想定ターゲットと“理想の”配信セグメントにズレ
ある商品やサービスの広告を見せたいグループ=ターゲットセグメントは、通常、その商品・サービスの購入者や利用者を想定する。年齢や性別、居住地、所得、職業といった、いわゆるデモグラフィック属性はもとより、ライフスタイルや価値観、趣味・嗜好といった属性なども条件として定めるケースは少なくない。
しかし、こうして定めたセグメントに向けて広告を配信する際、次のような課題に突き当たってしまうことがある。
・コンバージョンなどを基に配信先を最適化していった場合、反響のよいセグメントが一体どのような人物像の持ち主なのかが分かりづらい
営業として、実際にセグメント提案をすることも多いというヤフーの赤尾関健氏は、「各プラットフォームやメディアが規定しているセグメントは、より広く、多くの広告主が使える汎用的なものが用意されています。一般的に、条件を調整して、広告主が望む人物像を模索することになりますが、その人物像に近づけるために時間がかかったり、主観的な解釈によるぶれなどがあったりして、希望のセグメントと100%一致するケースはなかなかないのではないでしょうか」と話す。
また、自社で保有するデータ=ファーストパーティデータが生かしづらい場合や、そもそもターゲットセグメントを定めづらいという課題もある。
・獲得するべきターゲット層を規定しても、その根拠を説明できない
・機械学習などを活用して生成したセグメントについて、社内で説明しづらい
・類似拡張の精度を維持したまま、広告配信対象の量を担保することが難しい
ヤフーでデータ活用を推進する榮枝雄史氏もこう話す。「企業側が顧客データを保有していても、生活者の断片的なデータに留まる事が多いのではないでしょうか。そのため、企業が運営するサービスなどの外で、各顧客がどういった行動を取っていて、どんなことに興味を持っている、といった『人物像』まで把握することは難しいのではないかと思います。
加えて、ターゲットとしたい顧客層を選定し、その顧客層に類似する顧客層に拡張して広告配信を行いたいときも、企業で抱える顧客数に限りがあったり、類似顧客層を見つけるために用いるデータ量が乏しかったり、といったこともあるかと。仮に全ての条件を満たし、機械学習などの手法を使って拡張ができたとしても、広告のプランニングや配信に生かすうえで、出てきた結果に対する『読み解き』と『説明力』が求められます」
こうした課題を解決しよう、というのが、「Cocoon」におけるヤフーと博報堂DYグループの取り組みだ。「Cocoon」では分析にとどまらず、セグメント設計から、ヤフーのメディアを通した配信までをシームレスに行えることが強みだ。
IDベースで連続性を持った分析が可能に
「Cocoon」は、ヤフーのデータと外部データを統合的に分析し、広告配信に生かすことができる業務委託データ分析環境だ。検索やEコマースの購買、キャッシュレス決済「PayPay」による購買データなどヤフーが持つデータと、博報堂DYグループが持つテレビの実視聴ログデータなど、あらゆるデータをかけ合わせ、さまざまなタッチポイントにおける消費者の行動が分析できる。(活用データは利用者の同意取得済みのものに限る。また、分析に携わるのも限られたスタッフとなっている)
「さらに、お客様が持つ顧客データをかけ合わせていただくと、既存の購入者層がどんなきっかけから購入や成約に至ったのか、どんな興味関心を持っているのか、といった分析が可能になる。そこから、ターゲットセグメントの『正解』を探すことが容易になります」(博報堂 データドリブンプラニング局の大池寿人氏)
無論、成果分析においても、データを統合すれば、成果にどれくらい寄与しているかの確認が可能だ。クッキーレスの潮流の中で、分析についても施策それぞれで分断しがちだが、「Cocoon」での分析では「Yahoo! JAPAN ID」をベースにしているため、継続施策において連続性を持った分析ができる。
アンケートやPayPayを基にセグメント構築も可能に
また、「Cocoon」は、商品やサービスがターゲットとすべきセグメントを割り出す段階から活用することもできる。
ひとつは、アンケートデータを使用する方法だ。
ユーザー同意のもとで「Yahoo! JAPAN ID」が紐付いている調査パネルに対してアンケートを実施。その回答傾向を基に、セグメントを設定する。新商品で、まだ購買実績がない場合に、「Cocoon」を使ってこの手法を取ることが可能だ。
「既存の商品でも、マーケティング戦略の立案時に下敷きとした意識調査の結果と、同じターゲットセグメントを指定するために、別途アンケート調査を行い、戦略ターゲットをID単位でセグメント化し、配信したケースがあります。この場合、機械学習を経て重み付けをして配信した。結果、これ以外のセグメントと比較してCTR、CVRが2倍に至りました」と、この事例を担当した博報堂 DXソリューションデザイン局の垣屋有葉氏が語る。
「アンケートの設計は我々広告会社の得意分野ですが、その結果をどう配信までつなげるか、という部分は、ヤフーなどプラットフォーム側の協力がないとできません。また、これまでのソリューションでは、配信以前のプランニングを精緻にするほど、配信ボリュームが小さくなってしまう、といったことが往々にしてありました。しかしヤフーの膨大なユーザー数であれば、対象を拡張するときも規模を保った配信ができます。精緻なプランニング、そして配信と結果までが一本でつながった事例です。このように、コンバージョンデータがない商品の場合は、「Cocoon」によって『正解を作りに行く』ことができます」(博報堂・垣屋氏)
もうひとつは、PayPayの購買データからセグメントを構築する方法。PayPayのキャンペーンを通じて、キャンペーン購買者IDを蓄積。そのIDを基に分析し、セグメントへの理解を深めた上で、広告を配信することが可能となる。
PayPayを使ったキャンペーンは繰り返し実施されるケースが多く、各社のキャンペーン購買者IDは「Cocoon」に蓄積されていく。その購買者IDを起点に広告戦略と配信セグメントを磨き上げ、クリエイティブ内容もそのセグメントに応じて作成し、ヤフーで配信につなげる、といったことにも今後、取り組んでいくという。
消費者の「行動」から「意識」を推察
それでは、今後「Cocoon」はどのように進化していくのか。文字通り、消費者のさまざまな行動を可視化していくことが、「Cocoon」強化のための道筋となる。
「『Yahoo! JAPAN ID』をベースに、消費者の行動からどんな意識を持っているかを推察し、プランニングやクリエイティブに生かすこともできるのではないかと考えています。従来の広告会社は、意識から行動をデザインすることが主眼にありました。しかし、それとは逆に、行動のデータベースから効果的な伝え方を分析し、発信することで、受け手側の意識がこれまで以上に変化することもあると思う。そういったところにも可能性を感じます。
そして、PayPayから得られる購買データで『店頭でその商品を買った』というのが分かるということは、消費財メーカーの方々にとっては、ある意味『新しい正解データが生まれた』といえる。マーケティングデータの部分も、広告配信の部分も、「Cocoon」のデータを使って改善していきたいです」(博報堂・大池氏)
ヤフー榮枝氏も、「PayPayが象徴的ですが、消費者のオフライン購買データがわかるようになったことは、企業のマーケティングへの貢献において、大きな追い風です」と話す。「さらにヤフーとしては、これまで以上に、生活者について理解できるプラットフォーム、メディアになっていかなければいけないフェーズに来ていると思います」
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