不確実性の高い時代で、パーパスの重要性がより一層問われる今、一体どれくらいの日本企業がパーパスを策定し、どのような「存在理由」を掲げているのか。
パーパス・ブランディングについて10年以上取り組んでいる私たちSMOでは、東証プライム上場の全企業1839社を対象にその実態を調べてみました。
その中から公式に「パーパス(もしくは英語でPurpose)」を掲げている企業を洗い出したところ、プライム上場企業のおよそ5パーセントとなる91社が該当し、その全文をリスト化しました。
リストはこちらから。
このリストを見ると「構造的」および「表現内容的」な特徴から、以下のような10のグループに分類することができました。
◆構造的特徴
1. 手段+インパクト
2. 主文+主文
3. シンプル
4. パーパス原文フォーマット
5. アンカー
6. スローガン
◆表現内容的特徴
7. 具体と抽象
8. 〜になる+社会への貢献視点
9. 提供すること・ものを表現
10. 誰のために
本稿では、リストの中から実際の事例をピックアップして説明していきます。
【構造的特徴】
1. 手段+インパクト
クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。(ソニー)
このカテゴリーの代表的な事例です。手段(クリエイティビティとテクノロジーの力)をもって、インパクト(世界を感動で満たす)のためにソニーはある、というパーパスです。ソニーの強みであるクリエイティビティとテクノロジーが明確にされ、それで成し遂げたいことが浮き彫りになっています。とてもわかりやすい構造です。
2. 主文+主文
わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、 世界をより持続可能にしていくことです。(富士通)
主文を繋げることで、より解説的にパーパスを表現しています。ともすると説明的になりがちですが、伝えたいことをしっかり書いています。米国(英語圏)のパーパスでは少ないタイプの構文です。
3. シンプル
人と創造力をつなぐ。(パイロット)
短文によるシンプルな構造です。主にBtoC企業において、ブランドの認知度が高いときに有効です。そのブランドや企業の背景にある大量の情報が、一般にも広く共通の認識として伝わっている場合、シンプルな構造でもメッセージ性の高いパーパスを制定することが可能です。
4. パーパス原文
タケダは、世界中の人々の健康と輝かしい未来に貢献するために存在します。(武田薬品工業)
パーパスとは、「私たちは何のために存在するのか?」という問いに対する答えです。「自分たちは●●のために存在する」という回答フォーマットにそのまま則して、表現開発をしている構造です。
5. アンカー
お客さまの「あったらいいな」を超えて、日常の未来を生み出し続ける。(セブン銀行)
強調したいワードを、「」(かぎかっこ)や“”(ダブルクォーテーションマーク)で括るタイプ。自らが何を重要視しているのか、パーパスの中心に何を据えているのか、初見の人にもすぐにわかりやすい構造です。
6. スローガン
be Unique. (コクヨ)
文字通り、パーパスをスローガンやキャッチコピーのように明文化した構造です。
【表現内容】
7. 具体と抽象
より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(Re Design)(ライオン)
具体的な「習慣づくり」で、抽象的な「人々の毎日に貢献する」というパーパスの構造です。さまざまなプロダクトを持つ企業は、特に、抽象度をあげることで、自分たちの存在理由と事業のつながりを打ち出すケースがあります。
8. 〜になる+社会への貢献視点
世界が進むチカラになる。(三菱UFJフィナンシャル・グループ)
自分たちの存在の説明に加え、社会への貢献の視点も強く意識された構造です。この構造には「自分たちはどうなりたいのか」というビジョンの要素も含まれています。
9. 提供すること・ものを表現
人によりそい、社会をささえ、未来をつむぐエネルギーになる。(東京ガス)
自社の事業ドメインを明示している構造です。東京ガスの場合には、それに加え、どんな風に(人によりそい、社会をささえ)、どのように(未来をつむぐ)を表現しています。
10. 誰のために
私たちは、新しい空間を創り出す人々にデザインするよろこびを提供します。(サンゲツ)
自らの価値を提供する対象は誰なのか、それを明確にした構造です。
他にも、社名に連動したもの、英文だけで構成しているものなど、さまざまなパーパスが見受けられました。
パーパスは、そのブランド、企業とあいまって、らしさが感じられることが重要です。従って、パーパス策定の際には、自分たちの内面に存在する物を引き出せているのか、自分たちが理屈を超えた部分で直感的に腹落ちしている言葉なのか、ということを突き詰めていく必要があります。
また、立派なパーパスを制定しても、実際に行っていることや言っていることは違う、ということが起こると、ブランド棄損に直結します。言葉として美しいパーパスは、社内外の多くの人を惹きつけることが可能です。しかし表現にこだわりすぎるのは本末転倒です。むしろ、言葉としては洗練されていなくても、策定した当事者たちが心の底から信じることができるパーパスであれば、彼らは大きなムーブメントを起こすことができるでしょう。
詳しくは、6月27日に開催する弊社のオンラインセミナーイベントでもお話しいたしますので、興味のある方はぜひ、ご参加いただければと思います。今回のこちらのステートメント・リストが、これからパーパスを策定しようとしている組織の方々や、パーパス策定後それを活用している組織の方々に、少しでも参考になれば幸いです。