【対談企画】変わる企業と消費者の関係 ―これからの広告会社に求められること―

早稲田大学 商学学術院長 商学部長 恩蔵直人氏 × アサツー ディ・ケイ 代表取締役社長 清水與二氏

恩蔵直人氏(左)と清水與二氏(右)

フラット化する企業と消費者の関係。消費者は情報の受け手としてだけでなく、自らも他の消費者に影響を与える発信者となりうる。変わりゆく環境の中で、いま広告会社に求められる役割とは何か。アサツー ディ・ケイ(以下、ADK)では、これからの企業課題に対応するため、新しいコミュニケーションデザインフレームを開発。共同開発者である早稲田大学の恩藏直人教授とADK清水與二社長が考える、これからのマーケティング・コミュニケーション活動の方向性とは。

※この記事は、『宣伝会議』2011年4月1日発売号に掲載されたものを一部加筆修正したものです。

出会いを作るだけから関係を永続させる支援へ

―ソーシャルメディアの浸透で、企業のコミュニケーション活動は大きく変わりました。

清水 消費者が、他の消費者に影響を与える発信者となり、さらに企業と消費者の関係がフラットになっています。それだけに広告会社には情報の送り手、受け手の瞬間的な出会いを作るだけでなく、その関係を永続させるようなコミュニケーションを支援する役割がますます求められています。BtoCのコミュニケーションだけでなく、ブランドのファンであるサポーターとの関係性を意識した、「BtoCtoC」のコミュニケーションへと考え方をシフトさせていく必要があると考えています。

恩藏 その考えが、まさに「Relevance」「Reputation」「Relationship」の3つのRを管理指標としたコミュニケーションデザインのフレーム「R3」に集約されているわけですよね。

このモデルの良いところは、「Relevance」「Reputation」「Relationship」のいずれから始まるコミュニケーションであってもよいということです。それぞれのブランドの置かれた環境によって、どの「R」から消費者との関係作りをスタートすべきか、適した形は異なりますから。ADKさんでは、すでにこのモデルに基づく提案をされているのですか。

清水 もともと2005年に、コミュニケーション・プランニング部門を設置したのは、統合的な提案を進めるためでした。なので、すでにADKの提案に考え方として、浸透していたものと言えます。

恩藏 いま企業はマスメディアだけでなく、ソーシャルメディアを組み合わせたコミュニケーション活動を模索しています。ただ、どんな場面でどんなメディアを使えばいいのかわかりづらい。その点、このフレームがあると、どんな場面、目的でマスメディアを使うべきか、ソーシャルメディアを使うべきかが分かりやすくなりますし、よりメディア横断的な提案がしやすくなるのではないでしょうか。

ADKさんは「R3」の以前にもさまざまな知見やフレームワークの開発をされていますね。

清水 大きくは消費者・市場調査関連、ブランディング関連、メディア関連に大別できます。たとえば、ブランディング関連では、シュミット教授をアドバイザーに迎えて開発した「EX-Branding」®なども、継続、発展させていきます。

求められる統合的な提案

―企業のマーケティング・コミュニケーション活動の変化に対して、これから広告会社はどのように変化、進化、対応をしていけると思われますか。

清水 これからの広告会社は、全ての顧客接点がメディアである、という視点が、これまで以上に重要になると思っています。

恩藏 先日、パッケージをテーマにしたセミナーで講演をしたのですが、以前であればパッケージは、プロダクト戦略の一環とみなされていた。ところが今では、顧客との接点を作る重要なメディアだと捉えられるようになっています。

パッケージもいわば、オウンドメディアといえます。こうしたあらゆる「メディア」を統合的に組み合わせた提案ができるのは、総合広告会社の強みですね。

清水 消費者と企業の関係がよりフラット化するからこそ、統合的なコミュニケーションサービスを提供できる広告会社の役割は大きくなると考えています。

企業と企業をつなぐことで新しい価値を生みだす

―多種多様な企業と取引関係があるのも、総合広告会社の強みだと思いますが。

清水 1800社以上の企業との取引関係は、ほかの業態にはない強みだと考えています。私たちが間に入ることで、お客さま同士をつなぐお手伝いもできると思います。

恩藏 企業が持つ情報を結びつけることで、市場に新しい価値を生みだすことも考えられます。

先日、魚を入れて電子レンジで加熱するだけで、魚を焼くことができるという商品を開発した担当者にお会いしたんです。非常にヒットしているものです。これは、担当者が素材となる発熱シートを見つけたからこそ実現できた商品です。このように素材メーカーの技術情報を消費財メーカーに伝える、情報の橋渡しをする場面においても、広告会社にできることがあるのではないでしょうか。

また、今は企業にとってCSR活動は欠かせないテーマですよね。社会貢献活動において広告会社に果たせる役割もありそうです。

清水 企業が単独で、社会を良くしていくために活動するのは難しいことです。そこで広告会社がプラットフォームを作って、社会に対して共通の志を持つ企業に参加を募って、活動を推進することも考えられます。

これは、私が社長就任前から手掛けた「万博事業」や「官公庁ビジネス」を通して得た実感です。広告会社として、コミュニケーションの力で社会に貢献するような仕事にも積極的に取り組んでいきたいですね。
(本文中・敬称略)

※この記事は、『宣伝会議』2011年4月1日発売号に掲載されたものを一部加筆修正したものです。

「R3」とは…
「Relevance(自分事化)」「Reputation(評判化)」「Relationship(パートナー化)」の3つのRのレベルを総合的に高めていくことが、企業・ブランドと消費者の関係を強固にするために必要との考えに基づき、ADKが開発したこの3つのRを管理指標とする新しいコミュニケーションデザインのフレーム。早稲田大学・恩藏直人教授とADKで共同開発したもの。

『R3コミュニケーション-消費者との「協働」による新しいコミュニケーションの可能性-』
企業と消費者との新しい関係性づくり、そこにおけるコミュニケーションプランニングの考え方を、R3(Relevance、Reputation、Relationship)という理論で提唱。国内外の成功事例も満載の一冊です。企業の宣伝・マーケティング担当者、および広告会社必読。

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