと思います。
西山守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント/桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1998年3月、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了(物理学専攻)、同年4月電通総研入社。2016年12月電通を退社、2017年5月西山コミュニケーション研究所代表。2021年4月に桜美林大学 ビジネスマネジメント学群 准教授就任(主に、広告・マーケティングを教える)。
電通総研においては、主に、情報メディア関連、地域開発関連のリサーチ、コンサルティング業務に従事。電通では、主にマーケティングメソッド、ツールの開発やソーシャルメディアマーケティング、特にソーシャルリスニングの業務に従事。ソーシャルメディア、戦略PR等を活用した、リスクマネジメント、レピュテーションマネジメントに多数の実績あり。大手企業のソーシャルリスニング、およびマーケティング支援業務、官公庁や大手メディア等のリスクモニタリング、リスクコンサルティング実績もあり。
独立後は、電通グループを中心に、ソーシャルリスニングやSNSマーケティングをはじめとするコンサルティング業務や人材育成を行う。
これまでの著書(共著含む)に、『情報メディア白書』(ダイヤモンド社)の企画・編集・執筆、『クロスイッチ -電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた-』(ダイヤモンド社)の企画・執筆、『リッスンファースト!』(翔泳社)の翻訳出版を監修、『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(フィギュール彩)の執筆(共著)。