特に注目されるのが、世界の生活者に新たなコンテンツ体験を提供し、ブランドと生活者をつなぐ新たな場を提供する、各種プラットフォームの活用です。本コラムでは動画コミュニケーションにスポットを当て、Googleが主催するYouTubeで高い効果を獲得した動画広告を表彰する「YouTube Works Awards 2022」の審査員の皆さんと、これからのブランドコミュニケーションについて考えていきます。審査員の皆さんに聞く、5つの質問。1回目は嶋浩一郎さんです。
Question1
いち生活者としての自分を振り返って、日ごろのメディア・コンテンツ消費行動で変わったなと思うことはありますか?
コロナ禍の影響もあると思いますが、みんなチュートリアルの動画を見るようになっているように思います。
あと視聴デバイスで言えば、シニアの方がテレビ画面で YouTube を見始めているのを実感しています。それこそ、料理のレシピ動画を見ていたりね。逆に、若年層が友達とYouTubeをテレビ受像機で見始めて、テレビ放送も見るようになったなんて話も聞きますね。
もちろん、YouTube だから当然スマホでも見られるので、例えばベランダでバーベキューやろうという時に七輪の使い方を調べられたり、その場その場に合う使い方、デバイスの使い分けをされているのではないかと思います。
Question2
プライベートで、YouTubeをどんな風に見ていますか?
僕にとっての YouTube は一言でいうと「YouTube 先生」 という印象です。烏賊を捌けるようになったのは、YouTube 先生のおかげです。エンペラの剥がし方とか筋のとり方とか、やっぱりチュートリアルな内容は動画で見るのが一番わかり易いですよね。
例えばレシピのなかで玉ねぎがきつね色に焦げたら、っていうのがこのくらいの感じってリアルな色で見られるところとかYouTubeは素晴らしい先生だなと思っています。
楽器の練習とかもそうですね。あと最近娘がザリガニを釣ってきたんですが、それをどうやって飼えばいいのかは YouTube で調べましたし、ステイホームの間、ベランダで本格的に七輪で焼き肉をやってみよう、というときに七輪の使い方を調べたりもしました。
ライフスタイルが変化したときに、それを先回りして情報を提供しようとするユーチューバーのキャッチアップのスピードには目を見張りますね。
Question3
仕事では、YouTubeをどんなふうに活用していますか?
YouTube で起きているクリエイターのデモクラタイゼーションってすごいことだと思います。僕らは広告会社の人間としてテレビCMクオリティの映像を作ってきたわけですけど、新しい動画の作り方にものすごく学ぶところがあるんですよね。誰もが動画を投稿できる時代の作り込んでいない、生に近いコンテンツが持つ人を惹きつける力とか。
同時に、CMを作るテクノロジーや、タレントさんの起用など、ハイクオリティの映像の価値も認識されるようになる。ようは、映像表現の振れ幅が広まっているってことですよね。クリエイターとして切磋琢磨して行かなきゃと感じますよ。
Question4
今後のブランドコミュニケーション(お仕事)でYouTubeをこんな風に活用したい!と思うアイデアがあれば教えてください。
「違いを見つけるマーケティングから、同じを見つけるマーケティングへ。」と僕はここ数年のブランディングの進化の方向を捉えています。
そういう時代の中でYouTubeってすごい可能性を秘めている場所だって感じるんです。昔は広告って人と違うことを行ったほうがモテたんです。うちの車はこんだけ燃費がいいです、とかうちの車はデザインがこうです、とか。市場におけるスペックの優位性を語ることでブランドを差別化していたんです。
でもいまは市場における優位性を語るより、社会におけるそのブランドの役割を語るというようなサステナブルな時代になってきていると思うんです。
洗浄力の高いシャンプーです、と言っていたものが、今の時代だと、女性の髪型の自由を応援したいブランドです、ひいては女性の生き方が自由になるといいと思っているブランドです、というように。「市場における私」をアピールする時代から、「社会における私」をアピールする時代になってきている。
これまでは同業者と競争していたんですが、今の時代は異業種と手を握る時代です。同じ志の人、女性の自由がいいよねというブランドが手を握る。だから、トイレタリーメーカーと金融と流通が仲間になるかもしれない。そんな時代です。同じヴィジョンを持って握れる仲間を探す。
そういう意味でYouTubeという場はそういう世界観に合っているんです。ユーチューバーの皆さんの考え方って、「好きなものが同じ仲間を見つける、集める」ってことで、その志向性でYouTubeは拡張してきたわけです。YouTubeに来る人も自分と同じ好きを見つけたくてその場にやってくるわけで、おなじを見つけるマーケティングの時代にYouTubeというプラットフォームはすごく、場が持っている空気があっているんですよ。共創時代のブランディングにすごく可能性を秘めているプラットフォームであると感じます。
また、人って不器用だからなかなか欲望を言語化できないんです。ある脳科学者によると人は自分の欲望の 5 % くらいしか言語化できていないそうです。でもその言語化できていない欲望が、YouTube を見ている中で発見できることってあると思っています。リコメンドエンジンの絶妙なノイズの取り入れ方がいいんですよ。そういう新しい欲望の胎動を感じさせることができる、そういうコンテクストでコンテンツを見せることができる点にも可能性を感じています。
Question5
「YouTube Works Awards2022」の審査や応募作品に期待することは?
未来の広告のヒントになるエッセンスがある作品をみんなで議論したいと思っています。先ほども話した通り、ブランドのあり方が変わっていく時代だと思うんです。コロナでエッセンシャルなことってなんだろうってみんなが考えた時間があったじゃないですか。厳しい話ですが、このブランドはなんのためにあるんだろう、と考えるような、本質的な時代になってきていると思うんです。かつ、デジタル化が進む、Z世代はサステナブルな世の中を求めていく、というように生活自体が変わっていく可変要素が一気に動いている感じがあるでしょ。YouTubeの特性を使って、ブランドをどう作れるのか?楽しんで議論したいと思います。
1993年、博報堂入社。コーポレートコミュニケーション局で企業の情報戦略に携わる。2001年、朝日新聞社に出向。04年、本屋大賞立ち上げに参画。現、NPO本屋大賞実行委員会理事。06年、既存の手法にとらわれない課題解決を行うクリエイティブエージェンシー・博報堂ケトルを設立、共同CEOに。トヨタ、KDDI、資生堂などの統合キャンペーンを多数手がける。2012年、東京下北沢に内沼晋太郎と本屋B&Bを開業。「欲望する言葉〜社会記号とマーケティング」などの著作。