65人の社内インフルエンサー
300円の雑貨を中心に商品を展開する「3COINS(スリーコインズ)」(運営=パル)が好調だ。同ブランドが主軸となる10月12日発表の、22年3〜8月累計の雑貨事業売上高は、前年同期比21.2%増の282億6100万円だった。
「3COINS」運営で力を入れているのがソーシャルメディアでの発信だ。ブランド全体で運用する公式アカウントのフォロワーは、Instagramで158万人、Twitterで17万人と、一つのメディアとなっている。(2022年10月時点)
さらに、ショップスタッフ65人が、それぞれ開設、投稿しているアカウントもある。たとえば「3COINS原宿本店」(東京都渋谷区)のスタッフ、「3coins_.maiko」さんが運用するアカウントはフォロワーが約9万6000人。スタッフ合計のフォロワー規模は35万人に及ぶ。
「3COINS」では、フォロワーを増やす目的での広告を一切打っていない。それにもかかわらず、支持を広げている要因のひとつは、「買い手側の視点に立った投稿」だ。3COINS本部PRの矢八有香子氏は、「スタッフには、自身でも実際に使っているというリアルな声を発信してもらっている」と話す。
パル 3COINS本部PR
矢八有香子氏
「ブランド公式は、どうしても『企業が(一方的に)発信している』という見え方をしてしまいます。一方、スタッフは自身も利用者の一人であるという立ち位置もありながら、商品を扱う側として『この商品は、こんな目から鱗な使い方ができる』など、気づきとともに参考にしたくなる発信ができる、頼りになるガイドのような側面も持っています。
さらには『この商品は、ここが惜しい』といった改善点、残念に感じたポイントなども、フラットに包み隠さず発信しています。そんな完全なる企業側の人間でもなく、単なる一消費者でもない、その間の絶妙な距離感のポジションをスタッフが担うことで、親近感や信頼、共感につながり、投稿をフォローするだけでなく、お客さまが実際にそのスタッフに会いに来てくださるなんてこともあります。ブランドにとって貴重な財産です」(矢八氏)
では、ユーザーが求める投稿、共感できる投稿はどのように考えればよいのか。CARTA COMMUNICATIONS(CCI)メディアソリューション・ディビジョン Social AdTrimチームの村野文香氏は、「まだアカウントがない、開設して間もない場合は、まずはトレンドの投稿に乗っかってみたり、ほかの企業を参考にコンテンツを作っていくことになると思いますが、重要なのはその先」と話す。
CARTA COMMUNICATIONS
メディアソリューション・ディビジョン
Social AdTrimチーム
村野文香氏
「投稿していくと、お持ちのSNSアカウントにユーザーが何を求めているかが見えるようになっていきます。投稿内容によって反響の傾向の違いを見たり、ツールを用いてフォロワーの属性を確認したりすることも、フォロワーが求めている情報を探るのには効果的です」(村野氏)
「3COINS」のInstagram公式アカウントで116万回再生された「ボールプールのたたみ方」動画も、フォロワーが求めている情報だった。ボールプールは、カラーボールなどを入れて、小さな子どもがプールのように遊べるようにするための囲い。たたみ方にちょっとしたコツがいる。
「実際に『たためない』という声がSNS上にあったので、すぐに社内で撮影しました。SNSでは、お客さまが悩みや困ったことを投稿していることが少なくありません。悩みをすくい取って解説する動画はコンテンツのひとつです。個々でアカウントを持つスタッフも、悩みだけでなく、何がトレンドか、といったリサーチが好きな人が多いです」(矢八氏)
失敗を恐れず、役割を明確に
「3COINS」のスタッフが運用するアカウントは、(1)最低、週1回以上の投稿、上限は既定なく、いま伝えるべき内容があれば多くても構わない (2)「ブルーは男の子用の商品」など、デザイン、色で性別を決めつけないといった最低限のNG規定 という方針を定めている。
もちろん、中には“失敗”と言えるケースもあった。あるコラボレーション企画で、本格的な情報解禁の前に、コラボを匂わせるような投稿をしたときだった。
「お客さまから『商品と関係のないことはやめてください』などのご意見をいただきました。投稿者が考えすぎて、あるいは良かれと思ったことであっても、そのアカウントに期待されているものとの乖離やタイミングなどが原因で、ときにお叱りをいただくことはあります。これは公式アカウントでの施策でしたが、スタッフでも考え方としては同様だと思います」(矢八氏)
同様に、商品在庫にも配慮する必要がある。Instagramでの投稿で、ある商品について投稿したところ、すでに店頭では完売してしまっており、手に入れられなくなってしまった。
「情報の共有、集約が大事なのはもちろんのこと、半面、特にInstagramは、『3COINS』にとって、いま、まさにこの瞬間にお伝えしたいことを発信できる、便利なツールであるということも実感します。タイミングを誤らなければ、Instagramでは、スタッフがまさにいまオススメしたい商品をお伝えすることができます」(矢八氏)
発信された時点でチェックしておかなければ、情報が古くなってしまう。こうした投稿について、CCIの村野氏は「フォロワーを増やす上でも、非常に大事なポイント」と解説する。
「見逃したくない! と思ってもらうことは、SNS運用においてとても理想的です。『3COINS』の場合、お客さまからの共感を得られる、利用者視点というベースに、投稿が旬であることも、『フォローしておかなければ』と思ってもらいやすくなっているのではないでしょうか」(村野氏)
企業として運用する公式アカウントとの使い分け、TwitterやInstagram間での、SNSの中での使い分け、ECサイトなど、そのほかのオンライン接点との使い分け、と個々の目的を定めていることも、スタッフアカウントの立ち位置を明確にしている。
たとえば企業アカウントでは、商品情報やカタログのような印象を前面に、スタッフのアカウントで意識している「個を出す」のとは対照的に、我を出しすぎないようにしている。一方、ECサイトとの使い分けは、「ECで見られるような内容はできるだけ載せません。ちょっと違う目線を意識しています」と矢八氏。
「SNS投稿で社内のさまざまな声を集約しすぎると、結局、何を言いたいのかがぼやけるので注意が必要です。かつては商品部に確認を回していたこともありましたが、やはり思いが強く、表現の仕方や長さもSNS向きでなくなっていくので、深く詳しい情報はECで、とすみ分けるようになりました」(矢八氏)
ユーザー目線で結論を優先することは、「投稿自体のエンゲージメントの確保にもつながり、結果的にフォローに至ります」と村野氏。
「ひとつの投稿内で情報を整理しておくこと。また、『3COINS』のSNS投稿の素晴らしいところは、その投稿単体でも、有益な情報にする、という意識が明確である点かと思います。ユーザーはその場で完結できる情報を求めている傾向にありますので、SNSにもよるものの、遷移を前提とした投稿は、そのアカウントから得られる情報が少なくなるので、オススメしません」(村野氏)
村野氏が指摘する中で、忘れがちなのが「プロフィールの活用」だ。流れてきた投稿が気になり、ほかにどんな投稿をしているのかを見に、アカウントのページを訪れた際、最初に目にするのがプロフィール欄だ。
「何を発信するアカウントなのか。すなわち、フォローすることでユーザーはどんなメリットを得られるのかを明記すべきです。それを明瞭にするだけでも、フォローされるか否かが大きく分かれます」(村野氏)
縛りすぎずに感性を生かす
「3COINS」の〈社内インフルエンサー〉は、店頭スタッフとして勤務している人を対象に、定期的に社内公募している。重視しているのは、スタッフ側の意欲だ。
「店頭業務がおざなりにならないようにしつつ、結局義務感で運用するとどこかで手が止まる、ということも多々あると思います。やりたい人がやるのが重要です」(矢八氏)
そもそも、スタッフアカウント自体、現場の声から生まれたものだ。先んじて開設した公式アカウントを見て、「自分ならもっとうまく発信できる」という店頭スタッフが多かったという。
「やりたい人にはやらせてみる、という社風が当社にはあって、それでスタートしました。始めてみると、やっぱり自分の中で投稿の何が良かったか、悪かったか、を反省するようになります。そうした情報は共有したほうが効率いいので、勉強会も行われるようになりました」(矢八氏)
一方で、重視しているのはスタッフの感性。「スタッフの方々には、『自身の感性などを大切にして投稿してください』とお伝えしています。同じ商品でも紹介の仕方が変わるので、それは彼女たちならではだと思います」と矢八氏。
「人によっては、『こういう見せ方は……』という意見もありますが、その投稿は、そのスタッフが感じている、いまの『3COINS』だということです。最も重要なのは、『(投稿を)“採点”するのは、お客さま』ということ。運用サイドであれこれ否定せず、まずはやってみて、よかったものをどんどん増やしていく、という方針でいます」(同)
こうした方針が、それぞれのスタッフアカウントの個性につながっていく。
「特にInstagramでは、そのアカウントが持っている佇まいや雰囲気といった要素は、ファンづくりの上でも見逃せません。統一感がなく、性格の掴みづらいアカウントは、ユーザーの心情に響かないからです。スタッフの感性を重視されていることで、『3COINS』のスタッフアカウントは、それぞれで世界観がきちんと整っているのではないか、ということも感じます」(村野氏)
お問い合わせ
株式会社CARTA COMMUNICATIONS
メディアソリューション・ディビジョン Social AdTrimチーム
Email:SOCIAL-ADTRIM@cartahd.com
URL:https://www.social-adtrim.cci.co.jp/