専任チームがシーズンコンセプトを策定
イトーキは1890年に創業したオフィス家具メーカーだ。プロダクトだけでなく、働き方の提案や働く空間、環境などの「場」づくりも手がける。従業員数は2000人を超え、インハウスのデザイン体制にも力を入れてきた。全社では製品や空間のデザインを担う約150名のデザイナーが在籍する。
新たな動きとして、2017年には商品開発本部内にCMFの専任者を置いた。CMFとはプロダクトの外観を構成する色(カラー)、素材(マテリアル)、仕上げ(フィニッシュ)の略で、1980年代に欧州で提唱された概念。イトーキでは1990年代に国内企業ではいち早く取り入れた。時代ごとに適したカラーを提案するプログラムなどを策定してきたが、近年は組織変更や時代の変化などにより指針や活用シーンが曖昧となっていた。「かつてはカラーデザインがひとつのセールスポイントでしたが、オフィスデザインに必要な色・素材の選択、トレンドの捉え方など、デザイナー個人の感覚に頼りがちな状況でした」とCMFチームのリーダー 山本洋平さんは話す。
さらに従来は画一的だったオフィスデザインが多様化してきたこともあり、改めてCMFの重要性を見直すことに。その指針を明確にするために2018年に生まれたのが、「ITOKI SENSE」という独自のコンセプトだ。2017年に中途入社したデザイナーの菊池有紗さんが提案し、実現した。
「ITOKI SENSE」は感性に訴える色、素材、触り心地や仕上がり、機能などの要素をデザインし、商品開発やオフィス提案に活用するもの。2018年に初めて発表した後、2年ごとに国内外のインテリア・ファッション・色の流行、オフィスや働き方などのトレンドを調査し、その結果を踏まえシーズンコンセプトを組み立て提案している。
また、そのコンセプトを具現化し、デザインの方向性を表現するのが「SENSE BOX」。製品などのデザインソースとして色や素材を組み合わせたもので、2022年は「Effortless(やわらぐ)」「Refined(凛とした)」「Woven(つむぐ)」「Curiosity(跳ねる)」がテーマだ。昨今は「居心地のよさ」「満足感」「変化への期待」がオフィスに求められているのを受け、人の心に寄り添う要素を重視した。「リモートワークが広がり交流が減ったからこそ、オフィスで対面する際に好奇心をくすぐる一瞬の出会いを演出する場が求められています。2年前はコロナ禍が始まったばかりで、当時と今では人の気持ちも働き方も変化している。その差分を最新のITOKI SENSEでは表現しています。より前向きで、ウェルビーイングな考えを反映させました」(菊池さん)。
「ITOKI SENSE」から生まれたデザイン
「ITOKI SENSE」の活用例のひとつが、オフィスチェアの「torteU」。定番だった先代「torteR」の張地にグレーやベージュ、グリーン、ネイビーなどのナチュラルカラーが加わり、黒などが基本だったフレーム部分もナチュラルカラーを選べるように。無機質になりがちな背面の部分も粒子を加えてセラミック調の自然な風合いにこだわるなど、多様化する感性のニーズにも応える。
このほか、温かみのあるカッパー調(銅)のフレームのチェアや丸みを帯びた形の机を組み合わせ、オフィスにくつろぎ空間をもたらすシリーズ「MEET LOUNGE」も新たに発表した。プロダクトデザインを担当した加藤幸佳さんは、「オフィス家具は個人で使用する家具とは違い、働く環境やモチベーションを形づくるもの。機能を形にするだけではなく、商品特性とCMFが合っているかどうかが重要」と話す。「トレンドを踏まえ、フレームや張地などもリラックスできる肌触りとカラーを取り入れて、カジュアルでありつつ上質さも併せ持つプロダクトに仕上げています」(加藤さん)。
「ITOKI SENSE」導入後の最大の変化は、製品と空間のデザイナー、またはデザイナーとエンジニアの間に共通言語が生まれたこと。イトーキの独自性が明確になり、企業文化の確立にも寄与している。「インハウスだからこそ独自の定義ができ、イトーキならではの価値が生まれています。社内のデザイン組織も新卒・中途のハイブリッドで構成され、CMFチームも含め、時短で働くデザイナーが多数活躍するなど多様性を大事にした環境となりつつあります」とCMFチームの髙塩紗織さん。今後はより視野を広げ、「ITOKI SENSE」を活用する場面を拡張していきたいと考えている。
お問い合わせ
株式会社イトーキ
TEL:0120-16-4177
URL:https://www.itoki.jp/cs/