――なぜ名称を変えたのか。
黒川順一郎氏 クライアントにいま、真に必要なものを提供する体制を整えるためです。新型コロナウイルス感染症のまん延や、ロシアのウクライナ侵攻、それによる原料や燃料の高騰、物価高など、世界的な影響をもたらす出来事が相次ぎました。それをきっかけに、消費者の生活スタイルも大きく変化しています。この変化に対応することが企業にとっては急務です。アクセンチュア ソングは、そうしたクライアントの事業変革や成長に貢献したいと考えています。
――クライアントは世界的な変化をどのようにとらえているのか。
黒川 消費者をはじめ、自社の顧客の価値観や行動が変わったことについてはむしろ強く実感されていると思います。同時に、特に経営層は、自社の事業がそうした変化に追いつけていないとも考えているはずです。顧客の変化はコロナ禍以前から起きていたことではありますが、一気に顕在化したと言えるのではないでしょうか。
――そうした事象が、アクセンチュア ソングへのブランド変更を求めたということか。
黒川 ひとつには、クライアントへ提供できる、組織としての全体的な能力をより向上させたい、ということがあります。マーケティングサービスだけでなく、アクセンチュアが従来から提供してきたコンサルティングサービスや、実行支援までを伴走する社内の他組織との連携もより緊密にしていきます。
もうひとつは、“デジタルマーケティング”のイメージが付きすぎてしまっていたことも、否定しきれません。これはもともとある齟齬であって、これまでもサービスデザインやクリエイティブの提供など、必ずしもデジタル領域に留まらない支援をしていました。しかし、いわゆる“デジマ”の印象が強かったことも確かではないかと思います。
いま必要なのは、全体的な事業変革と、変化する消費者、顧客との関係を構築し直し、収益や利益を伸ばしていくことにあります。そうなると、デジタルマーケティングだけ、サービス開発だけ、ユーザーエクスペリエンスだけ、といった個別の施策をつど打つのでは対応できません。根本からの事業変革と、それに対する貢献について、アクセンチュア ソングではさらに強化したいと考えています。
――そのためにどんな体制づくりをしたか。
黒川 旧アクセンチュア インタラクティブ傘下には複数のブランドが存在していましたが、(Droga5を除いて)すべて集約予定です。もちろん、これまでもコラボレーションは活発に行われていましたが、改めていま、ブランドごとの壁を本当の意味で取り払いたいという意図があります。これまでに個々のブランドや実績については一定の成果を収めることができました。体制を大きく変えたのは、クライアントの事業戦略の再定義や組織再編を含めた大きな変革を強力に支援するために、我々自身も大きく体制を変えるのだ、という、いわば「私たちの覚悟」を示す意味もあります。
――事業変革を起こしたケースはあるか。
黒川 現在も複数のプロジェクトが進行中ですが、すでに実績が出始めているのは、ブランド変更前から支援を続けている、資生堂やみんなの銀行のケースですね。いずれも、いま求められるクライアントの変革の姿として象徴的なプロジェクトだと考えています。
資生堂に限らず、日用消費材の多くは、新商品を次々に開発して、発売時に広告を投下し、商品棚を押さえ、比較的短期間で売上をおさめていくというモデルでした。化粧品にかぎらず、一部の商材では訪日観光客需要で、瞬間最大風速的に売上が伸びた時期もありました。
そこからの揺り戻しではありませんが、新型コロナウイルス感染症の拡大で、まず訪日需要がなくなりました。また生活スタイルの変化から、消費者と商品の関係も、その姿を一変させています。新商品と広告の大量投下を断続的にくり返していくモデルから、ブランドへの愛着を高め、消費者との関係をいかに持続させるか、というモデルに変わらなければなりません。
資生堂で、そうした変化をどう起こすかを考えたとき、最適な手段が、合弁会社の設立でした。重要な指標は顧客のロイヤルティであり、ブランドが表す体験が消費者の生活の一部になることです。単にデジタルコンテンツを制作すればいいわけではなく、業務のやり方そのものを変えないといけなかったのです。
――事業を変えるのには顧客側にも相応の覚悟が必要だ。
黒川 そのとおりです。最たる例は、ふくおかフィナンシャル・グループと立ち上げた、「みんなの銀行」でしょう。スマートフォン、すべて手のひらで完結する銀行というのはありませんでした。歴史があり、事業形態としても成熟した「銀行業」というものの中では革命的なことです。
当然、社内説得の場も多かったですし、銀行という特性上、ユーザーの資産を預かることになりますから、堅牢なシステムを構築することも欠かせません。金融庁の許認可を得るための折衝もあります。戦略コンサルティングからシステムエンジニア、法務といった人材も必要です。それらすべてのリソースを結集してプロジェクトにあたることができるのが、アクセンチュアです。
「みんなの銀行」については、「地方銀行というビジネスがこのまま永続するものなのか」という視点に立って考えるところからプロジェクトが始まりました。合併吸収のような地殻変動も起きている中で生き残りをかけ、Z世代のような新たな価値観を持つ生活者が求めるものをどう提供していくか、という危機感がクライアント側としても強かったのではないかと思います。
そうしたクライアント側の覚悟に対して、アクセンチュア ソングも応えていかなくてはなりません。そのために、資生堂インタラクティブビューティーのように、合弁会社の立ち上げという形式を採ることもあれば、新サービスの立ち上げ支援として関わることもあります。
――今後、アクセンチュア ソングをどのような組織にしたいか。
黒川 アクセンチュア ソングというブランドの中には壁はなく、クライアントの事業変革、事業成長への貢献というアジェンダの下で、さまざまなバックグラウンドやスキルを持つ人たちが、それぞれの価値を発揮できるようにしていきたいと考えています。すべてができるジェネラリストは存在しませんし、不可欠というわけでもありません。それぞれの社員が変数となる掛け算で、個々のプロジェクトにあたっていきます。
私たちの領域が、広告会社のサービスと一部重複することから、よく対比される文脈で描かれますが、そもそも完全に比較することなどできないと思います。確かに、広告業界出身のメンバーも多くいますが、それは我々が事業変革アジェンダに必要な人材だと考えているからです。
企業はバックオフィスだけで動いているわけではありません。事業アイデアだけを発案したり、システムだけを構築したりするのではなく、実際に売上を立てるには、eコマースサイトを立ち上げたり、広告を売ったり、といったプロモーション活動が必要になることも少なくないですし、そこまでやって事業成長の貢献だと思います。むしろ、売上への貢献のために、広告会社と手を組むこともあります。
必ずしも新規事業への貢献だけが求められるわけでもありません。クライアントによっては、営業チャネルを変革したい、あるいは、顧客との接点を変革したい、など求められる分野は多岐に渡ります。そうしたさまざまな場面で、広義のクリエイティブ(創造性)が求められることも多いのです。もちろん、狭義の広告表現というものが必要な場面もあります。すでにお話ししたとおり、事業貢献の文脈でクライアントに必要なことについて、我々はすべて支援できる体制を整えています。
――アクセンチュア ソングではどんな人材を求めるか。
黒川 いま述べたとおり、最終的に目指すものとして、クライアントの変革、事業成長への貢献があります。それに共鳴できる人材は歓迎します。また、携わる分野が広い上、個々のプロジェクトで求められることが必ずしも一様ではありません。メンバーに求められるスキルの発揮も毎回同じ、というものでもないのです。
実際、アクセンチュア ソングにはeコマースに携わるエンジニアや、顧客体験の領域に踏み込んだ課題解決を行うコンサル経験者、ユーザーエクスペリエンスの改善、サービス全体を設計するデザイナーなど、あらゆる専門性を持った社員が活躍しています。クライアントのビジネス成長のためには、業務領域をこれまで、自身が守備範囲としてきた範囲に限定せず、つど広げていくことを楽しみ、かつほかのメンバーの専門性を尊重できることも重要だと思います。
すでに参画したメンバーからよく聞かれるのが、「視野がどん、と広がった」という声です。一般論として、広告業界は専門分化が進んでいて、だからこそ、個々のスキルも高いものとなっています。半面、その分野ではハイパフォーマーであったとしても、隣接領域を担当したとたん、“新人”となってしまうことも少なくないのではないでしょうか。
ここまで説明したとおり、アクセンチュア ソングでは、クライアントに対して、それぞれのスキルの掛け算で、貢献したいと考えています。そうなると、自分が慣れ親しんだ領域から一歩踏み出すことも往々にしてあるわけです。それを自分の持つスキルに新たな光が当たるチャンスと捉え、楽しめる人のほうが向くと思います。「視野がどん、と広がる」という言葉からも、アクセンチュア ソングではそうしたチャンスが多く用意されていることが伺えるのではないでしょうか。
――そうしたスキルの生かし方はアクセンチュア ソング固有のものか。
黒川 スキルを生かしやすい環境を整備することでクライアントへの貢献につながると考えています。その点ではイエスです。しかし、より広い意味でのコンサルタントとしての知見であったり、クリエイティビティであったりの生かし方としては、世の中としてパラダイムシフトがすでに起きているわけです。そういう意味では、アクセンチュア ソングに限った話ではないのでは。
というのは、たとえばかつてはハードウエア、ワークステーションを主力製品として販売していた会社にとっては、ソフトウエアは極論すれば付属品みたいなものでした。しかし、いまやそれは逆転していて、ソフトウエアないしサービスの使用料でビジネスが成り立つようになっています。
ソフトウエア企業もパッケージ、CD-ROMの販売から使用権(ライセンス)の販売に移行し、さらには買い切りではなく、継続的な使用権に移っています。これはあらゆる業界に起きている変化です。たとえば自動車会社でも、クルマというハードウエア単体の販売ではなく、ソフトウエアとしてのモビリティサービスを打ち出すところが出てきています。
このように変化し続ける社会の流れの中で、私たちがクライアントに提供する価値も、より柔軟に変化していく必要があります。例えば広告を例に挙げると、まずクライアントからメディア費をいただき、その一部をクリエイティブに分配する事業構造が本当に正しいのか、ということです。
アクセンチュア ソングは、クリエイティブやテクノロジーの力でクライアントのビジネス成長を支援することを目指しています。メディアやキャンペーンなど範囲を限定することなく、クライアントが抱えるビジネス課題を起点に、時代の流れを汲み取り、必要な戦略やユーザーが求める体験を作り上げていきます。そのためにはクリエイティブは体験の主軸となるべきです。
事業貢献のどの場面、局面で、何とどのような掛け算ができれば、クライアントの成果につなげられるのか。これを考えることはもちろん容易なことではありません。しかし、アクセンチュア ソングはこの課題を、業界に先駆けて取り組む存在になっていきたいと思っていますし、その覚悟を示す文脈の中で今回のブランド変更も行われています。クライアントと伴走し、常に新しい挑戦を続ける気概のある皆さんを歓迎します。ぜひ、ご連絡ください。
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アクセンチュア ソング 採用情報|アクセンチュア (accenture.com)