5段階のカスタマージャーニーと、顧客体験の5視点を掛け合わせる
鈴木健氏がリーダーとなるチームでは「CMO X EXPERIENCE」をテーマに議論を重ねてきた。リアルとデジタル、さらには新たに起こりつつあるバーチャル空間をも組み合わせて、いかに自分たちならではのブランド体験を実現するか。これまでにない価値を持ったブランド体験の設計について、異なる商材を担当するマーケターたちが議論する。
鈴木:私たちのチームは「体験」をテーマに議論を重ねて、カスタマージャーニーを元にしたブランド体験について深掘りを行ってきました。成果として、お客さまが商品を発見してから購入し、使い、評価して、再購入する、または離脱してしまうまでの「5段階のカスタマージャーニー」と、時間や空間、状況や社会との関わりや感情の起伏といった「顧客体験の5視点」を掛け合わせて、チームの皆さんの事例に合わせた細かいマトリックスを書いていただきました。できあがったワークシートを参照しながら、それぞれのブランドのどこに強みがあって、どんな課題があるのかを読み解いていきたいと思います。
まず、ニューバランスの例から始めると、我々が目指す顧客体験のゴールは「靴のフィッティング」にあります。これは単にサイズが合っているということではなく、買った後に履いていただいて、満足していただくことまで含めてのフィッティングです。足の計測は3Dスキャナを用いたものプラス、オフラインでは店舗スタッフによる個々人の足に合わせたコンサルティングを行っています。図表の黄色の部分、この総合的なフィッティングを軸とした体験がニューバランスの強みといえます【図1参照】。
【図1】ニューバランスの例
逆に、我々の抱える課題もまた、フィッティングを軸に生まれたものです。ニューバランスは「履き心地が良い」と言われますが、「履き心地」というのは言葉にしただけでは伝わりにくい、個人的な感覚です。また、スタッフによる丁寧なフィッティングは店舗に直接おもむかないと体験できないものですので、それ自体がハードルになってしまっています。これをどうにかデジタル技術で代用できないか、その方向を我々は模索しているところです。ただし、オフラインの強みを持っているので、商品の使用体験そのものを違うかたちで見せることで、体験価値の向上に繋げられると思っています。最初に店舗でフィッティングすれば、その時に得たデータを使ってEC経由で再購入ができますし、その際に店舗での購入体験を想起していただくこともできるでしょう。
可視化が困難な「おいしさ」 繋がりを体験価値に昇華させる
柘野:AKOMEYA TOKYOは、2013年に銀座に1号店を構えて事業をスタートさせました。2013年は「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録された年。当時は「日本の美味しい食を集めて、セレクトして販売する」という業態自体があまりなかったので強みだったのですが、似たようなアプローチをする企業が増えてきたこと、さらにコロナ禍によって試飲・試食等体験機会が提供しづらくなったことが直近の課題になりました。
まず今年の4月に、ミッション・ビジョンの再設定を行いました。ミッションに「日本の食の可能性を広げる」を、ビジョンに「世界に誇る”おいしい”の循環型社会」を作るということを規定し直しました。これは、日本の人口減少や契約農家の高齢化など、和食の存続に課題感を持ったところに端を発しています。
顧客体験のゴールとしては、「おいしいの輪」と称した生産者と生活者の繋がり、または生産者同士、生活者同士の繋がりをどうつくっていくかに今後は重点を置いていきたいなと考えています。我々は「おいしさ」を体験の中心に据えていますが、「おいしさ」というのは可視化して伝えていくことが困難なものです。現状、取り組めていることはお客さまのレビューやコメントをいかに次のお客さまに伝えていくかであり、使用体験を情報体験にどうやって昇華していけるかがポイントだと感じています。
尾澤:私たちKoala Sleepは、モノ自体の体験というよりも、我々の製品が家の中にあることの満足感、そして、購入したことや製品のことを知り合いと話すといった体験を通じて「幸せ」や「誇らしい」「ワクワク感」という気持ちを味わっていただくところにあります。マットレスの販売店としては後続ですし、オンライン販売を主としているので、「実際に試すことが難しい」という課題があるのですが、120日間のお試し期間を設けることでそのギャップを埋めようとしています。強みとしてはやはり、情報体験の部分がありますね。マットレスの上で飛び跳ねるという振り切った動画で製品の良さを伝えたり、オンラインに力を入れておりますので、お客さま同士の口コミによるフィードバックループを回すフローはある程度、確立できているかなと感じています。
各々の事業における課題を、他ブランドとの連携で補完する
今井:リラクゼーションドリンクの「CHILL OUT(チルアウト)」は、情報過多な現代社会、ストレスフルな毎日の中で、リラックスを促すことで、クリエイティブで優しい世界を実現することを目指しています。顧客体験のゴールとして設定しているのは、やはり、「味と爽快感」。脳科学で実証された高いリラックス効果によって、チルでクリエイティブなマインドセットが実感できます。飲用シーンのイメージが湧きづらいという課題がありますが、銭湯やサウナ、キャンプや音楽イベントでの販売やサンプリング、トライアルクーポンの配布によって「チルな空間での飲用体験」を提供。また、「もっとワクワクする使用体験」として、例えば、ストレス指数を可視化できる自販機をつくって体験に繋げてみたいと考えています。
鈴木:置かれる状況が変わることで、より価値が見えるケースもあると思います。Koala Sleepさんがオンライン中心だから空間的体験や状況的体験が弱いということも、今井さんの述べたような変わったシチュエーションがあればうまい連携ができるような気がします。各々の事業において課題とされている部分も、他ブランドと連携することでお互い補完し合えるかもしれない、という可能性も考えていきたいと感じました。
【MEMBER】
ニューバランス ジャパン
マーケティング部 ディレクター
鈴木 健 氏
I-ne
ブランディング本部長 執行役員
今井 新 氏
Koala Sleep Japan
マーケティングディレクター
尾澤 恭子 氏
AKOMEYA TOKYO
マーケティング部 部長
柘野 英樹 氏
【アーカイブ動画も公開中!】
本セッションの様子はアーカイブの配信も行っています。
詳細は下記記事を参照ください。
オフラインでのブランド体験の強み~オンラインでもどう再現できるか? (CMO X FORUM2022 アーカイブ)