困らない力。
いつか来るかも、と思っていたこの日がついに来ました。給料日です。それもただの給料日じゃなくて、給料がもらえない給料日。
前にも書いたとおり、こちらの給料は月2回、15日と月末にわけてチェック(小切手)で支給されます。いつもなら、自分の席まで経理の人がチェックを持って来てくれるのですが、今日はなかなか来ないなー、と思っているうちに昼が過ぎ、夕方になり、日がくれて…結局来なかった!オーマイ給料!こっちから取りに行ってみたら…すでに経理の人帰っちゃったっぽい!がーん!どうすんだ…家賃。どうすんだ…明日の米。ああ給料遅配。日本だったら大問題だろうけど、席が無かったあの日からはや2ヶ月。いつかこんなことも起きるかもね、とは思っていました。自分も成長したというか、困らない力(りょく)がずいぶん鍛えられたというか。まあなんとかなるでしょう。予定なんて、裏切られるためにあるんですし。
そして翌日。経理担当者が少し前に交代したとか、給料を配る担当の人が給料日に休んでたとか(ええーっ)、いろいろな誤解と手違いから、僕の給料の準備が出来てなかったということが判明。でも、遅くなったけど、翌日ちゃんとチェックがもらえました。まあ、なんとかなりました。
でも、こうやって悟りを開いたのも最近の話。ニューヨークに来て、最初のうちは、物事が予定通りに進まないことにストレスを感じていました。どうして、やると約束したことができてないんだあっ。どうして、一度言っただけじゃ伝わらないんだあっ、と。日本レベルのサービスや気配りを相手に期待してしまうと、やっぱりがっかりすることが多かったかもです。でも今では、何かあればその人にまた言えばいい、困ったことが起きても、交渉すれば必ずなんとかしてもらえる、と、思えるようになっています。困ると疲れるしね。
例えて言えば、日本の組織がPCみたいに正確な精密機械だとすると、こちらの組織は古いアメ車みたいなもの。うまく動かないところがあれば、自分でその部品を叩いて直せばいい。構造がシンプルだからすぐ直る。でも逆に日本は精密すぎて、何かがうまくいかない場合、どこが悪いのかすぐに分からなかったり、いろいろあって直すのに時間がかかったりするのかも。マザーボードごとえいやっと交換しちゃえたらいいのにね。
手違いといえば、ついこの間も、アメリカのChase銀行からオンライン振込をしたら、銀行が間違って同じ相手に3回続けて振り込んじゃったんです。引き落とし額3倍。どうやらその日に手続きした人みんなが3回振込されたらしい。ひどい!日本ならきっと新聞沙汰ですよね…。で、こっちはどうなったかというと、銀行CEOからすぐ一斉メール来た。メールのタイトルは、「WHOOPS – WE’RE SORRY!(おっと、ごめんね!)」。そしてお詫びに25ドルくれた。適当だ…。適当すぎるけど、まあ憎めない。
銀行員とタダメシとありふれた日常。
そんな、たまに給料がもらえなかったりもする、何が起きるかわからない毎日ですが、もう少しみなさんにこちらの仕事生活を感じてもらえたらなあと、後半は僕の一日の様子を簡単にご紹介してみます。
朝。だいたい7時起床です。仕事に行く前にスポーツジムで一汗流して…、なんて素敵な暮らしの人もけっこう多いみたいで憧れますが、僕はたいてい二日酔いなので、なんとかベッドから起き上がり、這うようにして外へ。今日は家賃支払の手続きがあるので、近所のChase銀行に寄ります。銀行の担当者はチャド。まず日本の銀行員を想像してください。はい、そうです、ピシッとした紺のスーツにネクタイ。そこにロングのドレッドヘアと、タメぐちと、オーバーなアクションを足してもらえると、それがチャドです。振込みの手続きをしつつ、「ユーは広告業界だろ?俺の車にどっかの企業ロゴをつけて広告したらこれ儲からないかな?クールなニュービジネスだぜ!どっかクライアント見つけてきてくれよヘイ!ミスターササキ!」と朝から陽気なチャドを適当にやり過ごして地下鉄駅へ。でもチャドはいい奴で、こっちがATMを使いに来ただけでも、わざわざブースから出てきてがっつり握手してくる奴です。サービスってシステムじゃなくて人間でできてる。
さてさて、地下鉄はけっこう混んでいます。よく、日本のラッシュは世界的に異常だ、みたいな言い方されますけど、こっちもかなりのもんです。駅の電光掲示を見ると、次の電車まで15分待ち、と。でもこれもあまり信用していません。なんとかなるでしょ。ほら、5分で来た。適当です。地下鉄では多くの人がスマートフォンでゲームしてたり、音楽を聴いていますね。スマホ普及率はかなりのものです。僕もせっせとなめこを抜いたり、最近のお気に入りの沢田研二を聴いたりしてます。地下鉄のリズムに合うぜジュリー。
会社はドアツードアで25分、Tribecaです。オフィスですれ違う人は誰もがにっこりと挨拶してくるので、自分も、まだ慣れないけどにっこり。これに慣れて東京戻るとやばそうです。だって、日本でニヤニヤしてるおっさんが近づいてきたらちょっとやだ。ほら想像してみよう、あの部長のニヤニヤ。でもこれはきっとお互い「敵じゃない」ことを表す西洋文化なんでしょうね。そうこうしているうちに、iPhoneのカレンダーにポンポンと打ち合わせスケジュールが届きます。勝手に打ち合わせを入れる通知がポンポン。予定していた打ち合わせのキャンセル通知もポンポン。えー!どうしてこっちの人って打ち合わせをすぐキャンセルするんだろう。適当すぎる。頼まれた仕事も、よく立ち消えたり、うやむやになったりもするけれど、それでも仕事はまわっていきます。
ランチはだいたい外で食べます。デリバリーを頼む人が多いオフィスもあるみたいですが、うちはセキュリティが厳しいので、ビルの下まで取りに行かなきゃいけない。ならばまあ食べに行ってしまおうか、と。このところ仲間うちで話題なのが、MasterCardが毎週提供していた、Priceless New York / Food Truck Feast。FacebookでMasterCardのファンになるか、ツイートすると、タダで著名なFood Truckのランチがもらえる、というキャンペーン。くんくん、おいしそうなソーシャルメディア活用事例のにおいがするぞ。こっちではFood Truckが流行っているそうで、いろんなところにおいしいトラックがやってくるのですが、それとFacebookを組み合わせたこれは、クチコミ的に少しは盛り上がるのかなっ、と思ったのですが、意外とそうでもないかも?まあ、タダメシとあってTruckはすごく並んで混んでるんですが、ファン数はそんなに増えてない。ソーシャルメディア先進国もいろいろ大変なんだなあ、と、実施側の苦労がちょっと見えたり。明日は我が身じゃ。がんばらなきゃ。
なんだかんだと1時間以上Truckに並んでしまったので、そそくさとオフィスに戻ってまた打ち合わせ。ミーティングでは僕も、ついついみんなにあわせてオーバーにアクションとかジェスチャーするようになってきました。即席ルー大柴。真似しやすいところから似ちゃうなあ。そしてなんだか、東京に比べるとあまり仕事が進んでないような気がして不安にもなるのですが、本日はこれで終了です。基本、こっちの人たちは仕事にメリハリがあって、大事な局面では遅くまで残ってがんばるけど、無駄に残業はしないでさっさと帰ります。付き合い飲みもない。なので、つい飲みたい僕としては日本人な先輩たちと飲みに繰り出すわけです。そしてまた、二日酔いの朝に戻る…と。
さて今回はちょっと長くなったので、このへんで。次回は、苦労している英語のお話にしようかな、それとも魅惑のアルゼンチン出張のお話にしようかな。ニューヨークはサンクスギビングを迎えて、年末ムードがシャンシャンシャンとソリに乗って、すぐそこまで来ています。
佐々木康晴「NYクリエイティブ滞在記」バックナンバー
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- 第2回 君は、ニューヨークの女子高生を泣かせることができるか。(10/13)
- 第1回 ニューヨークに転勤して初出社したら、席がなかった。(9/29)