紙パンツを、自由になれる「ツール」として広めていきたい
大王製紙「エリエール」ブランドの紙パンツ「アテント」は、2020年に「もっといいパンツになる。」をスローガンにキャンペーンを開始。タレントの草彅剛さんを起用した13タイプのCMでは「誰よりいちばん近くにいて、誰よりいちばんいつも一緒で、誰よりいちばん長く過ごして、自分の人生に最後まで寄り添ってくれる存在って何だと思います?」と問いかけ、SNSでは「#常識をはきかえよう」で意見を募り、大きな話題を集めた。
そして今年6月、アテントは集まった声をもとに「もっといいパンツプロジェクト」を始動。第一弾として、「かくさないパッケージをつくろう」をテーマに、これまでにない紙パンツのパッケージづくりをみんなの声と一緒に始めたのである。
このキャンペーンの背景にあるのは、超高齢社会という日本の現状だと語るのは、クリエイティブディレクターの細川美和子さん。
「高齢化が進み、頼れる家族も少なくなっていく中で、誰かに迷惑をかけたくなくて抱え込んでしまう人が増えている。そんな風に孤立する人を減らしていきたい、というブランドの想いをオリエンで大王製紙さんから伺いました。介護や紙パンツの問題は、多くの人にとっていつか関わりが出てくるものです。だとしたら、紙パンツも含めた介護の『問題』を、みんなの『話題』に変えて、かくさずオープンにしていくことが、これからの社会にとって大切なことだと考えました」(細川さん)。
そして立ち上げ当初から検討を続けてきたのが、パッケージである。
「介護や紙パンツのことをかくすのではなく、話しあう空気に変えていきたい、という想いから広めたハッシュタグ『#常識をはきかえよう』には、おかげさまで多様な意見が寄せられていますが、その中でも多かったのが、パッケージに関する声でした」(細川さん)。ユーザー、あるいは介護をする人たちから挙がってきたのは、「いかにも紙パンツという見え方が恥ずかしい」「持ち歩きたくない」「家に置きたくない」「情報が多すぎてわかりづらい」といった声。
「従来のパッケージデザインのイラストや情報量が、紙パンツは高齢の方が使うものだと限定してしまっているとの声も多かった。でも若くても必要な状況の人はいるし、店頭に買いに行く人が高齢者とは限りません。そして年齢に関わりなく、日々使うものだからこそ明るい気持ちになれる美しいデザインをみなさん望まれていました。その声に応えながら、ブランドの姿勢を表明できるデザインが必要でした」とアートディレクター宮下良介さん。
そこで、みんなと一緒に目指したのは紙パンツが「メガネのように便利なツールであり、自由を楽しむための生活必需品」として前向きに感じられるデザインだ。
本プロジェクトでは、新たに設けたハッシュタグ「#かくさないPKG」で多くの人から現行品と新しいデザイン、両方について意見を集めた。さらにアテントが運営する介護生活コミュニティサイト「けあのわ」内で募集したユーザーや、介護福祉に関わる人々からプロジェクトメンバーを選定し、リモートで座談会を実施。できるだけ多様な立場からの声を集め、検討を重ねた末、8月に限定商品「アテント かくさないパッケージ」(計1000個)がWebで抽選販売されたのである。
販売された「アテント かくさないパッケージ」は、4色の色面構成によるデザイン。表面にはブランド名のみ、サイズなど詳細な情報をすべて裏面に記載している。一見、抽象的に見える図柄をよく見ると、それはパンツのフォルム。その名の通り、ユーザーが持ち歩いても恥ずかしくない、部屋の中においてもすっとなじむデザインに仕上がっている。
募集開始と同じタイミングでオンエアされたCMでは、草彅さんがこのパッケージを手にし、「おしゃれでしょ?堂々と紙パンツを持ち歩ける世の中になるといいなあ」と語っている。
みんなの声とアテントの想いを両立したデザインに
キャンペーン立ち上げ時からSNSを通して、親を介護している世代や介護関係者からは多くの声が寄せられてきた。しかし、新パッケージのためには実際のユーザ―の声ももっと聞きたいと考え、「けあのわ」から参加を募り、さらには「がんばらない介護」を長年提案してきた医師の鎌田實さんや、家族や介護についてユーモアを持って語るエッセイが支持を集めている作家岸田奈美さんとお母さんの岸田ひろ実さん、「ゆるスポーツ」を提案して共生社会の常識を変え続けている澤田智洋さんをといったプロジェクトメンバーを集めたのである。そして繰り広げられた対話をmountが制作を手がける公式サイトでわかりやすく公開。Twitterでは、アートディレクター 坂川南さんとコピーライターの明田川紗代さんが座談会のハイライト部分をエッセイマンガ風に仕上げて、楽しくアップしていった。
「SNSの声を集めることや座談会、その可視化に力を入れたのは、データや多数決をとるためではなく、一人一人がどんな意見を持っていて、どんなやりとりをして、最終的にどんな意志を持ってデザインを決めたのか、その対話のプロセスをかくさずオープンにしていくことこそが、介護の問題を個人が抱え込むのではなく、社会化することにつながると考えたからです」(細川さん)。
そしてさまざまな声が導いたデザインの方向性は、シンプルであること、アテントというブランドらしさがあること、かくさないで堂々と見せられること、自由を感じられること、など多岐にわたった。宮下さんはこうした方向性をもとに大王製紙チームと話し合い、複数のデザイン案を公式サイトとSNSで公開。さらに各案に対するリアクションも受けとりながら、プロジェクトメンバーとデザインについて話し合った。その流れもわかりやすく公開されている。
「紙パンツを使うのが恥ずかしいと感じ、家にこもり気味になる人もいる。必要な状況なのに使っていない人も多いそうです。そんな今の常識を変えていきたい――、それがアテントの想いです。対話を重ねながら、悩みながら、最終的にその想いを一番叶えられそうなデザインを選びました」(細川さん)。
それが、まさに「パンツを堂々と見せるデザイン」だった。「正直なところ、パンツの絵がパッケージにあるのはいやだ、という声もあったので、その頃合いをどうすべきか、悩みました。考えた結果、色面構成の美しいアートに見えるけれど、実はパンツのフォルムが浮かびあがってくるというデザインに落としこみました。堂々と見せることがテーマですが、見る人によってはパンツだと気づかなくてもいいと思っています」(宮下さん)。
吸収回数、サイズ、枚数、使用法など必要な情報は、すべて裏面に集約。ユニバーサルデザインの書体を採用し、視認性もしっかり担保している。「ユーザーの皆さんの声を直接聞いて、自分たちが大切にしてきたわかりやすさと、今求められているわかりやすさが違うのかもしれない」といった会話が大王製紙チームとも交わされ、今回はWeb限定販売ということもあり、思い切ったデザインに踏み込んだ。
8月21日に「アテントかくさないパッケージ」のWeb抽選販売の申し込みを開始したところ、「これなら持ち歩くことができる」「親にプレゼントします」「素敵です」といった声がSNSで多く見られた。そして、抽選販売には予定数を超える応募があったという。
そして当たった人の元には、ラッピングされオリジナルカードが付いた商品が届けられ、その様子もSNSに続々とアップされた。介護以外に「防災グッズとして備えます」という声も見られ、店頭やWebでのテスト販売のひきあいなどもすでに来ている。
「デザインがおしゃれになることが目的ではなく、紙パンツを使うユーザーや家族が明るく前向きになれたり、気持ちよく生活を送ることができる。それがデザインの目的。予想を上回る反響があり、直筆の感謝のお手紙や、デイケアや介護関係の方から好評の声を集めてくれたアンケートまでいただいた。今は店頭販売を希望する声に応えて、次に向かう準備を進めつつあります」(細川さん)
デザインを手がけた宮下さんは、「店頭で発売する際には、必要なデザインがWebで販売したものとはまた違ってきます。このデザインが正解であるのかまだわからないところもあり、今後も試行錯誤しながらですが、アテントのブランドを高めるデザインに貢献していきたいです。そしてパッケージだけにとどまらない、いろいろな声が集まっているので、今後も‟もっといいパンツになる“ためにできることを考えていきたい」と話している。