「ACC賞」でおなじみの「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」(一般社団法人ACC主催)。2017年開設の「クリエイティブイノベーション部門」は、スタートアップや大企業のイノベーティブな取り組みを表彰する。構想段階のプロジェクトや研究開発段階の案件も審査対象としている点が特徴だ。
2022年11月に発表された第62回ACC賞で、同部門のメディアパートナーに加わった当サイト「AdverTimes.」が選ぶ「アドタイ賞」は、パナソニックの「Carbon Pay(カーボンペイ)」が受賞した。
日常生活による温室効果ガスの排出量をIoT家電などで可視化し、脱炭素社会の実現を目指すサービス構想で、生産から廃棄・リサイクルまでのCO2の総排出量を示す「カーボンフットプリント」の考え方を取り入れ、生活のあらゆるシーンでCO2削減につながる取り組みを促していこうというものだ。
主導したのはパナソニック デザイン本部にあるデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」のほか、マッキャンエリクソンの事業共創組織であるマッキャンアルファらの協力を得た。パナソニックの井野智晃氏、鈴木慶太氏、マッキャンアルファの吉富亮介氏に一連のプロジェクトについて聞いた。
日常の中に環境意識を高める接点をつくりたい
――「Carbon Pay」を企画した「FUTURE LIFE FACTORY(FLF)」とはどんな組織ですか。
井野:未来のくらしのビジョンを提案することを使命として、さまざまなアイデアからプロトタイプをつくって具現化して世に問う活動を行っています。デザイナー2人、デザインエンジニア3人の計5人の小さな組織です。パナソニックが手掛ける領域や「事業につながるか否か」にはとらわれない提案をしています。
――「Carbon Pay」は2021年にプロジェクトが立ち上がり、2022年3月にお披露目したとのことですが、そもそも発案の経緯は。
井野:「Carbon Pay」は、自分のCO2排出量を把握して、目標より排出しすぎた際にはその量に相当する金額をCO2削減に取り組む団体や活動に寄付できる構想です。
カーボンオフセットともいわれますが、当初からこのようなサービスを考えていたわけではありませんでした。
コロナ禍で新しい働き方が浸透して価値観も一変しましたが、「世の中がこれだけ変わっているのに、自分という人間は何もアップデートされていないな」と感じていました。特に「環境への意識を高めるように変わらなきゃいけない」と考え、CO2を減らすための接点を日常の中につくり出すデザインをしてみようとスタートしました。
食品のカロリー表示のようにカーボンフットプリントが表示される未来
――2022年3月に実施した一般向けの展示会「Carbon Pay展」では、エアコンのリモコンやコーヒーメーカーなどの家電に「Carbon Pay」のシステムを組み込んだものや、家全体のカーボンフットプリントを表示したアプリのプロトタイプを展示しました。これらのデザイン設計の狙いは。
井野:カーボンクレジットを扱うサービスはここ数年で数多く出ています。私たちは、当初からそうしたサービス想定していたわけではありませんでした。むしろ「日常を変えたい」という課題やコンセプトから出発しているので、日常の生活動線の中にカーボンフットプリントを意識させるデザインを検討しました。当初からカーボンクレジットを意識していたならば、他と似たようなプロダクトになっていたはずです。
すでにあったかのようにくらしの中でカーボンフットプリントを目にすることができ、その情報を使ってどういうくらしをデザインするかが「Carbon Pay」のポイントです。そのため、新しいものをデザインするのではなく、リモコンやコーヒーマシン、オーディオといった日常的に目にする家電に自分が出したCO2排出量が表示されるようにしました。
ゆくゆくは、カーボンペイボタンを押すことで家電やアプリから支援先へお金が送られるようになることを想定しています。コーヒーが好きな人であれば、毎日一杯飲むコーヒーを飲むことを通して「今日は出しすぎたから、カーボンペイしよう、電気代を抑えよう」と意識が変わり生活も変わっていく。そのようなことが起こったら面白いなと思いました。
吉富:スーパーやコンビニに置いてある食品には、ほぼすべてカロリー表示がありますよね。しかし、20年前にはそんな表示はなかった。同様に、もしかしたら5年先10年先には様々な商品に「これを作るにはどれぐらいCO2が排出されたのか」がわかるカーボンフットプリントの単位「kgCO2e」が表示されることが当たり前になるかもしれない。そんな未来を想像し、FLFの皆さんと議論を進めました。
パナソニックの家電領域との連携も
――「Carbon Pay展」の反響はいかがでしたか。
井野:FLFはデザイン組織ということもあって、これまで開いた展示会ではクリエイティブ系の方が見に来ることが多かったんです。今回の「Carbon Pay展」は一般的な企業の方で、「カーボンクレジットやCO2排出量をどう下げていくか、といったサービスや事業を考えなくてはいけないというお題が上から降りてきたんです」という方たちが多く見に来てくれました。
鈴木:大学生などの若いお客さんともお話しする機会が多くあったのですが、やはり環境意識が高くて私たちよりもアクションができている人たちが多いという印象を受けました。これまで、若い方たちの環境に対するアクションは、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんのように、強いメッセージで訴えかけて盛り上げていくといったイメージがありました。
しかし、展示会のトークイベントでお話した2人は、環境問題に取り組むことを1つのイベントとして「楽しんで盛り上げてやっていこう」というスタンスでとても親近感が湧きました。
「Carbon Pay」のコンセプトも、節約生活のようにCO2排出量を抑えるために切り詰めて我慢するくらしではなく、無理せずに自分たちの生活も楽しみながらいかに環境にも貢献できるくらしにしていくか。その考えとも通じる部分があったのは良い発見でもありましたね。
――「Carbon Pay」のリリース目標や、今後の展望は。
井野:今回はあくまでコンセプトの提案でした。次ステップでは、プロトタイプの状態で一般の人が体験できる状態にする「未来実装」を今目指しています。本格的な社会実装に向けてはまだまだハードルが高いですが、カーボンニュートラルを目指す2050年の目標を見据えると、2025年頃には一度アプリをリリースできればと考えています。
カーボンフットプリントをカロリー計算のように表示するアプリは、もう既にレッドオーシャンになりかけています。しかし、「日々の行動変容を起こす」という観点では、家の中で使用する身近な家電を作っているパナソニックは、大きなアドバンテージになるはずです。社内連携も進めていきたいです。
今後、カーボンフットプリントの表示が当たり前になったとき、すでに欧州の方では広がりつつありますが「価格は高くてもカーボンフットプリントが少ないものを買う」という消費者の変化も起きてくると思います。フルリサイクルの家電や商品を買うことで「Carbon Pay」できるといった広がりも提案していきたいですね。
吉富:僕たちは、「Carbon Pay」がパナソニック独自のものではなく「広く世の中にこの考え方が広まった方がいいよね」という気持ちで立ち上げたものです。パナソニックの家電領域以外の様々な業種とも連携していきたいですね。
スタッフリスト
- 企画制作
- Panasonic, FUTURE LIFE FACTORY+McCann Tokyo, McCann Alphα+Blue Puddle+weMORI+パラゴン
- Project Owner+D
- 井野智晃
- Project Owner+Design Engineer
- 鈴木慶太
- CD
- 吉富 亮介
- AD+企画
- 佐藤ねじ
- TD
- 泉田隆介
- I
- あけたらしろめ
- 企画+アドバイザー
- 清水イアン
- Pr(MOVIE)
- 酒井剛
- PM(MOVIE)
- 原島敏郎
- 演出r(MOVIE)
- 津田陽
- Motion Design Pr
- 前田光朝
- Product Development(Audio)
- 稲生雅裕、溝端 友輔
- Space Designer
- 獅子田 康平