組織の転機に前向きな企業文化を育むBtoB企業のブランディングのプロセス/揚羽

2022年1月、大手回路基板メーカーのFICTは、富士通インターコネクトテクノロジーズから社名を改めた。新社名やブランドスローガンの策定を経て認知・浸透活動に取り組む。この転換期を支えたのが、BtoB企業のコーポレートブランディングを得意とする揚羽だ。

(写真左)

FICT 代表取締役社長 三好清司氏

富士通で先行テクノロジー開発などを指揮。2018年より富士通インターコネクトテクノロジーズ代表取締役社長。2022年1月に現社名に変更。

 

(写真右)

揚羽 ブランディングコンサルタント 板倉マサアキ氏

神戸大学工学部卒。ブランディングの核となるコンセプト開発、プロモーションの戦略、およびクリエイティブディレクションを担当。

 

従業員の不安を払拭したい

─FICTが企業ブランディングに取り組んだ背景は?

三好:富士通グループの事業再編に伴い、2020年にファンド企業の傘下となり、新社名に改める必要がありました。「富士通」と社名に入っていた当時は、大手のブランド力から新しい取引先に門前払いされることはありませんでした。しかし、これからビジネスの土俵に上がるには、新たな価値を持ち社会的な存在意義のある会社として見てもらわなければなりません。また体制変更に不安を抱く従業員に、目指す姿を分かってもらう必要もありました。

板倉:揚羽は、もともと採用ブランディングやインターナルブランディングを得意としてきた歴史があり、今回の新社名やロゴ、ブランドスローガンの策定について相談を受けた時も対外的な発信だけでなく、FICTで働く人たちを巻き込みながら合意形成を進めていくプロセスを提案しました。

─ブランディングのステップは?

板倉:社長と営業執行役員、ファンドの責任者にインタビューし、FICTの提供価値を見つけるところから始めました。ブランディング推進チームには、この3 名のほか、経理、人事はじめ様々な部門長にも入ってもらい、企業価値を整理しています。成長市場に身を置き長年培った技術と品質があること、体制変更で意思決定が迅速化し枠にとらわれない挑戦を続けていること、ものづくりを軸に持続可能な高度情報ネットワーク社会の実現を目指していること。これらの視点をもとに、ブランドスローガン「The Future is Interconnected」が生まれました。

三好:電子回路基板事業で培った当社のコア技術「インターコネクトテクノロジー」で、人と技術がつながり、世界中がつながりあっている。私たちが実現したい未来の状態を表現してもらったスローガンです。これをもとに新社名を最終決定しました。以前から富士通インターコネクトテクノロジーズの略称として「FICT」を使ってはいたのですが、「F」は私たちが目指す未来「Future」を表す、というストーリーを提案してもらいました。

ロゴ策定においては、社内にポスターを貼り、アンケートをとって従業員も参加しています。ロゴで強調している紅色の「I」は、未来への扉を表しています。日本のものづくりを世界に発信していくという想いを込めていて、私はお会いした方に必ずこの話をしています。こうしたクリエイティブのアイデアはさすがと思いました。既存の取引先には、親しみのある社名となり、これまでと変わらぬ品質を引き継いでいることをアピールできますし、新規の取引先には重厚感がありながら新しいイメージを伝えることができるロゴになりました。従業員からは、従来からの信頼・安心のイメージを重視する声と新たな挑戦を求める声があったのですが、ちょうどいいところに収めてもらえました。スローガンやロゴ案をたくさん提示してもらい、チームからも意見が出るようになって、メンバーも楽しみながら進めていました。

 

議題は半年先まで決めていた

─ロゴ決定後の動きは?

三好:新社名の発表に合わせ、展示会や採用説明会で流すブランドムービー、会社案内、製品カタログ、名刺、封筒など、一気通貫でつくってもらいました。コーポレートサイトには、私たちが目指す姿やサステナビリティへの考えを示したコンテンツも設けています。企業文化を十分に理解してもらっていたので、スムーズでしたね。

板倉:社内での新ブランド浸透に関しては「認知→理解→共感→行動」をどう進めていくかを描いたエンプロイージャーニーマップをつくり、コミュニケーション計画を立てています。

三好:浸透施策のひとつが、従業員に配布した「ブランドカード」。ここにはブランドスローガンや、ミッション、ビジョン、バリューのほか、私が従業員に伝えたいメッセージも入れました。

板倉:ブランドカードは「一人ひとりに配布される会社からの贈り物」という意味もあり、ブランディングにかける会社の本気度も伝わりますね。

三好:こうした従業員との関係構築を深める施策は、当社にとって新鮮に映りました。ブランディングがスタートした時点で半年先まで議題を提示してもらい、必要なコミュニケーション施策を導いてもらえました。組織体制が変更した当初は、これを理由に退職したいという従業員がいるのではないか、と危惧していたのですが、結果、一人もおらず、ポジティブにとらえてもらっています。

板倉:今はブランド認知のフェーズですが、現在はパーパスの策定や設立20周年に向けての準備も進んでいます。パーパスを自分ごとにするための社内研修など、理解を深めることも着手できるといいですね。

三好:まもなく新事業も始まります。企業ブランドの浸透と共に新たなチャレンジが重なると、更にブランドイメージが広がっていくと考えています。

─社内外に変化は?

三好:社内が明るくなりました。好調な業績も影響していますが、すべてのコミュニケーションツールが新しくなり、「進化している」と実感を持つ従業員が増えています。何を目指す会社なのかを明確にするだけでなく、社内に浸透していることが大切で、投資家もそこを見ています。メディアからは、新たな体制となり何が変わるのか、取材されることが増えました。一方新卒採用はまだ課題があり、ブランド力の重要性をつくづく感じています。

板倉:ブランドを体現する従業員そのものが企業ブランドを育むのはBtoB企業ならではの面白さです。グループ会社から独立しブランドづくりにゼロから挑んだこの成功事例を、他のBtoB企業にも参考にしてほしいです。

CHECK!
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お問い合わせ
株式会社揚羽
URL:https://www.ageha.tv/
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EMAIL:pr@ageha.tv
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