【CES2022】米国企業は持続可能性を主要論点に。そして、P&Gはメタバースに進出する。(森直樹)

年の初めに1年間のテクノロジートレンドを知ることができるイベントである、世界最大規模のテクノロジーカンファレンス「CES」が今年もやってきた。今年はパンデミックの影響下だが、オンラインとオフラインのハイブリット開催となった。筆者は現地へ向かう予定だったのだが、残念ながらオミクロン株のリスクが高まるなか、今年もリアル参加は断念、オンラインでの参加となった。

2年ぶりのリアルもある2022年CESは、北米(ラスベガス)時間で1月5日〜1月7日の3日間にわたって開催され、世界中から2200社以上の出展、40以上のオンラインをライブストリーミングが予定されている。

CESでは、スマート家電に始まり、モバイル、自動車、ロボティクス、IoT、AI、XRなど、先端的な取り組みに触れることができる。テクノロジーは、企業活動、ライフスタイル、そして持続可能な社会を考える上で、もっとも重要な変化への影響を持ちます。米国を中心とした先端企業の発信は、マーケターにとっても注目すべきことが多くあるのではないだろうか。

CES2022オンライン参加レポート、最終回となる第3弾は、米国・巨大企業がCESで何を発信していたのか? 筆者視点のアラカルト形式でお届けしたい。
まず今年のトレンドは、各社共にサスティナビリティへの取り組みとして、資源・カーボンニュートラル・エネルギーへの対応を論点、中心課題に据えて発信していたのが印象的だった。しかも製品・サービスと直接繋げており、プレゼンテーションのストーリーとして当然のごとく、サスティナビリティが組み込まれているのはさすがと感じる。そこで本稿では、そんな視点からGMとP&Gのサスティナビリティ文脈の発信を中心にお届けしたい。

2040年までにカーボンニュートラルな企業になることを宣言したGM

GMはGeneral Motors Chair and CEO Mary Barra氏が基調講演に登壇した。同社は、昨年のオンラインCESの基調講演で、EVに舵を切るためにブランドを刷新、新しいロゴを発表したことで話題になった。
Mary氏は基調講演の冒頭で、GMは人と物の移動方法を再定義し、事故ゼロ・排ガスゼロ・渋滞ゼロの世界のビジョンの約束がムーブメントとなり、競合他社に対する優位性を獲得していると話した。
GMは、2040年までにカーボンニュートラルな企業を目標に掲げ、2025年までに電気自動車と自律走行車に350億ドルを投資する計画を発表。さらに、2025年までに米国の全施設、2023年までに全世界で100%再生可能エネルギーを使用するという。GMは基調講演の冒頭で、自社のEV化へのシフトと、ファクトとしての製品群の発表と、サスティナビリティへの取り組みを一体として紹介、本気度をうかがわせた。

事故ゼロ、排ガスゼロ、渋滞ゼロをビジョンに掲げることを説明するGeneral Motors Chair and CEO Mary Barra氏。

GMは自動会社からプラットフォームイノベーターへ変貌と遂げたと主張。

2040年までにカーボンニュートラルゼロ達成を宣言。

GMは、2025年までに米国の全施設、2035年までに全世界で100%再生可能エネルギーを使用する計画だという。

GMが提供する価値はプラットフォームへ

Mary氏は、GMは従来の自動車メーカーから世界を変えるためのビジョン・人材・技術を兼ね備えたプラットフォーム・イノベーターへと変貌を遂げたと主張した。GMは、2025年までに約25億ドルを投じて米国とカナダで充電器へのアクセスを拡充するという。EVに必要な充電網への投資はテスラの取り組みに重なると感じる。EVは、自動車もそうであるが、社会インフラへの投資が自動車会社としての競争優位を確立すると筆者は考える。まさにプラットフォーム企業へと変化しつつあること感じる。

そしてアルティウムという、コンパクトクロスオーバーからトラック、スポーツカーに至るまでいたるまで、さまざまな種類の電気自動車を作ることができる、バッテリーアーキテクチャと電気推進システムによる革新的な車両プラットフォームを発表。その他、ソフトウェア、サービス、所有体験をシームレスにユーザーに提供可能にするAltiumというソフトウェアプラットフォームや、重要なソフトウェアをハードウェアから分離するLinuxベースのソフトウェアプラットフォームの開発を発表。今後、GMはドライバーにシームレスにアプリを通じてパーソナライゼーション・オプションを頻繁に、ドライバーが望むタイミングで提供できるという

筆者が感心したのは、GMが定期するソフトウェアプラットフォームは、開発者に対しても使いやすいプラットフォームであることを説明していた点だ。これは、これらのプラットフォームが第三者であるパートナー企業との共創関係のエコシステムを構築していることを想像させる。まさしく、米国IT巨人企業と同様に、オープン・イノベーションによってGMは新たなプラットフォームのエコシステムを築き競争優位を高めようとしているのではないだろうか。

FedEx、ウォールマートに導入。B2B領域でプラットフォーム型ビジネスに着手

GMはプラットフォーム志向型ビジネスをB2B領域においても、いち早く取り組んでいる。基調講演では、ブライトドロップという、商用自動車・電動コンテナ・クラウドベースのソフトウェアからなる物流エコシステムが紹介された。このモデルは昨年のCESの基調講演ですでに発表されていが、GMから独立した事業会社、ブライトドロップ社として実現したという。
同社は、スタートアップ企業が有する最先端の革新性・俊敏線・集中力と、GMが持つエンジニアリングと製造力の組み合わせにより、従来の自動車メーカーとスタートアップの両方に対して強力な優位性をもたらすという。まさに、大企業とスタートアップ共創の実現である。ブレーキドロップ社は、構想からたったの20カ月でFedExに最初のオール電化デリバリーバンを納入しているという。それは、GM史上最も早く市場に投入された車両であるということだ。

基調講演ではFedEx北米担当社長のリチャード氏がゲスト登壇、2024年までにカーボンニュートラルなオペレーションを実現するという。そのために、20万台以上の中型電気集配車を導入することを想定、2030年までには全世界の集配車を100%電気自動車にするというのだ。

GMはFedExに数年でEVバン2000台を納入し、将来的には最大2万台にするという。また、FedExは電動パレットのEP1(写真)の導入も開始したという。

CONSTRUCTIVE DISRUPTION(建設的破壊)を掲げるP&G

P&Gは昨年、同様にオンラインでCESに参加した。オンラインプレスカンファレンスと、VR上の空間を提供し、P&Gの新しいプロダクトとの接点を作っていた。オンラインプレスカンファレンスでは、チーフ・ブランド・オフィサーのMarc
Pritchard氏が登壇した。
Marc氏は、今年のCESの参加目的は3つあると話した。ひとつは、最先端の技術をブランドに組み込み、新しい方法で優れたパフォーマンスを実現する方法を示すこと。2つ目は、P&Gが創り出す体験のあらゆる側面を向上させる新たなパートナーを開拓すること。3つ目は、未来の可能性を見出すため、だという。

P&Gは、自社の製品であるカミソリや歯ブラシ、洗剤ブランドのTideなどを紹介。P&Gは、科学技術力によって、環境の持続可能性に取り組み、消費者が必要とする優れた日常生活のパフォーマンスと、消費者が望むサスティナビリティのメリット、地球にふさわしい未来を実現するソリューションを開発しているという。例として、プラスチックの削減、パッケージのリサイクルへの取り組みを取り上げていた。

P&Gは科学技術により環境の持続可能性に取り組むための製品開発を行っていることを紹介。

メタバースへの参入を宣言した、異色のP&G

P&Gは昨年立ち上げた、同社の新しい取り組みを紹介する仮想空間「LIFE LAB VIRTUAL EXPERIENCE」を今年も開設して、世界中から仮想空間でP&Gの展示体験が可能であることを紹介していた。
今回、筆者を驚かたのは、建設的破壊の取り組みの一貫として、P&Gがメタバースへ参入したことを宣言したことだ。人々がブランドと関わる新しい最先端の方法として、「レスポンシブル・ビューティー」という新たな取り組みを紹介。その取り組みのひとつの形として、仮想空間であるP&G Beauty sphere発表したのだ。Beauty sphereは、没入型のメタバースであり、人々が探索、学び、繋がり、楽しむことが可能なオープンな空間だという。Beauty sphereについてP&GビューティーのCEOであるAlex Keith氏が自らアバターとなって登壇。この取り組みは、ブランドと製品、その価値観と関わるための最も新しい方法を提供し、意味のある体験を創造することに挑戦しているという。

P&GはCESにおいて、毎年コミュニケーションの革新的な取り組みを発信している。それは、デジタルへの広告投資への移行や、フェイクコンテンツへの対応など様々だ。メタバースへの取り組みもその一環であろうが、製品開発における環境への取り組み、コミュニケーションにおける新しい可能性としてのメタバースへの取り組みなど、新興技術に対する取り組みと、その発表の場としてのCESでのストーリー作りと活用は、国内マーケターが見習うべきところが多いと筆者は感じる。

P&Gは仮想空間上にLIFE LABを設置。パンデミック前までリアル展示していた体験を仮想空間でそのまま体験できるような工夫がなされていた。

登壇したP&GビューティーのCEOであるAlex Keith氏。

Alex氏は自らがアバターとなりメタバース上に登場するという演出も面白い。

肌感、参加率は従来の50%くらい―現地参加者からのレポート

今回は、ラスベガスの会場に参加された方に取材を試みた。現地の目でハイブリットCESがどのように映ったのか?CESレポートの締めくくりに、現地参加者からの取材レポートをお届けしたい。
米国・サンフランシスコで日本企業向けにイノベーション創出支援を行っている、ビートラックス社のブランドン氏にインタビューを行った。今年の展示会場での混雑状況は、肌感覚で例年の50%程度に感じるという。現地では、マスクをしていれば行動制限がなく、かなり密な場面もあるという。

ブランドン氏が興味を持ったのは、「JOHN DEER」という米国の農業機械のプレゼンテーション。農業を自律的に行い、人が乗らなくて良い。検知機能が優れており、雑草だと農薬を散布、農産物だと肥料を散布するという。まさにスマート農業だ。
またブランドン氏は、LGの展示について解説。LGは毎年LVCC(コンベンションセンターの中心)にて大規模展示をしているのだが、今年は展示を取りやめて変わりに解説用のQRコードを広大な会場に設置するというユニークな取り組みを紹介した。

触らなくて良いUI(ユーザー・インターフェース)に注目

ブランドン氏によると、展示からパンデミックから人々の意識の変化に対応した新しいUIについて着目したという。そのひとつが触らなくて良いUIだ。衛生や感染対策系のタッチレスUIが多く出展されていたとのことで、タッチレスで操作できる水道の蛇口、浮き出すボタン、カメラセンサー技術を使ったジェスチャーUIや音声認識など多く出展されていたとのこと。

スタートアップの出展が集積するEureka Parkに出展された空飛ぶ車「SkyDrive」のデモ展示を体験する、btrax CEO, Brandon K. Hill氏。

イーロン・マスク氏が設立したThe Boring Companyがラスベガスに建設した地下トンネル「テスラループ」の様子。広大なラスベガスコンベンションセンターをテスラに乗ってトンネルの中を移動できるという。撮影:Btrax,Brandon氏。

JOHN DEER 社のAIによるフルリ−モート農作業が可能なトラクター。撮影:Btrax, Brandon氏。

SAMSUNGは、LVCC(ラスベガスコンベンションセンター)内に、展示スペースを復活させた。混雑具合は例年の5〜7割り程度か? 撮影:電通イノベーションスタジオ 公門氏。

SAMSUNGとは対象的に、LGは広大な出展スペースをQRコードでの紹介ページへの導線のみ設置する形で対応していた。撮影:電通イノベーションスタジオ 公門氏

サスティナビリティへの対応はCSRでもPoCでも長期的な目標でもない

以上、筆者のオンライン参加と現地参加者へのインタビューを通じてお届けしてきたCES2022レポートだが、全体を通しての感じたことは、米国・韓国のテクノロジー巨大企業は、環境やエネルギー、カーボンニュートラルへの対応をプロダクトにおける競争戦略の中心に据え、既に市場に打って出ている印象だった。CESの記者発表や基調講演で語らことは、サスティナビリティが中心軸にあった。そして、非常に印象的であったのは各社がプロダクトやサービス、パッケージなどのサービスをファクトとして発信していたことだ。
日本においても、SDGsやESG文脈での企業による発信が加速することは間違えないと思う。その時、自社の事業や製品の延長線上にファクトを含めて発信できているのか?自社の競争優位に寄与していると言えるのか?
CES2022での発信を参考にアセスメントすることをお勧めしたい。
 

森直樹
電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センター エクスペリエンスデザイン部長/クリエーティブディレクター。

光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。

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