情報処理推進機構(IPA)はこのほど、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業の多くが、売上増加にかかわる成果を「計測していない」とする調査結果を発表した。広告会社は企業のDXをサポートする事業の立ち上げや強化を進めているが、顧客企業側の成果測定への関心や、準備状況との温度差が伺える。
売上増より利益増――。DXに取り組む企業や、成果があるとする企業自体は増えている。しかし、DXの成果を評価する指標として最も多かったのは、「コストの軽減率」で計64.0%だった。次いで、「従業員の勤務時間の短縮」が61.9%、「製品の不良率やサービスの障害発生率」が52.7%だった。「消費者の行動分析」や「顧客体験への影響」「アプリのアクティブユーザー」などは63%前後が「評価対象外」とした。データ活用による「売上増加」効果を尋ねた設問でも、50%前後が「成果を測定していない」と回答した。
システム構築や導入、ITコンサルティングなどを含む情報サービス業の売上高は、2022年1〜12月で約16兆円。広告業の売上高の3倍近くにまで達する。新市場として食指を伸ばす広告会社が相次いでおり、電通グループの電通デジタルは2月27日、企業の顧客接点の変革やデータ活用などを担う新組織を立ち上げたと発表した。200人規模でスタートし、5年後には400人体制に増強する。
博報堂DYグループも20年にDX支援の組織を設置したほか、この2月にも地方の自治体や事業者向けにeコマース事業の立ち上げや人材教育を支援する取り組みを始めた。ネット広告系でも、サイバーエージェントやオプトなどは20〜21年にかけ、子会社を立ち上げている。
既存のDX支援は、書類やプロセスなどのデジタル化や業務効率化などコスト削減が主目的となっている。一方、広告系が優位点に掲げるのは、ECや実店舗、広告の最適化などによる売上への貢献だ。しかし、IPAの調査では、アナログや物理的なデータのデジタル化や、業務効率化による生産性の向上における成果の実感は増えているものの、「新規製品・サービスの創出」や「ビジネスモデルの根本的な変革」はまだ低い状況だ。
DXを担う人材像があいまいになってしまっている課題も浮き彫りになった。DX人材像を「設定していない」とする企業は40%で、「設定するかを検討中」の回答を合わせると、50%以上が未設定状態にある。人材像と表裏一体なのが評価基準だ。80%近くの企業が、DX人材の評価について、「基準がない」と答えた。
半面、枯渇感は高まるばかりだ。DX人材の量、質ともに、「大幅に不足している」が21年から約20ポイント伸び、50%前後に達した。「やや不足」を合わせれば8割を超える。社内外からの要請が高まる中、実務を切り盛りする人手の不足や、具体化への検討に苦慮している状況も伺える。