KDDIは2021年12月、携帯ブランド「UQ mobile」で、〈6秒間〉という特殊なフォーマットでテレビCMをオンエアした。視聴者からは「短いCMが流れてびっくりした」「短くてパワーがある」といった定性的な反響のほか、実際にテレビ画面に目を向けていたかの「注視率」でも高スコアとなった。
「YouTubeでの広告やTikTokといった短い動画を楽しむサービスが普及するなか、CMのリーチ拡大や注視率向上への寄与を狙った施策でした」と話すのは、左記の反響を紹介したKDDI宣伝部メディア・クリエイティブ企画室長の合澤智子氏だ。
「短尺CM自体へのお客さまからのポジティブな意見も多く見られ、新しいフォーマットの手応えを感じました」(合澤氏)
内容は同年9月に開始したCMシリーズ「UQUEEN」で、「女王」(満島ひかり)による「6秒? たっ……た6秒で伝わるのか?」のセリフに加え、「家族全員(自宅セット割でスマホ1人あたり)990円(/月、税込)から」と、限りなく情報をシンプルにしたもの。YouTubeで配信するインストリーム広告をテレビで活用した。
分析を担ったのはTVISION INSIGHTS(TVI)だ。関東1都6県で2000世帯、関西は2府4県で600世帯を対象に、テレビに備え付けたセンサーを通じて、テレビ前にいる複数の視聴者の目や顔の向きに関するデータを収集。「実際に視聴していたのか」「それはどんな人か」といった「質」に踏み込んで分析している。
「まず、リーチの面では関東、関西ともに一定の効果が見えました。詳しい数字を明かすことはできませんが、6秒CMは、リーチを効果的に獲得するために、有効な手段と言ってよいと考えています」とTVIの東野晃大氏は話す。
「ほかの側面では、やはり短さもあって、最後まで視聴した『完視聴率』も高くなりました。これはクリエイティブ(広告表現)が寄与した面も大きかったと思います。また、リーチを広げるにあたって、事前にお伝えしていたのは、オンエア時の環境でした。どのように流すか、ということです」(東野氏)
今回の6秒CMは21年12月1日から1カ月間、テレビ番組「情報ライブ!ミヤネ屋」(日本テレビ系)や「Going! Sports & news」(同)で約90本オンエアした。
「私のほうにも視聴者からの反響や、当社の別のクライアントからの声をいただきました」と話すのは、読売テレビの城達也氏。
「ローカルCM枠の前後6秒ずつを用い、間を別素材で埋めながら毎回手動で枠組みを設定していったのは、今回新たなチャレンジだったと思います。その分、リーチだけでなく、接触頻度(フリークエンシー)という側面でも、コントロールできたのではないでしょうか」(城氏)
1カ月間、たびたび目にすることになるCM。「言いたいことだけをたたみ掛けるような表現では、むしろ逆効果になるだろうと考えました」と合澤氏は振り返る。
「15秒や30秒でも根本的には同じなのですが、よりシンプルに、ストレートに伝えられるか、ということを内容面では意識していました」(合澤氏)
情報の流れ、メディア横断で
6秒間、という尺の長さは、ここ数年間でますます普及した、オンライン動画での広告サイズを思わせる。ふだんネット動画に親しむ層にとっては、逆にテレビでそれを目にするという新鮮さがあったのではないか。
しかし実は、飲料メーカーや家電メーカーによって2009年ごろに5秒CMの例がある。さらに遡れば、1962年にアサヒビール「アサヒスタイニィ アッ」篇、63年にアイデアル「洋傘の骨」篇、64年に興和「キャベジンコーワ 玉川良一」篇などがある。特にアイデアルは、出演した植木等のキャラもあいまって「なんである、アイデアル」のキャッチフレーズが一世を風靡した。〈シンプルなメッセージの強さ〉は、時代を選ばない。
一方、時はくだって現代。「UQUEEN」の6秒CMは、単なるリバイバルでも、ネットからの逆輸入でもないところがポイントだ。合澤氏は「ひとつは、6秒CMだけで完結するわけではなく、ほかの15秒CM、30秒CMとの相乗効果を作り出すことが重要です。もうひとつはメディアへの接触態度の変化。視聴された方の反応をデータで捉えながら、その先のコミュニケーションをより良くしていくことです」と語る。
テレビで流したもののほか、YouTubeで配信する短尺の動画広告を含め、ポイントは〈作品世界〉の作り込みにある。
「15秒、30秒はストーリー性に重きを置いていますが、そこで築いたものがあるからこそ、6秒という短い映像を目にしても、同じ世界観の中の一幕、という位置づけになります。つながりができる、ということです。絵作りひとつについても、店頭のポスターやグラフィックになったときでも同じ印象、同一性を持たせることを意識しています」(合澤氏)
「テレビを、動画視聴のデバイスと改めて捉えたときに、そこで流れる広告がどのように受け止められるか。改めて分析が欠かせないものになっています」と話すのは東野氏だ。
「インターネットにつながったコネクテッドテレビが広まりつつありますが、いわゆるテレビ番組と、ネットを介した動画コンテンツが、ひとつのデバイスで視聴されるようになりました。当社でも双方で視聴質の分析を実施していますが、テレビデバイスでの広告視聴については、さらに研究を深められる余地があるのではないかと思います」(東野氏)
城氏も「視聴者の視座に立ち返れば、情報取得の選択肢は増えていますし、テレビもその一つという位置づけではあると思います」と言葉をつなぐ。
「だからこそ、正確性のある情報発信やリッチコンテンツをいかに生み出すか、という点が、テレビにとってまず大切であることは間違いありません。一方、見逃し配信やソーシャルメディアなどをもっとうまく用いて、オンラインの強みも生かしながら広告で課題解決を果たす、ということも重要です」(城氏)
テレビとスマートフォンを行き来しながらコンテンツを楽しむ、という視聴スタイルもいまや珍しくないものになった。それぞれのメディアで広告の受容のされ方というのは確かに違うが、コミュニケーションとしては、各メディアで境界を引く必要はない。
「むしろ、広告を含め、テレビで体験したことについて、また別のメディアに話題が波及していく、あるいは今回のように、ネットで目にしたものが、テレビだと見え方、感じられ方が変わる、ということもあります。多メディアが当たり前の時代において、どう情報の流れをデザインしていくか、ということが改めて問われているのではないでしょうか」(合澤氏)
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