共同創業者/共同CEO
小塚泰彦氏
こづか・やすひこ 博報堂でコピーライター、アートディレクター、生活総合研究所研究員などを経て渡英。 Royal College of Artを中退しロンドンで起業。世界トップのグローバル企業から京都の老舗まで幅広くトランスクリエーションを提供。
ブランドの「意味」をリ・デザインし、新しい共感を生む
「パーパスやビジョンを策定したものの、直訳では海外で伝わらないと感じている」「外国語でふさわしい言葉が見つからない」「コーポレートサイトは外国語対応しているが、タグラインは本当にこれで良いのだろうか」「海外で意図しない意味に捉えられないか心配」——。
こうしたグローバル広報にまつわる悩みに寄り添うのが、多言語コンサルティングファームのmorph transcreationだ。国や地域で異なる文化や文脈を踏まえ、共感が高まる言葉を設計する「トランスクリエーション(創訳)」に特化した事業を行う。東京・ロンドンに拠点を置き、日・英・中・韓などに対応。戦略的でクリエイティブな翻訳だけでなく、企業ブランドの価値を多言語で再定義し、新たに意味をデザインするところまで踏み込むのが同社の特徴だ。
最適な文脈に位置づける
「企業が大切にしているメッセージの意図を正確に見極め、それぞれの国や地域で共感されやすいように意味を多言語でデザインしていくことが、コーポレートブランディングにとってとても重要です」と小塚CEOは話す。
たとえば「ダイバーシティ&インクルージョン」。昨今、企業指針としてD&Iへの取組みを重視する企業は増えている。しかし「インクルージョン」という言葉は、日本で具体的に理解されづらいのが現状だ。米国のように人種、肌の色、宗教などの違いが顕在化しやすい国に比べ、日本では個人間の違いが見えにくい。ある米国大手IT企業のプロジェクトでは、morph transcreationが「インクルージョン」の意味を再定義。日本にある「お互い様」の文化を踏まえ、お互いに寛容であろうとする「互寛容」という言葉にトランスクリエーションすることで、新しい共感が生まれ社内での理解が進んだという。
「企業ブランドを構成する考え方やストーリーが外国語に翻訳された時、意図しないニュアンスで捉えられてしまうと、広報としては致命的です。日本において良い意味でも、海外では良い意味に解釈されない表現も多々あります。私たちはブランドの意味を文脈に応じて最適に設計し、ブランドの価値を向上させるためのサポートを行っています」と小塚氏。
例えば老舗京湯葉専門店の千丸屋に対しては、「湯葉」そのものの意味をデザイン。グローバル広報に活かそうとしている。湯葉の英訳は「soy skin」が一般的。しかし、湯葉を食べたことのない英語圏の人にとって、それでは良いイメージがわきづらい。自然が育む大豆と清らかな水によって一枚一枚多様な紋様を描く湯葉。その情緒も含めて感じとれるよう「golden leaves」とトランスクリエーションした。大豆の英語の俗称は「golden bean」。光に照らすときらめきを放つ食べ物であるという意味も踏まえている。この再定義によって、湯葉の価値の新たな位置づけが見出され、海外展開に向けた経営戦略も広がりを見せているという。
一貫した物語が語られているか
企業ブランドの構築は、意味という建築物の設計だと小塚氏は指摘する。物理的な建築の場合、土地の歴史、外観と内観の意匠、マテリアルの質感、窓や家具の配置などから、その空間を経験する人の内面にストーリーが立ち現れる。
「企業ブランドも同様に、『物語ることのできる意味が埋め込まれた建築物』として設計可能です。するとそこで働く人たちは意味を共有し、企業ブランドの一貫したストーリーを語れるようになる。人は意味を理解し共感すると、自分の行動や存在意義に自信を持てるものだと思います。企業ブランドにおいて、意味を戦略的に設計することで、顧客や社員のブランドに対する理解と共感が深まります」。
コロナ禍で社会環境が変化し、ブランドの意味を適切に再設計する重要性は高まっている。メッセージの受け手への心理的、文化的配慮が問われているのだ。morph transcreationでは、企業ブランドの意味をリ・デザインし、多言語でコンセプトやスローガンなどをつくることで、ブランディングを強化したい企業を支援していく考えだ。
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