【参加者】
2年ぶりとなる対面での実施、CMO Xの研究会が開催に
100社を超える企業のマーケティング責任者が集うコミュニティである「CMO X」は6月2日、30回目となる研究会を開催。今回はアシックス、オルビス、三陽商会の3社のマーケティングを担うメンバーが参加した。
CMO Xではコロナ禍の影響を受け、研究会はオンラインでの開催を続けてきたので、参加者が一堂に会してのディスカッションは2年ぶりとなった。「CMO X」Founderの加藤希尊氏は「コロナ禍でマーケティングの役割が見直されはじめている」と近年のマーケティング分野を取り巻く動向に言及。だからこそ、「CMO X」の役割が広がっているとの考えを示した。
グローバルに戦うための“攻めのマーケティング戦略”
研究会は、異なる業種で活躍する3名の参加者が自社の抱える課題を発表・共有することから始まった。日本発のスポーツ用品メーカーであるアシックスでグローバルマーケティングを担う近藤氏は、ここ15年ほどでアメリカやヨーロッパ市場での売上が急成長していると説明。その結果、同社の売上のうち、75%以上が海外の売上が占めるようになったという。
また、売上全体の半分以上が「ランニングに関わるアイテム」であり、中でもフルマラソン完走や走破タイムの向上を目指す競技志向の強い上級者向けのアイテムが好調だ。
一方で世界的に見てランニングの市場は、シューズだけなどの単体の販売ではなく、複数プロダクト・サービスを組み合わせたカスタマイズ提案が求められるようになってきているという。「一人ひとりのランナーに合わせたサービス提供が不可欠だ」とも語る近藤氏。カスタマージャーニーに沿って志向・目的でパーソナライズされたサービスを展開する“攻めのマーケティング戦略”が重要であるのだという。
日本市場においては独自の課題がある。それが「日常的に運動をする」人口が減少してきていることだ。これは欧米マーケットとは異なる日本の特徴だという。
だからこそ、スポーツが提供する価値自体の発信にも注力しているアシックス。例えばグローバルで運動と心の健康の関係性に関する調査「SOMI (State of Mind Index)」を実施するなどしている。この調査結果から得られた「ポジティブな精神状態を維持するためには運動が不可欠」「15分9秒の運動が非常に重要」という結果を基に個人や自治体に向けて訴求していることを紹介した。
タッチポイントの強化につながるデジタル人材の育成
オルビスの松枝氏は自社のカスタマージャーニーを、購入を目指す「ブランドスイッチプロセス」、再購入を目指す「継続検討プロセス」、クロスセルを目指す「ブランド定着プロセス」の3段階に分解。アプリや店舗、カタログなどの紙媒体など多彩なタッチポイントで訴求していると説明した。
一方で課題となっているのは、化粧品というカテゴリー特性上、広告表現の規制があり、プロダクトの差別化に難しさがある点だという。そこで松枝氏は「『使用する前後の体験』を含めて、お客さまがどのような充足感を得られるかをマーケティング戦略上、重視している」と語った。実際、オルビスでは「流通経路の特異性」や、新規参入の多い競合他社にはない「実店舗」を武器として、タッチポイントを設定していく方針なのだという。
オルビスのアプリについては、参加者の伊藤氏も使用していると言い「コンテンツ数の豊富さに驚かされている。どの程度の人員で制作しているのかが気になっていた」との質問があがった。
伊藤氏の質問に対し、松枝氏は「記事コンテンツや商品情報の更新に関わるメンバーは20~30人」と回答。また、その多くがカタログの制作担当だったメンバーで、デジタルにも対応できるよう積極的に育成していることを明かした。その回答を聞き伊藤氏も、マーケティングの鍵となるコンテンツづくりにしっかりと人的リソースを割いていることに感心していた。
松枝氏は育成のポイントについて、「自分がつくるコンテンツがどのような価値を提供できるかを意識させること」を挙げた。またチーム全体のデジタルシフトに際して、チーム内の意識が「カタログファースト→デジタルファースト→コンテンツファースト」と移り変わってきたと解説。このプロセスを通じて、メンバー一人ひとりがコンテンツで提供できる価値について考える力が身についたと話した。
近藤氏は松枝氏の話を聞き、「社内のコンテンツ制作体制の構築を急務の課題として感じていた」と語り、時機を捉えたスピーディなコンテンツ制作のためにも、社内の人材育成が必要であるとの思いを強くしたとの話があった。
ブランドのファンを育てることに注力したい
三陽商会の伊藤氏からは現在、全社的な経営戦略である「アッパーミドルクラスで圧倒的地位を確立する」という大方針に基づくマーケティング施策について説明があった。このターゲット層が持つ価値観として自己流消費を好み、「パーソナルオーダー」や「カスタマイズ」に対するニーズが高いと分析。3年ごとにコートの定期診断が行われる「サンヨーコート」のケアプログラム「100年オーナープラン」などプラスαのサービス拡充に注力していることを明かした。
一方で課題は、少子高齢化・コロナ禍による「国内マーケットの縮小」や消費者の「低価格志向」、さらに近年では「サステナビリティ意識の高まり」によって業界として大量生産・大量消費・生産背景の見直しを求められていることが挙げられた。
低価格志向という課題に対して、伊藤氏は「同じ土俵で戦わない」ことを基本的な方針と掲げていると述べ、提供価値を向上させ「価格を上回る価値の提供」といったコミュニケーションを大切にしたいと語る。提供価値については近藤氏が、技術力・生産力など企業の実力としてブランド価値が高いことに触れ、それらを使った「長期的に育てる独自ジャパンブランドの構築」を提案する。伊藤氏も同意し、青森県にある自社工場のブランディング化を推進していることに言及。世界でも有数の“コート専業工場”を「メイドイン青森」やファクトリーブランドとして発信していると話した。
さらに伊藤氏はそれらの施策を経て、ブランドファンの愛着を強くして支持基盤を固めるのも方針のひとつであると紹介する。支持基盤の強化については、ファンをより引き込む施策を研究する加藤氏も「ブランドパーパスとファンへのコミュニケーションを合わせる手法がグローバルのトレンドになってきている」と言及した。
異なる業界に所属する3者だが、同じマーケティングの世界で生きる同志が日々課題解決に邁進している姿に「刺激を受けた」といった感想が寄せられた「CMO X」第30回研究会。
Founderの加藤氏からも「1社1社のブランドやチームだけでは太刀打ちできないことでも、複数のブランドやマーケターが力を合わせてマーケティングから経営を変えていく時代になってきていると感じている。皆さんと一緒に、日本に突き抜けた成長力を生み出していくことをご一緒できたら嬉しい」と総括した。