山陰中央新報社は2022年5月、創業140周年を迎えた。5月から11月にかけて、新聞配達員にスポットを当てたシリーズ広告を発表し、「新聞」の役割を見つめ直す内容とした。
配達現場のありのままを引き出す取材
山陰中央新報社は140周年を迎えるにあたり、社内の各局でさまざまな取り組みを実施。その中でも、新聞のセールスなどを行う読者局は「新聞配達員にフォーカスを当てたい」という想いで、新聞広告やCMを制作した。このような場合、スポットライトが当たるのは「記者」「デスク」など取材や記事の内容に関わる人たちだが、今回のメインは新聞配達員に。
山陰中央新報社のある島根県などの山間部では特に高齢の配達員が多く、若い配達員の担い手が少ない現状がある。休日が少なく朝が早いなど仕事内容がハードでリタイアしていく人も多く、配達員の人材獲得と、社内での啓発という目的から企画された。
5月1日から11月27日までの全15回にわたって掲載された新聞広告は、3月から取材を実施。新聞広告の掲載回数は未確定のまま、まずは現場で働く人たちの声に耳を傾けることから始めた。
「山陰中央新報社の方に全ての配達コースを教えてもらい、ひたすら取材をして回りました。じっくりとお話をして、皆さんに心を開いてもらえるよう努めました。最初は配達員の方々だけの予定でしたが、最終的には読者にまで焦点を当てる内容としています。1~2 時間の取材の中で内容を絞るのは難しかったですが、とにかくシンプルに、コピーや文章には取材で感じたことをそのまま込めました」(クリエイティブディレクター/コピーライター 日下慶太さん)。
取材を進める中で、配達員の生きざまや丁寧な仕事ぶり、そして新聞そのものだけではなく「気を配っていること」に気付き、写真と文章にはその人らしさを出すことにこだわった。15 回にわたる新聞広告では、新聞がポストに届いたところから、配達員、販売所所長、印刷会社、デスク、記者、そして住民へと遡る構成となっている。
山間部であるために車が1 台やっと通れるぐらいの場所もあり、取材やロケハンも容易ではなかった。CM の監督を務めた後藤章治さんは、次のように振り返る。
「昼間にロケハンで撮影する場所の目星をつけて、新聞を配達する夜から朝の時間帯にかけても実際に現場を見に行きました。全てがマジックタイムで、島根の景色と配達員の方々の気を配る姿に感動しながら、島根らしい画になる風景を探しました」。
CMには棚田や漁港など、島根ならではの風景が盛り込まれている。“人が配っている”ということを際立たせるために、配達員以外の人や車などは一切映らないようにした。過度な演出はせず、美しい風景とひたむきに働く配達員のみで構成される映像に、中納良恵さんのナレーションを重ねた。
「中納さんの声が入った瞬間、スタジオに魔法がかかりました。その声によって、ナレーションというよりはまるで詩のようになったと感じています」(後藤さん)。
読者とのコミュニケーションを生む
配達員にスポットを当てた今回の施策だが、社内でも若い社員が「新聞」という媒体の存在意義に対して自信を喪失している現状もあった。
「展開後、実際に配達員の皆さんに対して読者の方から感謝の投書が届きました。11月13日掲載の新聞広告は、その投書を送られた読者の方のお話を基に作成しました。今後さらに若い人にも、このような読者とのコミュニケーションが広がっていけばいいなと思っています。また、今回取り上げた方々には喜んでいただき、配達員や社員の方が今まで以上に、自分の仕事に誇りを持てるようになったとの声もあるようです」(あしたの為のDesign アートディレクター 布野カツヒデさん)。
新聞広告は、1月13日に発表された日本アドバタイザーズ協会主催の「JAA広告賞消費者が選んだ広告コンクール」の新聞広告部門でグランプリを受賞。2022年度末には、CMの続編の展開を予定している。
スタッフリスト
- 企画制作
- あしたの為のdesign
- CD+C+撮影(新聞)
- 日下慶太
- 撮影
- 鈴木健之(15段:5/1・30 段:5/8)、武智正信(30 段:11/27)、長良将史(CM)
- AD
- 布野カツヒデ
- Pr
- 法正久美子
- 演出
- 後藤章治
- NA
- 中納良恵
- 掲載
- 山陰中央新報(5/1・5/8・6/12・6/26・7/17・7/24・8/7・8/14・8/28・9/11・9/25・10/23・11/6・11/13・11/27)
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