今回は海外のエージェンシーでの制作プロセスなどをお話しようと思っていたのですが、つい先日SOURの新作「映し鏡」をローンチしたこともあるので、少し予定を変更して、それに絡めてエージェンシーでの制作活動と個人での制作活動の関係について書こうと思います。
ツイッターやいろいろなサイトで取り上げていただいているので、ご覧いただけた方も多いかもしれませんが、SOURというバンドの新曲「映し鏡」のためにインタラクティブミュージックビデオなるものを作りました。 この曲は、身の回りにあるすべての人やモノがあなたを映す鏡であり、そこに映った姿を通して自分自身が誰であるのかを知ることができると歌っています。
この歌詞を聞いたとき、オンライン上での他者とのつながりを通して、自分自身をみつける旅をするといったイメージが浮かびました。そのアイデアを膨らませて、インターネットのソーシャルネットワーク上に存在する個人のデータを集め、それを活かしたインタラクティブミュージックビデオを作れないだろうかと考えました。そして結果的にフェースブック、ツイッター、Webcam(ウェブカム)に接続することで、ソーシャルネットワークの状況に応じて見る人ひとりひとりが自分自身にカスタマイズされた映像を体験することができる作品が完成しました。
この仕事は、会社と関係ないところで制作したいわば個人プロジェクトです。SOURの仕事はこれまでもずっとそうでしたし、古くはRainbow in your handから最近ではAsher RothのWebサイトや、“T shirts”や“Everyday is Special”といったプロジェクトはどれも個人でのプロジェクトです。
僕の中では、広告制作と個人プロジェクトへの想いやアプローチの仕方はほぼ同じです。正直大きなブランドのグローバルキャンペーンだろうが、小さい個人の趣味のようなプロジェクトだろうが、今の時代ネットに載ってしまえば等しく評価されるし、世の中に与えられるインパクトはドンドン差がなくなってきていると思います。よく使う喩(たと)えなんですが、何億ドル使ったCMだろうが誰かの家のハムスターの動画だろうが、みんな同じようにフラットに鑑賞している。大事なのはブランドの大きさじゃなくて、ますますアイデアの大きさなんですよね。
広告と個人制作では、使えるメディアや予算などの違いなどを除いて、考え方の部分で唯一異なる点があるとすれば、クライアントから与えられた課題に対する回答をみつけるか、自分で自ら発見した課題に自分で答えるかの違いだと思います。どちらのサイドもお互いに良い刺激を与えてくれるので、ある一定のバランスが取れるように心がけています。
例えば、個人制作で培うことができる「問題を発見する能力」は広告制作の仕事をする上でもすごく役に立ちます。与えられたオリエンだけじゃなくて、自分で考えてクライアントの問題点をみつけられるようになる。少し古いですが、“Axe Wake Up Service”(ユニリーバ)のアイデアを思いついたときはまさにそんな感じでした。自分でどうすればもっとAXE(アックス)を使ってもらえるかを考えた結果、毎朝の習慣にしてもらうべくAXE発の美女目覚ましサービスを始めたらどうかと思いついて自主プレゼンしたところから始まりました。(次ページに続く)