オプトが採用を強めている。「広告産業のデジタルシフト」 を掲げ、業界変革のパイオニアとしての立ち位置を明確にしたい考えだ。
同社が中核を担う広告事業自体は堅調という。しかし、「改めて大きく成長するには、再びブラックボックスを壊さなければ」と話す人物がいる。インハウス事業部の伊藤弘明部長だ。
「広告会社を、広告主企業や、ひいては日本全体の経済を明るくする存在にしたい。そのためには、現在の広告会社のビジネスモデル自体を変革し、創造していく姿勢が極めて重要だと考えています。そして、それはかつてのオプトが一度通った道でもあります」(伊藤氏)
念頭には、2000年に提供を始めた広告効果測定ツール「ADPLAN(アドプラン)」がある。
「それまで広告効果はいわばブラックボックスの中にありました。しかし『ADPLAN』という測定ツールを打ち出し、市場に選ばれてきたことで、『マーケティングとは測定可能なものであり、数値に基づいて課題を解決していくもの』という常識を作り上げられたのではないかと考えています。それから二十数年が経ちましたが、オプトは再び、新しい常識を打ち出していく段階に来ていると感じます」(伊藤氏)
オプトの祖業はFAXによるダイレクトマーケティングだ。しかし1994年の創業からまもなく、国内でもインターネットへのアクセスが一般消費者でも可能となった。たとえば96年には「Yahoo! JAPAN」がスタートし、同年にインターネット広告代理店が生まれる。ネットの力を目の当たりにした創業者で現デジタルホールディングス代表取締役会長の鉢嶺登氏がネット広告への参入を決めたのは97年だった。
96年が日本のネット広告の夜明けだとするなら、そこから約30年が目の前に来ている。ネット広告の中だけでも大小さまざまな変化や栄枯盛衰があった。
「特に直近の数年を見ても、広告産業・取り巻く環境は大きく様変わりした部分があると思います。私も含め、プレーヤーのほとんどはがむしゃらに頑張ってきたのではないでしょうか。デジタルマーケティングにも習熟してきた、市場も拡大している、しかしどこかコモディティ化しているのではないか。真の成長を目指すには何か突破口が必要だ――そう感じている方、この状態から自分たちが何か変えなくてはいけない、そのように感じている方と、共に活動できると嬉しいと考えています」(伊藤氏)
伊藤氏が率いるインハウス事業部は、オプトの中でも新機軸のひとつと言える。
ゼロから市場を作り上げる
インハウス事業部は、その名のとおり、顧客企業のマーケテイング業務を内製化、そして、顧客のマーケテイング活動の自走化に携わる部署である。時には、顧客企業の社内に常駐するケースもある。広告はもちろん、CRM基盤などの整備も手がける。クライアントの広告費用を見直した際、自社の出稿分をも検討対象にし、特定セグメントでは広告効果が伺えないという示唆を出したケースもあるという。聖域を設けずメスを入れたことからは本気度が伺える。むろん、クライアントからの信頼も高まった。
取引先に対して、常駐という手段も取りながら、その事業を成長させる上で、同じレシピはない。伊藤氏も「そもそも広告会社が、このような既存広告事業と利益相反の可能性さえある事業をすること自体の市場はまだなく、ゼロから作っている途上。生みの苦しみに近いものもあるが、むしろやりがいがある」と話す。
オプトでは営業部長をはじめ、クリエイティブやコンサルティングの部署も率いた伊藤氏が、前例のないインハウス事業部のリーダーを引き受けたのには、ある理由があった。「広告会社は、本質的にはクライアントの成長エンジンでなければならない」ということだ。そして、現在、インハウス事業に携わって、日々強くなる思いがある。
「国内企業のほとんどを占める中小企業では、マーケティングが浸透していません。しかし、BtoB、BtoCを問わず、ビジネスのすべては顧客接点の中で生まれています。マーケティングを考えないこと自体がある種のリスクになってきているのです。自社でマーケティングできる企業を増やしたいと考えています」(伊藤氏)
営業力だけ、技術力だけ、ではなかなか厳しくなってきたのではないか、というのが伊藤氏の見立てだ。技術を生かし需要に応える商品を開発し、より買われやすく、営業しやすくし、新たな販路や顧客を開拓して……という活動は、たしかに不可欠と言える。
「しかし、広告産業においても情報の格差が生まれており、大規模な広告を出稿する企業には有益なマーケテイング情報・ナレッジが届くが、そうでない企業には届きにくい構造になっている、ということです。そこには情報の非対称性があり、オプトがこれまで培ってきたデータが非常に役立ち、喜ばれることもあります」(伊藤氏)
「伴走者にして第三者」という立場が役立つこともある。
「担当者クラスではマーケティングが重要だと考えている方は少なくありません。しかし、基本的に緊急度の高いアクションに追われていて、中期的な視点で、いまから始めておくべきことの重要度を社内にうまく伝えられていないこともあります。たとえばCRMは重要度が高いのですが、一朝一夕には構築できません。先送りされがちなところを、私たちが介在することで、実行に移していける、ということもあります」(伊藤氏)
未来に通用するサービス力
インハウス事業に求められるスキルは、どのようなものか。
「問題を発見し課題を設定・整理することが求められます。さまざまな背景、立場の方がいる中で、思惑を理解し、やるべきことを方向づけていくことです。それぞれの方に対する示唆だけでなく、具体的な実行の支援も行います。一歩引いて利他的に、やるべきことを冷静に捉えて行動できるということが必要です」(伊藤氏)
マーケティングの枠組みを知っていたり、クライアントワークの経験があったりというのも前提となる。インハウス事業部でも採用は進めているが、まずはデジタルマーケティング関連から取り組んで、インハウス事業にという道もある。デジタルホールディングス全体でも、広告事業が擁するデジタルマーケティング人材を片翼として、新しい価値創造を通じて産業変革を起こし、社会課題を解決したいというパーパス実現への想いがある。
「成果を出したい、自分が結果を出すにはどうすればいいかということを、自らを主語にして動くことが好きな方は、とてもマッチすると思います。各ステークホルダーをプロデュースしていく上で、まず自分自身を率いる力、セルフリーダーシップが必要です。そうすると、周囲にも伝わるんですね。企業でも、どこかの企業が頑張り始めると、ほかの企業にも波及する。人も同じだと感じます」(伊藤氏)
「広告は、究極的には成果報酬になっていく」というのが伊藤氏の考えだ。クリック課金のネット広告が象徴的だが、「成果によって広告料が決まるとき、広告会社は何を提供するかというと、サービスでしかありません。サービスとして提供できる価値を鍛え、拡大していくことが、広告会社にも、そこで働く個人にも求められているのではないでしょうか」(伊藤氏)
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