特に注目されるのが、世界の生活者に新たなコンテンツ体験を提供し、ブランドと生活者をつなぐ新たな場を提供する、各種プラットフォームの活用です。本コラムでは動画コミュニケーションにスポットを当て、Googleが主催するYouTubeで高い効果を獲得した動画広告を表彰する「YouTube Works Awards 2022」の審査員の皆さんと、これからのブランドコミュニケーションについて考えていきます。審査員の皆さんに聞く、5つの質問。4回目は川嵜 鋼平さんが登場します。
Question1
いち生活者としての自分を振り返って、日ごろのメディア・コンテンツ消費行動で変わったなと思うことはありますか?
私は趣味でピストバイクに乗っていて、「FxD BLN」というYouTube チャンネルをよく見ています。ベルリン在住のピストバイククルーがベルリン、ブレーメン、パリなどの街並みを楽しそうに自転車で走っているのですが、動画の仕上がりも美しく、仕事の合間の現実逃避にとてもいいんです。
テレビは受け身ですが、YouTubeをはじめとした様々な動画配信サービスを通して、より身近で、能動的に接するものに変わったと思います。活字離れという言葉をよく耳にしますが、動画で知りたい情報を検索したり、ながら見したりと、あらゆる世代にとって24時間365日、人の暮らしに寄り添う存在になったと思います。
Question2
プライベートで、YouTubeをどんな風に見ていますか?
個人としては、YouTubeは「最も身近なインプットツール」だと思っています。日々大量のプロダクトやプロモーションづくりを推し進める中で、またコロナ禍ということもあり、日々の暮らしの中で“インプットの質と量”が重要になったと感じます。
YouTubeだとカンヌライオンズクリエイティビティフェスティバルなどの過去から現在までの受賞作を見ることもできますし、広告以外にも、プロダクト・アート・テクノロジー・建築・フードクリエイションなど、日々ものづくりをしていくための下準備として、自分の興味関心に即したインプットが可能なツールだと感じます。
Question3
仕事では、YouTubeをどんなふうに活用していますか?
当社では「ブランドの体験装置」として YouTube を使っています。
マーケティング観点でいうと、特定製品のプロモーションにおいて、どんなターゲットにどういった価値を訴求し、ファネルのどの部分の、どのようなスコアを上げたいかという従来型の使い方もできると思います。ですが昨今、生活者は「製品を選ぶときに、その企業に投票する」ような意識で購買するようになり、製品価値よりも企業姿勢が重要になる時代に入ったと思います。
ですから、YouTube自体をブランドパーパス起点に「ブランドが世界をどう見ているか」という視点でストーリーテリングしていくということで、ファンを作っていくことが可能だと思っています。
また従来型のマーケティングでは、テレビCMのようにワンメッセージ型でシンプルなメッセージを広く届けていくというのが一般的だと思うのですが、YouTubeはそんなマーケティングの外側にある”多様な視点や価値観を深く体験する”ブランデッドコンテンツを発信する場にもなってきていると思います。
最近 LIFULLでそんなYouTubeを活用した実験的な取り組みとして、“ラベリングではなく、ありのままを認める”というLIFULLの企業姿勢を色濃く伝えていきたいと考えて、YouTubeを見て対話が生まれるドキュメンタリーフィルムを2つ発表しました。
ひとつは「年齢による固定観念や偏見、差別」であるエイジズムをテーマとした『年齢の森-Forest of Age-』。もうひとつは、日本では「ジェンダーについて議論したくない方が約6割といる」と言われているジェンダー ・多様性をテーマにした『ホンネのヘヤ』です。
これらの対話が生まれる動画を通して、一人ひとりの違いを知り、ありのままを認める大切さに気づいていただけることを願っています。
私としては、従来型のマーケティングにおいても、非マーケティングにおいても、「ブランドの体験装置」としてYouTubeは有効だと考えています。
Question4
今後のブランドコミュニケーション(お仕事)でYouTubeをこんな風に活用したい!と思うアイデアがあれば教えてください。
まずYouTubeを活用する際には「ブリーフを作り込みすぎないこと」が大切です。
マーケティングは、戦略思考でものづくりをしていくトラディショナルなアプローチ。私たちも、大きな広告宣伝費投資をする際には、コミュニケーションブリーフをまとめます。ブランドパーパスや、フォーカスするプロダクトのどんな価値を伝えるか。どんなターゲットのどんなファネルのどんなスコアを上げたいのか等。ブリーフではこれらを細かく設計するのですが、YouTube は視聴者と共にコンテンツ開発する側面が大きいと思っています。関わるクリエイターの美意識だったり、言葉にできない感情なども織り込んでこそ再生回数は伸びますし、高評価されるものだと思っているので、ある程度方向性は握りつつも、受発注の関係ではなく、パートナーとしての”ユルいつながり”の中でものづくりをしていくことが非常に重要だと思っています。
特に YouTube は「私たちの製品を使ってください」って宣言しても誰も見てくれないと思うので、企業としてどんな存在でありたいか、視聴者と共にどのようにブランドを作っていくという観点を持って、ものづくりをしていくことが重要だと思います。私たちLIFULLとしても、今まで以上に共通性・共感性のある社会課題をテーマに、生活者を深く巻き込んでいくコンテンツ開発に取り組んでいきたいと思います。
Question5
「YouTube Works Awards2022」の審査や応募作品に期待することは?
私は「Force for Good 部門」代表審査員を務めますが、日本では「Force for Good」 部門で評価するような、社会課題に取り組んだキャンペーンは決して多くはありません。だからこそ、今こういったテーマに取り組んでいる企業に対して、しっかりと評価をすることで、様々な企業やクリエイターを巻き込んで、より良い社会を作っていきたいと思っています。
審査の指針としては、大きく3つです。
・社会課題に光を当て、より良い未来を実現できるアイデアか?
・”なぜこのブランドが発信しているのか”という問いに答えられる責任あるメッセージか?
・自社の事業インパクトだけでなく、ソーシャルインパクトが生み出せるソリューションになっているか?
企業が「世界をどう見ているのか?」という意志あるプロジェクトを評価したいと思います。熱意ある作品のご応募をお待ちしています。
執行役員 CCO(Chief Creative Officer)
川嵜 鋼平氏
2017年LIFULL入社。執行役員CCOとして、ブランド戦略、ブランドデザイン、プロダクトデザイン、マーケティング、新規事業、研究開発なと、グループ全体のクリエイティブを統括。またクリエイティブ組織の戦略策定・育成・採用など、組織づくりも担う。
最近のプロジェクトに、LIFULL企業CM「しなきゃ、なんてない。2021年」篇、「地球料理 -Earth Cuisine-」などがある。Cannes Lions 金賞、文化庁メディア芸術祭優秀賞など国内外180以上のデザイン・広告賞を受賞。