今回はセミナーの内容を受け、共創型商品開発支援サービス「NewsPicks Creations」の事業責任者を務める纓田和隆氏と本田氏が、老舗企業の既存事業を再建するための鍵である”共創”の重要性についてさらに話し合った。
企業と生活者が事業再建の道筋を“紡ぎ合う”
本田:「NewsPicks」が、共創コミュニティ支援を始めたと聞いたときは、少し意外でした。
纓田:たしかに意外に思われるかもしれません。
私はこれまでメディアの広告営業を通じて法人のマーケティング支援を行ってきました。様々な企業の商品・ブランドの認知拡大や共感醸成を後押ししてきましたが、なかでも「老舗企業の再成長」という課題に対応するのは難しいと感じました。知名度が高く、イメージが固定化しつつある企業について、広告ができることには限界があるのです。
そこで、価値を“発信する”以前の、価値を“生み出す”ところから支援していこうと、2020年2月に企業と生活者(NewsPicks Picker)が一緒に新たな価値を創造する「NewsPicks Creations」を立ち上げました。
本田:メディアユーザーである生活者が商品・サービス開発などの一端を担い、「NewsPicks」というプラットフォームを通して情報を発信できる。ニュースメディアが提供できる新しい価値ですね。
纓田:ありがとうございます。「NewsPicks」は20代・30代を中心に700万人弱のユーザーを抱えており、全体的にビジネス分野への感度が高い傾向にあります。そのユーザーである「ピッカー」の知見は、企業の「見え方・捉えられ方」の見直しに寄与すると考えました。
では、ピッカーに当事者意識を持って参画してもらうためにはどうすればよいか。そこで、企業だけでなくピッカー自身、その先の社会全体が幸せになる価値創造の舞台として、「共創コミュニティ」を構築しました。企業と企業の事業領域に精通するピッカーが仲間として共創することこそ、老舗企業における課題解決の糸口だと考えています。
本田:私は企業と生活者が共創により“物語を紡いでいく”ことは、魅力的な商品・サービスを生み出すうえで重要だと思っています。2021年発刊の著書『ナラティブカンパニー』はまさにそのことについて記したものです。
背景にあるのは、社会のフラット化です。企業と生活者、企業と従業員といった間柄に上下関係がなくなったことで、対等かつスピーディーに意見を交わせるようになりました。互いの考えを持ち寄り、価値につながる物語を紡ぎ合う流れになるのは、自然なことではないでしょうか。
理論や調査に基づいて決め打ちで唯一の答えを導くアプローチや、結論ありきで行う形ばかりの共創では、柔軟な発想を阻害する要因になります。対話の場を取り持つマーケターは、自由な議論を促す“余白づくり”を心掛けるべきです。
纓田:本田さんから「フラット化」というキーワードを伺って、同時に企業にも生活者にも誠実さが求められていると思いました。企業も生活者も課題に誠実に向き合い、結託して紡いでいける環境をつくることが、企業の現在地を確認し、あるべき姿を描くうえで重要だと感じます。
本田:老舗企業は老舗であるがゆえに、生活者の企業に対するパーセプション(認識)が固定化し、アップデートされないという悩みを持っています。一方で認知度が十分にある場合が多く、なかなか一筋縄ではいかないケースが多いですね。
老舗企業は時間の経過により創業理念が暗黙知化しており、従業員がそれに気付いていないことが多いです。それにより現代的なパーセプションを獲得できず、ブランドイメージ調査を行うと先進性などが競合よりも劣る状況になりがちです。
纓田:おっしゃるとおり、老舗企業が抱える課題は根深いです。そうした課題の大きさこそ、「NewsPicks Creations」が老舗企業を主な対象にした決め手でもあります。日本経済の活性化には、新鋭企業の躍進だけでなく老舗企業の再成長が欠かせません。「再成長戦略を描くお手伝いがしたい」という想いが「NewsPicks Creations」を展開する原動力になっています。
新商品開発にとどまらない「青山商事」の共創活動
本田:その想いが結実したのが「洋服の青山」でおなじみの青山商事の取り組みですね。スーツ離れが進むなかで社会を俯瞰し、企業の見え方・捉えられ方の変化をふまえて新商品を開発した取り組みは、非常にパワフルだと思います。
纓田:青山商事とは共創コミュニティ「シン・シゴト服ラボ」を立ち上げ、外勤ビジネスパーソンを支援するサービス開発やリモートワーカー向けの新商品開発などの共創プロジェクトを実施しています。課題解決における共創コミュニティそのものの有用性だけでなく、外部から支援する私たちの立ち位置が円滑な社内コミュニケーションにつながっているというお声もいただいています。
【青山商事】NewsPicksユーザーと「共創」したジャケット、先行販売開始
本田:共創コミュニティの効果が多岐にわたっていますが、その成功の決め手はなんでしょうか。
纓田:自社の将来について真剣に考えている社内のキーパーソンに、プロジェクトに積極的に参画いただけたことが大きいと感じています。企業やブランドの課題にも目を向け、成長に向けて「前向きな自己否定」ができる人材は貴重です。
変革に二の足を踏む傾向にあることも老舗企業の特徴といえます。そんななかで、前に進ませる力になるのがキーパーソンの熱意だと感じています。
本田:たしかに、企業を変革に導く担当者に共通するのは、企業やブランドに対する愛と熱意ですね。役職や部署にかかわらず、そうした気持ちを持ったキーパーソンは企業に必ずいらっしゃるんですよね。
纓田:「黒のリクルートスーツを着れば就職活動がうまくいく」という慣例が変わるなかで、青山商事では、その担当者の心の揺らぎもプロジェクト「#きがえよう就活」内で正直に発信しています。大企業でありながら悩みや葛藤を発信するのは本来難しいものです。
※プロジェクト内容は下記参照
【寺口浩大】「リクスーの自由化」に洋服の青山と挑む
本田:青山商事の姿勢は非常に人間的ですよね。「考え方に悩んでいます」と誠実に模索していることが生活者に伝われば共感につながると思います。ナラティブを紡ぐうえでは、弱みもしっかり表明することがポイントです。欠点のない登場人物では面白みがなく、共感しにくいと思います。
纓田:企業のストーリーを描くうえでは、様々な要素に配慮する必要がありますよね。最近企業から相談されるのが“企業らしさ”についてです。ナラティブを描いても、上層部に「うちらしくない」と受け入れられないケースがあります。本田さんはどのようにして“らしさの壁”を打ち破っていますか。
本田:「Authenticity(オーセンティシティ)」が鍵だと考えています。私は、その企業の「自分らしさ」と表現していますが、企業が創業時から持ち続けているコアな“らしさ”を現代風に捉えなおすことが重要です。
オーセンティシティは従業員の姿勢や商品・サービスといった細部にこそ宿るものです。「NewsPicks Creations」も、ニュースメディアとしてのオーセンティシティを活かした“NewsPicksらしい”事業かもしれませんね。社会を大局的に捉えた、客観的な立場からの支援を必要とする老舗企業は多くあるでしょう。世の中の企業の変革を担うビジネスパーソンに勇気を与える事例がさらに増えていくことを期待しています。
お問い合わせ
NewsPicks Creations
ソーシャル経済メディアNewsPicksによるマーケティング支援事業です。
ブランドとNewsPicksユーザーによって価値を創出する共創支援を行っています。
EMAIL:np.creations.support@uzabase.com
URL:https://creations.newspicks.com/