【前回】「SNSの「話題」から読み解く最新トレンド Vol.4 『100日間生きたワニ』は結局、炎上を乗り越えられなかった?(後編)」はこちら
桜美林大学准教授/マーケティング・コンサルタント
西山 守
東京2020オリンピック競技会が閉幕しました。そして、8月24日からいよいよ東京2020パラリンピック競技大会が始まります。
いきなり私事になりますが、私は2013年の開催決定の時から、ずっとSNSの東京五輪の話題を追いかけてきました。
2012年のロンドン五輪は、「ソーシャリンピック」、「ソーシャル五輪」とも言われ、ちょうど急速に普及していたSNSが、盛り上げに大きく寄与した大会だと言われています。
東京2020オリンピックにおいても、SNSが重要な役割を果たすであろうことは、開催決定当初から想定されており、SNSをどう活用するのか?という議論も盛んになされていました。しかしながら、いざふたを開けてみると、SNSは盛り上げよりは、炎上に一役も二役も買うという結果になってしまいました。
新型コロナの感染拡大後、様々なトラブルが発生し、SNS上で激しいバッシングがなされました。実は、コロナ前から東京五輪がポジティブに語られることは少なく、バッシングはコロナ以降に起こったことではないのです。もちろん、競技やアスリートの話題は別なのですが、開催の是非や、組織・運営に関する話題は、震災復興、国立競技場、エンブレム、組織委員会の森前会長(以前から失言は取り沙汰されていました)の話題等々、大半がネガティブでした。
ポジティブな声が優勢だったのは、私が見る限り、開催決定時と、リオ五輪閉会式の五輪旗の「引き継ぎ式」の時ぐらいでした。その意味では、コロナ前から、炎上の火種は燻っていた——というよりは、すでに着火していたのです。
東京五輪のソーシャルリスニングの仕事から離れた後も、「最後まで成り行きを見届けたい」という思いは続いており、SNSの話題はずっと追いかけてきました。今回、このテーマで寄稿することにしたのも、そうした思いがあったからなのです。
東京五輪開催の可否に関しては、すでに様々な意見が出ていますが、最終的な結論を出すのは時期尚早と思われます。ここでは、私の意見を述べるのは最小限に留め、「SNSで東京五輪はどう語られていたのか」について、あくまでも中立的な立場から検証したいと考えています。
さて、東京五輪では、直前まで開閉会式関係者の辞任・解任が相次ぎ、SNS上でも、炎上状態にあり、最悪の状態で開会を迎えることになりました。
ところが、開会後は一転して、SNS上の話題はポジティブに一変してしまいました。ここまできれいに論調が変わるのは、私自身もこれまで見たことがありません。
より詳しく見ていきましょう。東京2020オリンピック・パラリンピックに関するTwitter上の話題量の推移は下図(図1)の通りです。
開催期間中、最も話題が盛り上がったのは、他ならぬ開会式の日で、実に500万件を超えるツイートがされたのです。
では、開会式はTwitter上でどのように語られたのでしょうか?
図2は、開会式(開催直後から翌日)に関するツイートのポジティブ/ニュートラル/ネガティブの構成比を示したものです。
念のために断っておきますが、この分析結果は、注釈にもある通り、オリンピック開会式に関する膨大なツイートの中から、200件をランダムサンプリングで抽出して、目視で分類したものです。AIは発展しても、現状の自動分析の精度は高いとは言えず、目視で行ったほうがむしろ精度は高いため、このような方法を取っています。正確な分析には、母数をもっと増やす必要はあるでしょうが、大まかな傾向はこれでつかめると考えています。
さて、実際、分析してみて驚いたのは、ネガティブなツイートよりも、ポジティブなツイートの方が3倍近くも多かったことです。開催直前までは、オリンピック開会式に関するツイートはネガティブなものが大半で、ポジティブな意見を探すのが難しいくらいでした。オリンピック開会式の後も、予算の問題、開催前の相次ぐ不祥事、統一感のない演出など、メディア報道や有識者の意見は、批判的なものが大勢を占めていました。
では、どうしてTwitterではポジティブな声が優勢だったのでしょうか?話題の内容については、次回に詳しく論じますが、多くのTwitterユーザーは、素直にオリンピック開会式の「瞬間」を楽しんでいたと言ってよいでしょう。
SNS、特にTwitterは、その瞬間瞬間の気持ちや行動を共有し合うツールであり、特に、五輪やその他のスポーツ、イベントと相性が良いのです。いくら、事前に多くの問題が発生していようとも、いざイベントが始まると、盛り上がらざるを得ない——というのが、良くも悪くもSNSの特徴でもあります。
今回の東京五輪は、開幕前後でSNSの論調がネガティブからポジティブに一変したことは、冒頭に書いた通りですが、開催前には散々叩かれた開会式が、皮肉にも論調転換のきっかけとなっていたようです。
次回は、SNSで実際に語られていた話題から、オリンピック開会式の動きを深堀してみたいと思います。
西山守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント/桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1998年3月、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了(物理学専攻)、同年4月電通総研入社。2016年12月電通を退社、2017年5月西山コミュニケーション研究所代表。2021年4月に桜美林大学 ビジネスマネジメント学群 准教授就任(主に、広告・マーケティングを教える)。
電通総研においては、主に、情報メディア関連、地域開発関連のリサーチ、コンサルティング業務に従事。電通では、主にマーケティングメソッド、ツールの開発やソーシャルメディアマーケティング、特にソーシャルリスニングの業務に従事。ソーシャルメディア、戦略PR等を活用した、リスクマネジメント、レピュテーションマネジメントに多数の実績あり。大手企業のソーシャルリスニング、およびマーケティング支援業務、官公庁や大手メディア等のリスクモニタリング、リスクコンサルティング実績もあり。
独立後は、電通グループを中心に、ソーシャルリスニングやSNSマーケティングをはじめとするコンサルティング業務や人材育成を行う。
これまでの著書(共著含む)に、『情報メディア白書』(ダイヤモンド社)の企画・編集・執筆、『クロスイッチ -電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた-』(ダイヤモンド社)の企画・執筆、『リッスンファースト!』(翔泳社)の翻訳出版を監修、『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(フィギュール彩)の執筆(共著)。