【出席者】
Uber Eats Japan 暫定代表 ジェネラルマネージャー 中川晋太郎氏
エー・ピーホールディングス 取締役 執行役員 COO 野本周作氏
明星食品 執行役員 マーケティング本部長 中村洋一氏
ライフネット生命保険 営業本部 マーケティング部長 川端麻清氏
「CMO X」Founder 加藤希尊氏
オンラインチャネル中心の事業だからこそ、企業姿勢を示して信頼を醸成する
9月30日、「CMO X」の31回目となる研究会が開催となり、Uber Eats Japan、エー・ピーホールディングス、明星食品、ライフネット生命保険の4社のマーケターが参加をした。リアル開催となった今回の研究会では、業界の垣根を越えた意見交換を通じ、多くのアイデアが生まれていた。
毎回、研究会は各社からのカスタマージャーニーマップとUSPの発表から始まる。
インターネットを主な販売チャネルとする生命保険会社として、デジタルテクノロジーを駆使して保険相談や申し込み、保険金などの支払いまで一貫したサービスを提供するライフネット生命保険の川端氏は、生命保険業界における差別化の難しさに言及した。
大手の競合保険会社と比較して新興企業の同社は認知獲得にまだ課題があるため、「どうしたらライフネット生命を消費者に選択いただけるか」訴求ポイントの打ち出しに試行錯誤しているという。さらに申し込みの手軽さが訴求ポイントのひとつであるが、一方で手軽であるがゆえ、解約のハードルも低くなってしまうところもあり、そこにも課題があるという。
また、低価格に特化した競合も出てくる中で、手軽さや価格だけでは絶対的な優位点にならないと語る川端氏。「お客さまに納得して契約していただくためには、生命保険会社としての安心感をこれまで以上に高めなければならない。インターネットを主な販売チャネルとしているので、信頼感の醸成には難しい面もあるが、『正直に経営し、わかりやすく、安くて便利な商品・サービスを提供することで、お客さま一人ひとりの生き方を応援する』という経営理念を実践して安心感を伝えていきたい」と話した。
そこでライフネット生命保険では、開業直後、業界で初めて保険料の内訳を開示。これまでブラックボックスとなっていた部分を公開する姿勢で消費者の安心感の醸成につなげている。また保障を4つに絞り、シンプルにすることで、検討時の負担や申し込み時の手間を削減したり、LINEを活用した問い合わせ対応を業界に先駆けて開始する等、ユニークな施策で同社ならではの体験価値を提供している。
これからの時代の生活インフラを目指すUber Eats Japan
飲食店の料理をはじめ日用品や OTC医薬品なども取扱うオンラインデリバリーサービスを、47都道府県・18万以上の登録店舗と提携し展開するUber Eats Japanの中川氏は、業界内での純粋想起・第一想起ブランドとして位置づけられているものの、トライアル利用率の低さを課題として挙げた。アプリのダウンロードは順調に推移しているが、そこからトライアル利用につなげ、習慣化してもらうことが次の課題なのだという。
「利用者の大多数はサービスに満足しているというデータがあり、配達遅延の事例はほんのわずか。そして価格面でも月額定額制で配送手数料が無料になる『Uber One』を提供している。そうしたファクトを発信しイトライアルを促したい」と中川氏は話す。
プラットフォームビジネスという特性上、加盟店・配達パートナー・利用者が増え事業規模が拡大するにしたがって運用面・収益面に好循環が生まれるのがオンラインデリバリーサービスのUSPであり、料理にとどまらず食品や生活用品の取扱いも開始するUber Eats Japan。その目標について中川氏は「これからの時代の生活インフラになれれば」と理想を語る。
『食べておいしい』、『知るともっとおいしい』の融合こそ塚田農場のUSP
「塚田農場」をはじめとした「産地直結」型の飲食店を展開するエー・ピーホールディングスの野本氏は、外食業界におけるコロナ禍前後のカスタマージャーニーの変化を紹介した。そもそも、外食業界ではグルメメディア内での飲食店同士のパイの奪い合いだった。しかし、コロナ禍に入ってからは様々な消費行動の検討がスマートフォンの画面上で行なわれるようになり、可処分所得全体において服飾品やインテリア雑貨、ガジェットなどの嗜好品とも競合関係になったため、「安い」「おいしい」だけの特徴では消費者を惹きつけることが難しくなっているのだという。
「『塚田農場』は、ブランディングされた産地食材を使用した料理、食材の魅力に魅了されたスタッフによる接客、神社での夏祭りをイメージした世界観の三大要素の合わせ技で、お客さまの満足を生み出す。『食べておいしい』、『知るともっとおいしい』の融合こそUSP」と野本氏。
直近では20代の認知度向上策としてTikTokなどのSNSや流行感度の高い若年層向けのデジタル広告施策を行うなど、様々なアプローチを行っている。他の世代と比較して飲酒習慣のない若年層を取り込むべく、『ごはんがおいしい居酒屋』という位置付けを強くアピールしている。
商品点数の多い即席麺市場、顧客を絞り込むセグメントマーケティングが奏功
袋麺の「チャルメラ」やカップ焼そば麺の「一平ちゃん」などのブランドを中心に展開する明星食品の中村氏は、即席麺の購入経験率が90%という定番市場ならではカスタマージャーニーに触れる。100円~300円という価格帯のため、消費者は能動的な情報収集を行うことが少ないため、まずはテレビCMで認知・興味を獲得しwebでの反復接触を通してトライアルの獲得や休眠ユーザーの掘起しを狙う。またコミュニティサイトでユーザー同士が商品の感想や独自の使用法をコミュニケーションしていただき、ファン化を狙う、と中村氏は話す。
商品企画は「セグメントマーケティング」と「時代にあわせたカスタマイズ」を実践している。人口動態の変化や社会経済環境の変化に合わせて発売した『チャルメラ 宮崎辛麺』、もやしを加えて作る『チャルメラ もやしが超絶うまい まぜそば』、お店で食べるような超極太麺が味わえる『麺神』のヒットに手応えを感じていると語る。
自社分析で強みとボトルネックを理解し“売れる源泉”を見つける
それぞれの産業・企業が置かれている現状を共有した後には、それぞれの企業に対して自らのアイデアを提案する時間が設けられた。
野本氏は、『チャルメラ』や『一平ちゃん』といった定番商品の若年層施策立案に取り組む中村氏に「ブランドネームが若年層にどこまで通じるのか、あらためて整理すべき。情報過多な時代だからこそ、商品の魅力を表面上ではなく深掘りして発信できれば購買意欲を刺激できるかもしれない」と語る。
一方の中村氏は川端氏に対し、ライフネット生命保険のWEBサイトを利用した自身の感想を交えながら、より敷居を下げて生命保険を検討できるプラットフォームづくりの重要性を伝えた。
川端氏からは、オンラインデリバリーサービスのトライアル獲得・再利用を課題として抱える中川氏に「サービスのプレミアム化が必要では。食べることも、配送することも食は命に関わる事業。サービスの気軽さと安全の両立は未利用層へのフックになりうる」と話した。
中川氏は野本氏に対して個店と異なるチェーン店ならではの課題を前提とした上で「リピート利用のカギはモノよりも人ではないか。チェーン店舗だと難しいかもしれないが、同一スタッフによる接客機会を重ねることが来店動機になるはず」と提案。野本氏も「店舗を深く理解しているかのようなアイデア。まさに一人の人としてお客様に見てもらえるようスタッフに伝えている」と納得していた。
意見交換を通じて、マーケティングの新たなヒントを見つけ、これまで実施してきた施策に対する自信を深めた4名。「CMO X」Founderの加藤希尊氏は、「業界を問わず課題に言及できるのは、マーケターは思考する力や体力が高い証拠。課題にとことん突き詰めようと楽しむ姿勢こそ、新しい発見をもたらすと思う。今回のセッションから、新たな“売れる源泉”が発掘されるかもしれない」と総括した。